その9
「翔太がまた死んでもいいのかと聞いてるんだ」
問いかける龍に紗由は答えた。
「いいわよ」
「え?」同時に声を上げる龍と翔太。
「奏子ちゃん!」
「はい!」
「石、一つじゃないわよね?」
「ええ」
「翔ちゃんに持たせたら、電話が通じる感じの石、あるかしら? 奏子ちゃんの石で無理なら、翼くんのものでもいいわ」
「…通信用ね。大丈夫よ」
「翔ちゃん。その石の助けを借りて、飛呂之さんに電話して」
「じっちゃんに?」
「そう。清流旅館当主が青龍さまにお願いできるお願い、まだ余ってるでしょ?」
「余ってるって…」苦笑いする龍。
「それを使ってもらって。翔ちゃんを今死なせないと」
「頭いいなあ」感心する聖人。「でも、じっちゃんへの電話は、まこにさせるよ」
「まこちゃんに?」
「じっちゃん、まこに弱いから」笑う聖人。
「弱いから」微笑む真琴。
「白虎さまにもフォローをお願いしておくよ。白虎さま、まこに弱いから」笑う聖人。
「弱いから」微笑む真琴。
「充くんを通じて玄武さまにもフォローをお願いしておくよ。充くん、まこに弱いから」笑う聖人。
「弱いから」微笑む真琴。
「まこちゃん、最強ね」大笑いする紗由。
「でも、華音ちゃんには勝てないから、朱雀さまには、華音ちゃんからお願いしてもらう」難し気な顔で頷く真琴。
「わかったわ。ありがと。じゃあ、私たち、行くから」
翔太、紗由、龍、翼の4人は、穴の中へと入って行った。
* * *
穴の向こうは廊下につながっていた。
「これ…うちや!」
翔太が叫ぶと龍も言う。
「清流旅館だね。隠し部屋に行く廊下だ」
龍が隠し部屋と呼んだその部屋は入口が開いており、土間のような床スペースが見えた。その奥の障子の向こう側からは、楽し気な子供の声が聞こえてくる。
紗由が床に上がり、龍と翼も続くが、翔太の足がそこで止まった。
“…! 動かれへん!”
“翔太。おまえはここから見学だ”
胸ポケットから、ふわりと舞いあがった羽童が言う。
“童さま…なぜ?”
“おまえが“彼”に会うと、ややこしいことになるからだ”
立ち止まる翔太に気付いた紗由が微笑む。
「行ってきます」
紗由は障子を開けた。
* * *
10分後、紗由たちは穴の奥から戻ってきていた。
「もう大丈夫」
龍の一言で安堵する一同。
翔太の元に聖人が駆け寄る。
「翔にい、大丈夫?」
「あ、ああ…」
少々、気もうつろな翔太。とりあえず、聖人の問いには答える。
「よかった…」かみしめるように言う聖人。
「あのね、命懸けのお願いって、伊勢に直接届けに行かないといけないんだって。じっちゃん、慌てて行こうとしたみたいだけど…間に合ってないから止めたの」
真琴の言葉にへたり込み、泣き出す紗由。
「翔ちゃん、死ななくて良かった…」
「何、言うとる。おまえより先に逝くわけないやろ」
「…うん。そうだよね」
涙を拭うと、一同に次の指示を出す紗由。
「入った時と同じ手順で、上に出ましょう」
一同は頷いた。
* * *
井戸の周りに集合している一同に紗由は告げた。
「これにて解散とさせていただきます。私の試験の一端にお付き合いいただき、ありがとうございました」
紗由は深く頭を下げると、龍と共にヘリコプターに乗り込んだ。
* * *
紗由は機中で、ついさっきの10分間を思い起こしていた。
「ごめんください!」
紗由が元気に障子を開けると、そこには3歳位の男の子が、レゴで遊んでいた。
そして、その背後にうっすらと浮かぶ青い龍の姿、青龍だ。
「いらっしゃい」
青龍に言われて、紗由は思った。
“うわあ。うちのじいじより渋い声…”
「あ、はい。おじゃまいたします」
敷居をまたぐと、紗由の目の前の空間がぐらりと揺れる。
「あ…」
「懸念は無用。こちらに来ただけじゃ」
“渋い声”の青龍が言う。
「あ…かみさまの、おともだちですか?」少年が問いかける。
「は、はい」戸惑いながら答える紗由。
「彼女は、我の友だちの女神じゃ。遊びに来てくれた」
「うわあ…めがみさま…だから、こないにべっぴんさんなんやあ」
「翔太…くん?」
「はい! たかはししょうたです、めがみさま!」
「あ、あのね…私、翔太くんにお願いがあって来たの」
「おねがい…?」
「翔太くんには“ぴかぴか”が見えるでしょう?」
「はい!」元気に答えるチビ翔太。
「翔太くんが見たいと思えば、今、ここの空気も、いろんな色に見えると思うの」
「……はい」
「それをね、そこにあるレゴブロックみたいに、色分けして、お片付けしてほしいの」
「わかりました!」
「待て、翔太」青龍が、翔太をとどめる。「翔太に事をなさせるには条件があるぞ、女神殿」
青龍の言葉に紗由は戸惑いを見せ、それを見ていた龍は緊張のオーラを放った。
* * *




