その1
一条の“命”こと、一条誠が指をさした、その先を一同は固唾を飲んで見つめた。
青龍から産まれ出てくる卵と共に、ふんわりと文字が浮かんでいる。
“われはいせへかえるありがとう”
文字を把握した翔太が叫ぶ。
「青龍さま!」
呆然とする翔太を前に、紗由が一条の“命”に詰め寄る。
「一条の“命”さま、これはどういうことですか? あの卵は…?」
「青龍さまは、これからしばらくの間、今お生まれになる若青龍さまに後を任せ、伊勢に戻られる」
「なぜ?」紗由が問い詰める。
「青龍さまは、我が黄龍さまの石を取り返しに某所へ出向かれた。その際、石は“邪”を吸わされていた」
「なぜ黄龍さまではなく、青龍さまが行かれたんですか?」龍が尋ねた。
「黄龍さまは身動きが取れなかったんだよ。ある人間の魂を人質に取られていたからね」
「人質?」
一同が誠の顔を見つめる。
「多治見と名乗る二人の若者。彼らは一条ゆかりの者たち。訳あって、うちの息子の凛の力をそこに封印しておいた」
「蒼也さんと天人さんですね」奏子が確認する。
「黄龍さまが手出しできない状況を知り、青龍さまは石を救いに行ってくださった。だが、増幅された邪気を払うのはかなりの大仕事。いずれ来る清流旅館の真大祭に向けて、必要な気まで使われてしまった」
うつむく誠。
「それで青龍さまは、伊勢に帰ると…」
「“癒”の神の元へ行かれるはずだ」
「このままお別れなんですか?」
紗由が聞くと誠はゆっくり答えた。
「次の真大祭に復活を遂げられる。それまで清流旅館を守るのは、卵からかえられた若青龍さまになる」
「じゃあ、また会えるんですね…半世紀後くらいになるかもしれないけど」
少し紗由の声が明るくなった。
「伊勢の神との契約だ」
「伊勢の神なんぞ、あてにならん」つぶやく翔太。
「翔ちゃん!」
「そもそも、西園寺や清流旅館への妬みから来るもめごとをほったらかしや。伊勢の奥には、そっち側のお偉いさんも多くいると聞いてます。契約があろうが、何をされるかわからんですわ…」
“案ずるな、翔太”
一同の頭の中に声が響いた。
“華織に渡した“言の葉”…イマジカの社長室に浮き出る言葉だ、その続きを与える。これを次なる真大祭で唱えよ。我はそこで復活し、再び清流旅館の守り主となる”
“言の葉?”
“西園寺と清流旅館を導く真言だ”
声の気配はそこで消えた。
「一条の“命”さま、それで人質の魂は無事なのですか?」尋ねる龍。
「ああ。今頃、清流旅館ではちょっとした騒ぎになっているかもしれないが」
「どういうことでしょう」
「二人の青年が、本来の自分の記憶を取り戻したことになる。なぜ自分たちがここにいるのかと動揺しているだろうし、それは周囲も同じこと」
「恭介くんが大騒ぎしてるわね」真里菜がため息をついた。
「卵はこの後、どうなるのですか」紗由が聞く。
「孵化した後、白虎さま、朱雀さま、玄武さまが、88日間かけてお育てになる」
「88日後にお迎えに上がればよろしいのですか」翔太が確認する。
「いや…それはない」
「え?」
次の瞬間、一条の“命”は、一同に向かって両手をかざし、一同はふわりと崩れ落ちた。
「今、私が話した黄龍さまの石にまつわる流れ、君たちのその記憶だけは、ここで封じさせてもらう。いずれ青龍さまが眠りから覚める時、君たちは少しずつ思い出し、その気づきにより事態は回り始める」
* * *
目を覚ました翔太の手には、一冊の文書が握られていた。
「これは…」
「イマジカの社長室に浮き上がる文字に続く文字…って言ってたよな」龍がゆっくりと言う。
「…一条の“命”さまは?」辺りを見回す紗由。「ここ、ヘリの中!」
紗由の大声で、他の者も目を覚ました。
「私たち…いつの間に…」
奏子が言う傍らで、史緒が半紙と筆ペンを取り出した。
その様子を見つめる一同。
史緒が書き出した文字は“生”だった。
「生まれたんや…」気が抜けたような声で言う翔太。
「一条家に粉ミルクとか送ったほうがいいかしら…」
つぶやく紗由に、皆はクスリと笑った。
* * *
数日後、東京では、走って逃げる龍と翔太の姿があった。
大通りをダッシュし、追手を巻いた二人は、息を整えながら顔を見合わせた。
「翔太…やっぱりそうだ。あいつらの狙いは、その“文書”を持っていたおまえだ。紗由じゃない…って、この展開、前にやった記憶が…」
「でも、何や違う気がする…」
目を閉じる龍。しばらくすると目を開けて言う。
「前回は、清流旅館に伝わる“文書”の最後のページにある地図、それをイマジカの社長室の壁に浮かんだ文字と重ねた」
「そうや!…でも、その重なった結果が思い出されへん…」
「僕もだ…だが、とにかく、今持ってる“文書”を使って再確認だ」
「そうやな」
龍と翔太はサイオンイマジカの社長室へ急いだ。
* * *




