その2
翔太と龍は、社長の西園寺賢児が不在のサイオンイマジカ社長室にいた。
東側の壁には、仕切りの隙間を通る西日に文字が映し出されている。
翔太は、自分が持っている“文書”を開いた。
「どっちも、“命”やな…」首を傾げる翔太。
「同じ文字を続けて、どういう意味になるんだ?」
翔太と龍は、まじまじと壁を見つめた。
* * *
四辻家の翼の書斎では、龍と翔太が講釈を受けていた。
「命という単語が二つ続くということで最初に思い浮かぶのは、想像上の鳥、というか、極楽浄土の六鳥のひとつで“命命鳥”だね。別名“共命鳥”。人面禽形と言って、顔は人の形で頭が二つ、体は鳥なんだ。きわめて美しい声で鳴くとされている」
「へえ」
「しかも興味深い逸話付きだ」
「逸話?」
「二つの頭は仲が悪かった。で、片方がもう片方に毒をもったんだよ」
「体が一つなんやろ? 両方とも死んでまうやないか」
「その通り。毒を盛った頭は、死ぬ直前にそれに気づき、反省して懺悔した。自分がわがままを言いながら元気でいられたのは、あなたがいてくれたから。この私の命はあなたの命の上に出来上がっていたのだ、ってね」
翼はそこで一拍置いて言った。
「まるで、西園寺と反西園寺じゃないかい?」
「翼は思うのかい? 今回の青龍さまの代替わりで、彼らがそう自覚してくれると」
「いや。青龍さまの死と再生は、彼らにとっての切実な問題ではないよ。もっと大々的に直接的に戦って、その結果が死でないと、わからないだろう」
「先が長そうだ」笑う龍。
「龍が思うほど、あいつら、頭がよくない」さらに笑う翼。
「だな」
「そして、君たちが思い出せないバージョン。それも辿っておいた」
「清流旅館に伝わる文書の地図と、イマジカ社長室の壁に浮かんだ“命”の文字。それを重ね合わせた時に現れたのは、“命”にとって重要なスポットだ」
「スポット?」
「文書の地図に文字を重ねた時、その一画一画の起点と終点、その位置に何があるかということだよ」
翼はスライドを写して、龍と翔太に説明する。
「場所は14か所」
「どこなん?」
「まず、“命”の上の部分を富士山に合わせ、一番下の点を清流旅館に合わせてみる」
「ほお。ちょうどええな」
「すると、他の点が、雀のお宿、黒亀亭、縞猫荘、風馬さんち、龍んち、進子ちゃんち、四辻の別荘、久我の別荘、一条の別荘、九条の別荘と重なる。残りは2か所だ」
「2か所…」考え込む翔太。
翼はスライドをグーグルマップに変えた。
「空撮写真のほうがわかりやすい。赤い丸が、その14か所だ」
「一か所は何か建築中?」龍が聞く。
「データがちょっと古いんだと思う。もう建ってるよ、多治見関連のビルが」
「また…いうか、やっぱり多治見か」笑う翔太。
「残りの一か所は空き地に見えるけど、これももう何か建ってるの?」
「いや。空き地のままだ。ただ…井戸がある」
「青龍さまの別荘かもしれんな」どことなくうれしそうな翔太。
「僕もそう思うよ」微笑む翼。「そして、この2か所の詳細は、今、大地が調べてる」
「久我コンツェルンのお出ましか」
笑い合う3人。
「それから、14という数は数霊的に言うと、“核”を表すという考え方もある。陰でも陽でもなくなったその場所から、命の種が新たな陰陽をもった命を生み出すと解釈もできる」
「奥深いね」ニヤリと笑う龍。
「その2か所でも卵産まれるとか言わへんよなあ」
「白虎さまたち、育児ノイローゼになりそうだ」
「うちのおばあさまを派遣したほうがいいかな」
翼が言うと、大笑いする3人。
翼の祖母は産婦人科と小児科の名医なのだ。
「しかし、翼とはいえ、よくこんなに辿れたね。すごいよ」感心する龍。
「紗由ちゃんのおかげだよ。二人で協力して辿ったんだ」
「紗由が!?」翔太と龍が同時に叫ぶ。
「紗由ちゃんは、初めて翔太くんがうろたえるところを見たんじゃないかな。自分が何とかしなければと強く思った。それで、協力して過去を手繰ったら功を奏した」
「情けない限りやな…」
「いや、自分が協力できる何かがあることを彼女は喜んでる」
「喜ぶ?」
「正直、“力”を持つ者同士の恋愛は難しい。できることがメインになってしまって、できないこと、相手の弱さに思いやりを持てなくなったりもする。
反西園寺の系列は、そんなふうに家の中でもめごとが起きたのを、八つ当たりしてきているだけだ」
「紗由には、お礼にケーキ屋一軒買うてやらんとあかんな」
翔太が真面目な顔でそういった時、翼の電話が鳴った。すぐに出る翼。
「大地からだ。残りの2か所の詳細が分かった」
龍と翔太は、その傍らで受診を始めたファックスを見つめた。
* * *




