第二十三話
「修学旅行の服ってどうする?」
優花からメッセージが送られてきたのは土曜日の朝だった。
修学旅行は私服着用との指示があるため、各々どんな服を着ようか迷っている頃であろう。
正直、服について私に聞かれても困る。自分の好きな服を着て、好きなように過ごせばいいと思うのだが…。「おそろい」だったり「勝負服」だったりと色々悩むのが女子高生のようだ。
「私たちの班は移動が多いから、動きやすい恰好にする」
当たり障りのない返信をすると、すぐに返事が返ってきた。
「駿の好みの服装ってどんな感じかわかる?」
そう来ると思った。
服の好みか…。知らないな。知っていたとしても教えないけど。
「わかんない」
服がどうとか考えたことはなかったな。
「明日、服を買いに行きたいんだけど付き合ってくれない?」
優花からお誘いがきたようだ。断る理由もないし、私は「OK」のスタンプを送った。
なんか複雑な気分。
日曜日の朝、桜ヶ丘駅で優花と合流すると一緒に目的地へ向かった。
駅から学校と反対方面に5分ほど歩くと、大きなショッピングモールがある。
映画館から、流行りの服、スイーツなど何でも揃っている学生の御用達だ。
基本的にすぐに家に帰りたい派の私はあまり寄り道はしないが、こっちの静羽の付き合いとして何回か訪れたことがある。
「動きやすくて可愛いのがいいよね?」
モールに着くと優花はああだこうだ言って服を見て回った。
「これとかいいんじゃない?」
私は黒と白がベースのフリルがついたワンピースを手渡す。
優花は顔が可愛いので、基本なにを着ても似合う。人形を着せかえるように私は次々と優花に洋服を渡した。
優花が試着室から出てくる度に私は「かわいいっ!」と連呼し、なんだかんだで楽しんでいる。
「ねえ、これ静羽の趣味じゃない…?」
ばれた。だって優花がかわいいんだもん。
世の男子は私より優花を好むに決まっている。100人いたら99人は彼女を選ぶだろう。
それなのに、駿に限って私を選ぶなんて。皮肉な世界だ。
「これは私の意見なんだけどさ。」
続けて呟いた。
「着飾ったりしなくても、そのままの優花の方がいいんじゃないかな?」
だって、駿は…。
なんと説明すればいいか考えていると、優花が先に口を開いた。
「駿は好きな子がいると思うの。それも私じゃない。」
私はドキッとした。もしかしてバレていたのか…?
「一ヶ月くらい前から、なんか雰囲気がかわった気がするんだよね。」
一ヶ月前…。私が駿と付き合い始めた頃だ。
「今までの駿は、男女な関係なく誰とでも仲良くできるタイプだった。頭がいいから、話していて楽しいし人気者って感じだよね。」
優花は赤いスカートに手を伸ばす。
「でも、ここ最近は話しかけた時の反応が違う気がするの。特に、女子と必要以上に仲良くするのを意図的に避けてる。」
私は何も言えなかった。
「好きな人がいるなら、必要以上に女子とは仲良くしないよね。意中の相手に誤解されては困るから。」
優花の言葉には痛いほど説得力があった。
「そのくせ、一ヶ月前からよく笑うようになった。愛想笑いじゃなくて、心から笑ってる。振り向いてほしい相手がいるんだろうね。」
優花は続ける。
「ずっと駿を見てたから、気づかなくていいことに気が付く…。そして彼の意中の相手は、きっとそんな事気づいてないんだろうね。悔しいよ。私のほうが彼を知ってるのに。」
伏し目がちに笑うと、彼女は赤いスカートを持って試着室に入っていった。
私はただ立ち尽くして考えた。優花は本当に駿のことが好きなんだ。
それに比べて私は、駿の事が好きかどうかすらわからない。「好き」が何かもわからない。
それでも私は、駿の彼女なの…?




