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その5

「羽童さま…多治見の奴らは、あないに簡単なもんでしょうか?」いぶかしげな翔太。

「簡単ではないだろうな」

「ですが、龍は何も気づかん様子で…」

 翔太は一変した空気にハッとして龍のほうを見ると、そこにはすでに原っぱを囲む結界が貼られていた。


「安心しろ」羽童が言う。「あそこで戦うわけにはいかなかった。一般人を巻き込むからな」

「あいつは、華織はんの血を飲んでパワーアップして、この原っぱ…というか井戸に“力”を持ってきて戦ういう目論見ですか」

「そう、うまく行くといいがな」


 羽童が見た方向には、翼と奏子、大地と真里菜、史緒と咲耶、聖人と真琴と華音、そして充と恭介の姿があった。

「オールスターズやな」思わず笑う翔太。

「上を見ろ、翔太」

 言われて上を向くと、そこにはヘリコプターから縄梯子でぶら下がっているマジシャンの姿が。

「誠はん!?」

「元々は一条側の厄介ごとだ。片付けに来たのだろう」


「龍は俺にもわからんように事を運んだいうことですか?」

「敵を欺くにはまず味方から。人間の世界ではそういうのであろう?」

「ですが…」

 これまでのように皆で協力するという単純な方法では済まない相手なのだと言われているようで、翔太は眉間にしわを寄せた。


「龍はおまえを騙したわけではない。知らせる時間をずらしただけだ」

「ずらした?」

「おまえの力が今までとは違う方向に開いているのを感じたからだろう。時間を選ばねばならぬ」

「俺の力? 時間を選ぶ?」訳が分からぬ様子の翔太。

「…準備にかかる」

 羽童はそう言うと、翔太の胸ポケットへと戻っていった。


「天人さんはどこに?」奏子が辺りを見回す。

「女性を待たせるなんて失礼な殿方ですわ」史緒が扇子を取り出した。

「そうよね」ポケットからチョコを取り出し口に入れる紗由。


「でも…あの井戸から妙な匂いがするわ。不安定な感じって言うか…」

 真里菜が指さした井戸に歩み寄っていく一同。

 少し離れた場所には誠も降りてきた。


「みんなにお出ましいただくつもりはなかったんだがな…」

「すみません」翼が頭を下げる。「うちの先の宮の石が、いろいろ覚えて帰ったものですから」

「だよねえ」笑う誠。「でも、みんなは極力手を出さないでくれ。うちが片付けないと最終的には片付かない」

「承知しました」

 翼が言うと皆が誠に一礼する。

 お菓子をもぐもぐさせていた紗由が慌てて口を押えた。


「ところで、まりりん。この井戸から感じるのは天人くんの匂いかい?」龍が尋ねた。

「違うわ」

「蒼也くんの匂い?」

「それも違うわ。ただ…」

 考え込む真里菜の額に翼が手を置く。

「今、確認する…」


「…まりりんの鼻は、あの二人の匂いを混ぜて、さらに何かを足したら、こうなると感じているようだ」

「おばあさまの匂い?」尋ねる紗由。

「うーん。違うと思うわ…あ…!」鼻を両手でおさえる真里菜。

「どうした?」

「匂いが変わって…拮抗して…偏って…」


「戦ってるってことかしら」

奏子が心配そうに真里菜の手に触れると、今度は奏子の石が反応した。

「変だわ…」

「何が?」

 龍が聞くと、奏子はさらに石に集中してから、答えた。

「石が話すことが…時系列がぐちゃぐちゃ…」


「ねえ、まーくん。多治見の人たち、ケンカして時間をかき混ぜちゃってるんじゃないかなあ」

 真琴が聖人に言うと、華音が井戸の中を覗き込む。

「やっぱり、おばあさまの力の気配はしないわね」

「龍にい。天人さんが飲んだの、何なの?」

 聖人の問いにニッコリ笑う龍。

「翔太の血」


「はあ?」大声を上げる翔太。

「何で!」紗由も大声になる。

「おばあさまの実験。そして一条家のいざこざとは関係がない。だから僕は元々、この場で戦う気はない。観察するだけ」

「そういうことなんだね」誠がフッと笑った。「じゃあ、僕はちょっと行ってくるよ」


「誠先生…」恭介がつぶやく。「行くって…井戸の中にですか?」

 誠は心配そうに自分を見上げる恭介の頭をぽんぽんと触れると言った。

「成功したら、また新しい手品を教えてあげるよ。じゃあ」

 誠が指でパチンと合図すると、井戸の上にヘリから縄梯子が下りてきた。

 それを使ってスルスルと井戸の中に入る誠。


「大丈夫でござるよ」

 充が恭介の肩に手を掛けた。

「“極力”手を出すなとは言われたけど、絶対に手を出すなとは言われていない。龍どのは観察班だとしても、いざとなったら僕らは加勢すればいい」

「うん…僕、蒼也くんのことも心配だし…」

「大丈夫です。友達なんですから、また思い出してくれます」奏子が言う。


「ねえ、まーくん。奏子ちゃんと恭介くんて、仲が悪いの? 仲がいいの?」

 真琴が聖人に尋ねると、当の恭介が答えた。

「友達だよ。気は合わないけど」

「ええ。気はまったく合いませんが幼い頃から友達です」奏子も同意する。


「井戸の中の天人くんと蒼也くんも、恭介くんと奏子みたいなものなのかな。幼い頃からの連れで、命命鳥のような」

 翼がつぶやいた時、井戸の底から「わーっ!!」という叫び声が聞こえ、一同は井戸を覗き込んだ。


「誠おにいさん!!」

 紗由の叫び声が井戸に木霊したが、返事は聞こえて来なかった。


  *  *  *


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