食生活
お菓子を小さな口で味わうように食べるユノを見て、僕も嬉しくなる。
でももう時計を見ると16時。
あんまり食べると夕飯が食べられなくなるから、続きは夕飯を食べ終わってから……
「……ぁ」
そこまで考えて、僕はあることを思い出した。
「……? どうしたの?」
「いや、その……そういえば思い出したんだけど……ユノ……ご飯って、どうしてるの?」
「あ、あー……えっと……ちゃ、ちゃんと食べてる……よ……」
ユノが口ごもり、目線が泳ぐ。
「いや、実は本当はウララさんに何となく聞いてるんだけど、なんかあんまり実感がなくて……念の為……」
「……! そ、そ、そうなんだ……じ、じゃあ、隠しても仕方ない……ね……」
ユノは少し項垂れて、手のひらを上に翳した。
その次の瞬間、ユノの手に鶏肉がテレポートしてきた。
「こ、こうやって、冷蔵庫の中のものをテレポートして……」
ボウッ!
ユノの手に乗っていた鶏肉が、一瞬にして炎に包まれる。
しばらくして現れたのは、表面が少し焦げたホカホカのチキンだった。
「こんなふうに魔法を使って焼いて食べてるよ……」
「……」
実際目の当たりにしてみると、本当に信じられない食事をしている……というか、実際に見るまでは信じたくなかった。
「冷蔵庫の中身をテレポートできるなら、冷蔵庫に料理を入れてもらってテレポートする……ってことはできないの?」
「え、えっと、て、テレポートされるものって、冷蔵庫の中のものからランダムに選ばれるから……り、料理を都合よくポンってテレポートできなくて……」
「……なるほど」
魔法も別に万能じゃないんだな。
何かしらの制約があるのか。
「ひ、ひどい時は3食連続で豆腐っていうことがあって……で、でも、ち、チキンは当たりだね……これは今日の夕飯にしよ……」
「……」
──こんな食生活を3年間……
部屋から出てないのにあまり太っていないのは、この食生活が原因だな。
ユノを部屋から出す云々の前に、まずはこの生活を少しでも直さなきゃ行けないかもしれない。
「じゃあ、ウララさんに作ってもらおうよ」
「え?」
「ほら、僕がこうして来れるようになったんだし、ウララさんに作ってもらってご飯を運んでくるよ」
これからは魔法の練習以外でも、可能な限り来よう。
ユノの食生活のためにも。
「なにか食べたいもののリクエストある? ウララさんに伝えるけど……」
僕が立ち上がりながらそう聞いた瞬間……
「ちょ、ちょっと待って!」
「……!」
ユノが、いきなり大声を出して止めた。
ユノの大きな声を、久しぶりに聞いたような気がする。
少しだけ、昔のユノに戻ったかのような……そんな感覚。
「……ぁ……ご、ごめん、きゅ、急に大きな声、だして……」
「……ううん、大丈夫だよ。それよりどうしたの?」
「え、えっと……そ、その……」
ユノは言い淀む。
口を開きは閉ざし、何度も繰り返してようやく言葉にした。
「その……ママって、わ、私に対して怒ったりとか……して、ない、かなって……?」
「……」
この質問に対して、「どうして?」と聞いても良いのだろうか?
それはウララさんが聞かないでほしいと言った「引きこもったワケ」に該当はしないだろうか?
「え、えっと……! わ、わたしってずっと引きこもってて……な、何年間も顔を出してないから……さ、流石にママも怒ってるんじゃないかなー……って……」
──なるほど……まぁ、もっともらしい理由ではある。とってつけたような感じだけど……
「怒ってないと思うよ」
「そ、そう……」
僕がそう言うと、ユノは安心したように頷いた。
「じ、じゃあ……お願い、します……」
「うん、なにがいいとかある?」
「あ、じゃあ……」
ユノのリクエストを聞いて、僕は部屋を後にした。
「……」
『その……ママって、わ、私に対して怒ったりとか……して、ない、かなって……?』
ユノの言葉で、昨日からずっと疑問に思っていたことを思い出す。
僕はポケットからバリアキャンセラーを取り出し、見つめた。
疑問に思っているのは、ウララさんのこと。
ウララさんは3年間、ユノと顔を合わせていないと言っていた。
でも、ウララさんはバリアキャンセラーを持っていた。
つまり、ウララさんは『ユノに会おうと思えばいつでも会えた』のだ。
でも、バリアキャンセラーを使わずに会っていない。
これはなんでだ?
自分の娘があの状態なら、親なら……特にウララさんのような人なら、絶対に力になろうと、どうにかしようと会おうとするはず。
ここから導き出される仮説は……
「……なにか、あったのか? 2人の間に……」
2人の間に何か諍いがあったのであれば、ウララさんがユノに会おうとしないことも、先ほどのユノの『ウララさんがユノに対して怒っていないか?』という確認も説明がつく。
「……これは聞いても良いものかなぁ……?」
僕は新しい疑問に胸をざわつかせながらも、階段を降りた。




