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第十九話

 「なあ、お昼ごはんって持ってきてたりするか?」

  

 なんだかんだで3時間ほど勉強に集中して、気がつけば昼時を回っていた。

 

 「もうこんな時間か。何も持ってないや。」

 

 昼休憩にどこかに食べにいく予定だったため、昼食は持ち合わせていなかった。

 

「そうだよな。ちょっとキッチンに行ってみよう。着いてこい。」

 

 私を部屋に一人残さないのは、おそらく隠し物を見つけられるのを避けるためだろう。

 

 二人で階段を下り、キッチンに向かった。


【あまったから、食べて!】


 キッチンテーブルの上には駿のお母さんからの伝言が残されていた。

 

 タッパーの中にはサンドイッチが詰められている。


 「姉ちゃんは、母さんの作るサンドイッチが大好きなんだ。そういえば母さん、今朝早起きしてサンドイッチ作ってたわ。」

 

 タマゴや、レタス、カツサンドなど様々な種類がある。


「美味しそうだね。」


「じゃあ、これでいいか!」


私たちはぎゅうぎゅうに詰められたサンドイッチを持って、部屋に戻った。


「いただきます。」

  

 私はタマゴサンドにありついた。


 「おいしいっ!」 

 

 よくあるタマゴサンドより、一つ一つの具が大きい。それに味がしつこくないため、丁度良い食べ応えがある。タマゴ本来の味が生きるとは、たぶんこういうことなんだ。 


「母さんがよく作ってくれるから、俺もこれは作れるんだ!」

  

 駿は得意気にそう言った。なんかかわいいな。 

 

「私は料理とかしないからな…。()()()の静羽のための教養として、カップケーキくらいは作れるけど。」 

 

 カップケーキはすごく化学的な食べ物だ。加熱によって生地が膨らむのは、化学式によって証明できる。 


「カップケーキって…。それ、化学式が好きなだけだろう!」 


 駿は笑った。バレたか。  


「昔はバレンタインチョコとかも作ってたんだけど、あれって非効率的じゃん。」

 

「始まりました。静羽の謎理論!」

  

 駿はそう言って私の話を聞く。 

 

「だって、固まってるチョコをわざわざ一回溶かして、また固めるんだよ?量は減っちゃうし洗うの面倒だし、いいことないじゃん。」  

 

 それなのに、世の女の子達はこぞってチョコを溶かしまくる。理解できない習性だ。  


 「だから私は、市販のお煎餅をみんなにあげてるんだ。『甘いものばっかりだと飽きるから』とか言うと静羽らしいって言われるし。」

 

 言い終えると私はツナサンドを口にした。これもおいしいな。  

 

「俺の姉ちゃんもバレンタインは煎餅派だったよ…!」  

 

 やっぱり駿のお姉さんは変な人だ。まさか彼女とそんなところで共通点があるなんて。 


「なあ、別に答えなくていいんだけどさ。静羽は本命チョコとか煎餅とか、あげたことあるのか…?」  

 

 駿はそっぽを向いてボソボソと言った。 

 

「次の二月が初めてだね。」  

 

 そう言って駿の方を見る。  

 

 顔をあげた駿と目が合った。   

 

 その瞬間、私は横にいた駿にそっと引き寄せられその腕に包まれた。  

 

 急にどうしたのか?何か嫌なことでもあったのか?  

 

 おそらく駿はオキシトシンを欲している。だから私をこうして抱きしめているのだろう。

  

 まさか、駿に限って理由もなくただ抱きしめるなんてことはしないだろう。 

 

「なにかあったの?」 

 

 私は腕の中で呟く。 

 

 「別に。ただ、好きだなって。静羽のことが。」 

 

 さらっとすごいことを言うもんだ。思わず体が熱くなる。早まるな私の交感神経。 

 

「誰かが帰ってきたらどうするの?」


 もし、この状況が駿の家族との初対面となってしまったらさすがに恥ずかしすぎる。

 

「大丈夫。誰もこないさ。」  

 

 じゃあ、もう少しだけ。もう少しだけこのままでいさせてと思ったのはきっと駿も同じだから。  

 

 ピンポーン  

 

 勢いよくインターフォンの音が響いた。それと同時に私たちも勢いよく離れる。

 

 「えっと。私はある程度ここを片付けたら適当に隠れるから。」 

 

 「俺は出てくる。」 


 「ドアを開ける前に、私の靴を隠したほうがいいかも。」

 

 「了解。」

 

 二人ともすぐに冷静さを取り戻した。 


 誰かが帰ってくることは想定内だったけれど、タイミングというものがあるだろう。私はテキパキと机の上を片付け、ベッドの下に物をしまいこむ。

 

 椅子に駿のコートを掛けて、私は勉強机と椅子の間に身を隠した。まるで、避難訓練みたいだ。 

  

 ちょっとすると、駿は部屋に戻ってきた。 


 私は机と椅子の隙間からひょっこりと顔を出す。

  

「宅配業者の人だったよ。」


 私はそっと胸をなでおろす。 


 「よかった…。でも、そろそろ私も帰ったほうがいいよね。」 

 

 「そうだな…。」

 

 午後になったら、いつ駿のお母さんが帰ってきてもおかしくない。というか心臓に悪い。 

 

 私はベッドの下にしまい込んだ参考書を駿に手渡し自分の荷物をまとめた。 

 

「駅まで送るよ。」

 

「ありがたいけど、二人で一緒にいる姿を見られるほうがまずいんじゃない?」 

 

「たしかに…。」 


 「駅までの道はもう覚えているから、大丈夫だよ。」 

 

 私たちは玄関で別れることになった。 

  

 「じゃあ、今日はありがとう。続きはまた今度な。」 

 

 駿はそう言った。 

  

 「続きって?」

 

 勉強のほうか?それとも…? 

  

 駿はニヤリと笑った。

 

「言わせるつもりか?」 


 悪い顔もかっこいいかも。

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