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第二十一話

 

 本日分の2教科のテストを終え、生徒達はちらほらと帰り始めた。 

 

 駿が帰ったところで私は健太に話しかけてみた。 

 

「いやー。今日のテストは難しかったね。」 


「お前は、今日だけじゃなくて毎日だろう?」 

  

「やめてよ。こう見えて頑張ってるんだから!」

   

 いや。本当は全然頑張っていないのだが…。

  

「おかげさまでぐっすり眠れました!」 

  

 私の目的はズバリ、駿とのやり取りが見られていたか確認することだ。 

  

「なあ、お前さ…。駿のこと嫌いなのか?」

  

 健太に尋ねられた。 


 この話題を持ちかけてくるということは、やはりあのやり取りは見られていたか。しかし、『嫌いか?』と尋ねられるのは想定外だ。  


 「優等生くんのことか。好きか嫌いかと言われると普通だな。あいつはちょっと真面目すぎるとこがあるからさ。」 


 好きか嫌いかと言われると…。考えて気がついた。私はまだ一度も駿に「好きだ」と伝えたことがない。  

 

「普通か。おもいっきり睨んでたから嫌ってるのかと思ってた。」 

 

 健太はそう言って帰る支度を進める。  

 

「まあ、嫌いではないかな。」 

 

「ふーん。じゃ、また明日。」 


「テスト勉強頑張ってねー!」


 健太は振り返らずに右手をサッと上げて教室を出て行った。


 駿のことが好きか嫌いかと聞かれると、嫌いじゃない。それは断言できる。だから背理法で考えると、私は駿が好きなのだろう。 

 

 だが「好き」を証明できるかと聞かれたら難しい気がする。 

  

 そもそも「好き」の基準がわからないためなんともいえない。 

  

 というか好きってなんだ…? 

 

 

 「静羽。そろそろ帰る?」

 

 振り向くと優花とまいまいがいた。


 いけない。ボーッとしていた。  

 

 「うん。帰ろう!」

   

 私は大きく頷いた。 

  

 そこから駅までの間、優花とまいまいはあの問題が解けたとか、あれが難しかったとか各々テストの反省を語っていた。 

  

 私も適当なことを話したが、もう記憶に無い。

  

 もとより興味の無い話だが、今日は一段と話が耳に入ってこなかった。

  

 電車に乗っている時も、家に帰り着いてからも私はずっと「好き」の定義を考えていた。

 

 だがおそらく、私はこの問題を一生解くことができないだろう。 

 

 

 ■■■


 「あなた達は国のために働くのです。そのためにここにいるのです。」 

 

 いつの日か国立研究所で言われた言葉を思い出す。これはおそらく、私が幼稚園児だった時の記憶だ。  

 

「あなた達の存在意義は国の指示に従順に従うことにあります。そのために、あなた達の効率的な行動を妨げるような感情の働きは排除してあります。」   

 

 メガネをかけた中年の男性はゆっくりとそう言った。 

  

「例えば、私たちにはどんな感情が無いのでしょうか?」 

 

 小学生と思われる女の子がそんな質問を投げ掛けた。 


 「そうだね。君たちには基本的な喜怒哀楽の感情しか与えていない。だから必要以上の悲しみや愛は感じないはずだ。君たちが将来、恋だとか愛だとかを理由に命令を聞かなくなったら困るからな。間違えても、人を好きになったりすることがないように。」

 

 「はい。」


 自分を含めて部屋にいた数人の子供が揃って返事をした。 

 

 後から察するに、国が私たちの恋愛を禁じたのは()()()()()()()()が子孫を繁栄するのを防ぐためだったのだと思う。   

  

 私の人生が狂い始めたのは、間違えなくこの時からだ。

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