第二十五話
修学旅行当日 朝7時半
私は集合場所である横川駅に向かうため電車に揺られるのであった。
横川駅はこのあたりで唯一新幹線が停車する駅なのだが、家からはちょっと遠い。本当は興味のないメイクを済ませるために仕方なく早起きして、六時台最後の電車に飛び乗った。メイクのために睡眠時間を削れる女子高生の習性は見習いたい。
そうこう考えながら無事に駅に到着し、集合場所の改札へ向かった。
「おはよー。」
先に到着していたまいまいと合流して集合時間までテキトーな話をしていると、数分で人が集まってきた。
「みんなの私服見るの面白いね。」
先生が点呼をとっている間、私はまいまいに囁かれ辺りを見渡した。
言われてみたら、みんなの私服を見るのは初めてだ。
彼は黒いコートに灰色のズボンでいつも通りの感じだ。
「駿は長いコートが似合いますな。」
まいまいは呟く。
嬉しいことに駿の私服を見るのはこれが初めてではない。みんなが知らない駿を知っていることに少し優越感を覚えた。いけない。顔がにやけてしまう。
「それでは、ホームへ移動しましょう。」
先生の指示に従って私たちは改札を抜けた。
「席どうしようか?」
新幹線を待つ間、沙弥はプロテインバーをかじりながら尋ねた。さすがアスリート。
席割りの関係で、8人の班内で3人・3人・2人に分かれる必要があるようだ。
なり行きで健太と二人席に決まり、私は窓側の席に座らせてもらうことになった。
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「ねえ、ここの大福美味しそうじゃない?」
新幹線の車内で、私は健太にスマホの画面を見せる。
「あっ。ここも。これもいいな…。」
私は画面をスクロールし、スイーツの画像を眺めるのであった。
「お前は食うことしか考えてないのか?」
健太はそう言って笑った。
「お金があれば全部食べられるのに…。バイトしたい!」
やけになって呟いた。
うちの高校は許可を取ればアルバイトが許されている。
現に同じ班の実波は、ランニングシューズが欲しいからという理由でコンビニでバイトをしてるらしい。恐るべし陸上馬鹿だ。
私も部活は忙しいものの週に一回休みはあるし、家に帰って勉強をするわけでもないので時間はある。
「メイドカフェとか意外と稼げるって聞くよね。」
時給はそこらのカフェと対して変わらないこともあるが、売れっ子になれば一緒に写真を撮るだけでお金入ってくるらしい。イベントやチェキなどその他諸々稼ぐ手段はあるらしく、興味はある。
「いや。絶対やめろ。」
健太に食い気味に否定されてしまった。
「結構向いてると思うんだけどな。そこらのメイドよりは可愛いし。」
こっちの静羽は自分に自信があるように演じてるが、あっちの静羽は口が裂けてもそんなことを言わないだろう。
「お前はその前に勉強したらどうだ?」
そうだよな。ほとんどの人が同じ事を言うと思う。わざわざ馬鹿を演じているとこういう時に不便だ。
「えー。大学に進学するわけでもないからそこまで勉強する必要もないんだよね。」
高校卒業後の進路はすでに決められているため、へらへらと返した。
「進学しないのか?お前はやればできるタイプだと思うけどな。」
「まあ、やりたい事があるから。」
大学に進学せずとも《《私たち》》にそれ以上の知能があることは国が理解している。
そのため進学は「しない」というより「させてもらえない」と言った方が適切だ。
表向きには国の傘下である優良企業に新卒で雇われることになっている。しかし、本当の顔は特別国家公務員になるそうだ。
今更普通に進学…?それが許されるのなら、普通の学生になりたいに決まってる。
将来のことはよくわからないけれど、この先一生嘘をつき続けることだけは確実だ。




