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第二十話

翌日


「おはよう。今日からテストだね!まあ、私には関係ないけどっ!」

 

 今朝は桜ケ丘駅で優花と待ち合わせをしていたので、彼女と一緒に登校だ。 

 

 もちろんテストには()()()の静羽で挑むので気は楽だ。 

 

「本当だよ、今日からテストだ…。けっきょく全然勉強できてないし…。」 

 

 優花はそう言いつつ、本日のテスト科目の古典の教科書を左手に歩いている。 

  

「教科書を読みながら登校だなんて。まるで優等生だね。えっと、誰だっけ…?宮田三四郎みやたさんしろうみたいな人。」

 

 「ははっ。二宮金次郎だよっ!」 

  

 「二か。一つ多かったね。」 

 

 二宮金次郎は、別名を二宮尊徳(そんとく)というらしい。私の雑学も披露したいが、こっちの静羽の知能はこのくらいなので知らないフリをしておいた。 

 

 「テストが終わったら、次の週は修学旅行だよ?私たち忙しいね。」

  

 信号が変わるのを待つ間、私はそう呟いた。 

 

 「そうだね。班行動はどこに行くか決まった?」 

 

「うん。だいたい。三瀬さぜ八幡神社に行くのがメインかな。」 

 

 まいまいと他の女子二人が縁結びの神に挨拶をしておきたいらしい。一応、私も学校では駿との関係を秘密にしているので賛成したんだっけ。 

  

「いいな!でも、私たちの班も縁結びのご利益がある神社には行く予定なんだ。」 

 

 優花は嬉しそうにそう言った。油断していると忘れるが彼女は大切な親友とはいえ、恋敵なんだった。 

 

「ねえ、修学旅行で駿に伝えるの?」 

 

 私は優花に尋ねる。こちらも、優花の行動は探っておきたい。 

  

「そのつもりだよ。いいタイミングがあればの話だけどね。」 

 

「うまくいくといいね。応援してるから!」 


 とびきりの笑顔でそう言った。私は大噓つきだ。 



 

  

 教室に到着すると、みんなはいつもと違う席に着いていた。そういえば定期テストの時は出席番号順に座るんだっけ。


 私は自分の席に座ろうとした。 

 

「おはよう。」


 後ろから駿に声をかけられる。 

 

 そうか。出席番号順だと、「()かぐち」と「()ばた」だから一つ後ろの席だった。 


 「おはよう。今日の教科はもう余裕ですか?」 


 私はいつも通りの明るいテンションで答える。 

 

「俺は理系だから古典は少しきついかな。坂口さんは?」

 

「テスト勉強してないから、できるかできないかも想像できないね。」  

  

「俺に勝ったらジュースでも奢ってあげようか?」 

 

 くっ。本気でやったらおそらく勝てるのに。ニヤニヤと笑っている駿はそれをわかって言っている。 

  

「いや。絶対に勝てないよ!」 

 

 仕方なくそう言った。 

 

 そうこうしているうちに徐々に生徒も集まり、朝のホームルームが始まった。 


 「今日は古典と生物基礎ですね。くれぐれも不正のないように――」

 

 先生がだらだらと話している中、私はクラスのみんなの呟きに耳を傾けた。 

朝のホームルーム中も、ほとんどの生徒は教科書や参考書とにらめっこを続けている。中には友達とひそひそと話している生徒もいるのだが、その内容が重要なのだ。 


 「古典のさ、宇治拾遺うじしゅうい物語のところ難しくない?ぜんぜんわからないよ…。」 


 「生物基礎のさ、血糖値の計算問題って解ける?」  


  あちらこちらから聞こえる情報をもとに、何が解ける問題で何が解けない問題だか分析していく。 

 

 みんなが解けない問題を間違えて、平均点を取ることが私の目標だ。うっかり正答率が5パーセント以下の問題を正解してしまっては疑われてしまう。 

 

 

「それではホームルームを終わります。みなさん頑張ってくださいね。」 


 担任の先生が教室を出ると皆が、最後の仕上げに取り掛かっていく。

 

「ここが体言止めになるんだって!」 

 

「清少納言?いや紫式部だよ!」 

 

 みんなの話を聞くに、源氏物語の範囲は理解が浅そうだ。おそらく点を落とすならそこだろう。

  

 私は「どこで何点落とすか」の脳内イメージを描き、テストに備えるのであった。 

 

 ―――


「それでは始めてください。」 


  古典のテストは(私にとっては)予想よりもはるかに簡単だった。平均点が60点台になると予想して、私は65点を狙って問題を解き進める。序盤の宇治拾遺物語の範囲ではわざと小さなミスを何か所か忍ばせておいた。 

 

 後半の源氏物語は、予想通り少し難しい問題もあったのでそこを間違えておいた。ざっくり計算すると67点だ。記述問題で減点されると仮定するとこれくらいで丁度良いだろう。 


 平均点を狙うのは、普通にテストを解く時よりも頭を使うので私にとっては丁度よい任務だ。 


 それでも20分くらい時間が余ってしまうので、私は机に突っ伏して眠るのであった。 

 

 

「そこまで。筆記用具を置いてください。」 


 チャイムの音と共に試験の終了が告げられる。それと当時に私は目覚め、テストを前の席に回した。 

  

「坂口さん、途中から寝てたでしょう?」

 

 後ろから駿に声をかけられる。 

  

「だって、解ける問題が少ないとすぐ終わっちゃうんだもん。」 

 

 もちろん全部解き終わってから寝ているのだが。

   

「赤くなってるよ。」


 駿はそう言って私の頬に触れた。どうやら長時間うつぶせになっていたので頬に跡が付いてしまっていたようだ。 

 

「ちょっと、やめてよ!」 

 

 大変心苦しいのだが、私は駿を睨んだ。その姿を見て、駿もハッと気がつく。彼は「ごめん」とさわやかに笑った。 

  

 今回のところは彼の笑顔で帳消しとするが、誰かに見られていたらどうするんだよ…。 


 私はぐるりと教室内を見渡す。優花に見られていないようで助かった。幸い目撃者はいないと思われたのだが…。 

  

 唯一目が合ったのは健太だった。

  


 まずい。

 こいつは見ていたな。

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