万物再生の能力⑮ 「木場京悟」
今回はちょっと長めです。
古崎祐雅は祗蓮を連れて走っていた。目的地は学園の校舎内。そこに入ればきっと誰かに遭遇する。起きている騒ぎを話し、自分達の安全を確保するつもりだった。
「急げ、祗蓮!」
後ろを走っている祗蓮に催促をかける。何処に敵が潜んでいるのか分からない。急いで身を隠さなければならなかった。
「ま、待って……ですわ……!」
苦しそうに呼吸を繰り返しながら、祗蓮は懸命に付いて来ていた。
外見からして線が細く、運動が苦手な人物だと分かっている。しかし、この現状において文句を言う暇も無かった。握っている手を意識して、とにかく祗蓮を誘導し続ける。建物の中に隠れるまでは手放すまい、と祐雅は強く決めていた。
春井明人と鈴谷祥子が激突した地点から、数十メートル。最も近かった施設の出入り口は戦闘によって塞がれていた。仕方なく、祐雅は次に近い建物を当てにした。
両足で必死に地面を蹴って、目に見える建物へと向かう。聴覚の奥で炎が燃える音を捉えていた。先程の男と祥子が戦っている証だ。
「……見えてきたぞ!」
自分と祗蓮に大声で言い聞かせる。視線の先で、人気のない自動ドアを発見した。一、二分も走り続ければ到着出来る。
「――あ!」
それが仇となったか。祗蓮の足が唐突にもつれた。
祐雅は足を一旦止め、軽い身体を支えてやる。改めて見つめ直した顔には大量の汗が浮かんでいた。相当の無理をしていたのだろう。熱気を携えた顔が辛そうに沈んでいた。空いている手で胸を抑える仕草もあり、一層の非力さが際立っている。
「大丈夫か?」
「え、ええ……」
はぁ、はぁ、と祗蓮は息切れを起こしていた。あまり大丈夫そうには見えなかった。
「ごめん……な……さい」
僅かに潤んだ瞳に見上げられる。
言葉の奥に隠れた罪悪感を感じ取って、祐雅はすぐに笑って応じた。首を横に振って、いつもの調子で軽々しく言った。
「謝る暇があったら、早く逃げようぜ。その後で謝罪はたっぷりと聞いてやるからさ」
重くなった全身に鞭を打ち、祐雅は祗蓮の手を引こうとした。
しかし、その瞬間。
(――――っ?)
得も言われぬ感覚が祐雅の背中を駆け抜けた。
「……逃げられちゃあ、困るんだよ」
底冷えのする声が響く。
「誰だ!?」
祐雅はすぐに振り返って叫んだ。臓物の奥が凍える様で気分が悪かった。
見えていた自動ドアがいつの間にか左右に開いている。建物の中から一人の男が外へと歩み出た。黒いスーツを羽織った、中年らしき男だ。不敵に靴音を鳴らして、二人の前に顔を晒して来る。
「ようやく見つけたぞ」
鋭い三白眼に祐雅と祗蓮が射抜かれた。
「……き」
裏返りかけた声音がこぼれる。青ざめた顔で祗蓮はその男を凝視していた。唇をわなわなと震わせており、春井明人と遭遇した先刻よりも怯えている。
「木場……京悟……!?」
男の物と思しき名前が口にされた直後。建物から現れた男は薄らと唇を吊り上げた。
「それって、もしかして――」
今回の襲撃を企んだ主犯者。祐雅がそう続けようとして、息を飲み込んだ。目の前の青白い顔色を見れば、確かめるまでもなかったからだ。
「迎えに参りましたよ、教主様。……さあ、私と共に行きましょう」
低音で男は話しかけた。丁寧な口調だったが、双眸はぎらぎらと輝いている。表面に出ていた態度は全て偽り。獣が人の皮を被っているかの様な不自然さが、木場京悟にあった。
「い……いや……ですわ!」
首を横に振って祗蓮が断る。
だが、木場京悟はその拒絶を意にも介さない。
「ようやく我らが復活する時が来たのです。団員も少しずつですが、集まりつつある。後は貴女が帰還するだけだ」
革靴を地面から浮かして木場は歩き出した。祗蓮だけを見つめながら、距離を詰めようとする。
「……待てよ」
冷や汗を浮かべたまま、祐雅は祗蓮の前に移った。
相手が春井明人と同様に何らかの能力者だと予想は付いていた。襲撃する程なのだから、攻撃的な能力であるのだろうと考えていた。しかも、首謀者だ。警戒は先程以上に必須だった。
「俺が目に入んないのかよ。随分と舐められたもんだな」
不敵に自分の存在を主張する。
「…………」
木場京悟は冷たい瞳で祐雅を見つめた。
三白眼で射抜き、無言を重ねていた。
(――やっぱこいつも知ってんだろうな。俺が戦闘力皆無な能力者だってこと)
祐雅の言動は単なる虚勢に過ぎなかった。すぐに見破られると悟っている。元から対処する術など持っていなかったのだ。
けれども、無謀に思える様な挑発を祐雅は繰り返す。
「おい、何とか言えよ。それとも怖気ついたのか、ああ?」
意識を自分に向ける為、大声を捻り出す。
その裏側にて、祐雅は祗蓮へと合図を示していた。木場京悟から見えない位置で指を突き出し、反対方向へ進む様に前後させた。
「祐……雅」
後ろでか細い声が聞こえる。だが、祐雅は祗蓮への指示を止めなかった。
「悪いが、お前なんか俺の足元にも及ばねえぞ。……祗蓮に近付く事さえ出来ないからな」
そこで初めて、木場京悟の反応が生じた。片側の眉を僅かに動かして、祐雅への視線をより研ぎ澄まさせる。
(今だ、行け……!)
祐雅は強く念じた。
数秒間の逡巡する気配を覚えてから、背後で駆けていく足音を聴いた。祗蓮がこの場から遠ざかってくれたのだ。小さな足取りは段々と遠ざかっていく。危険な人物を前にして緊張は絶えなかったが、祐雅は少しだけ安堵した。
「…………」
木場京悟が、祐雅を通り越して祗蓮を眺める。あいも変わらず口を開こうとはせず、足を動かして追う様子も無い。地面の上で棒立ちになっていた。
不安で唸る胸の奥で、祐雅は違和感を覚えた。相手があまりにも静かすぎる。目の前に居る男は、まるで祗蓮に執着していなかった。
「おい、いいのか? あんたらの教主様が逃げちまうぜ? 追わなくていいのか? ストーカーみたいによ」
じりじりと発せられる敵意は肌に刺さっている。だが、肝心の攻撃が一向に襲ってこなかった。もしかしたら強い能力者ではないのか、という期待も芽生えて来る。祐雅としてはそちらの場合を強く望んだ。
昨日の爆破能力者とは状況が異なる。木場京悟の能力が何か分からなかった。祗蓮から聞いておくべきだったかもしれない。敵が正面に居るので、そんな瞬間を与えてくれるとは考え難かったが。
とにかく、能力による攻撃を使われれば祐雅の方が不利だった。
(……だけど、この男は能力を発動させてこない。裏を返せば、それ自体が能力への手掛かりだと考えられる)
「ま、女の子を教主様と崇めてるぐらいの変態だしな。この俺に対して臆病になるのも、仕方がないかなー?」
先程から手応えのある挑発を繰り返した。けれども、木場京悟は沈黙を維持している。そこから幾つかの推測が引き出せた。
祐雅の能力自体を警戒して、慎重に様子を見守っている。もしくは、こうして時間を挟むことが能力発動の条件に組み込まれている。そして、木場京悟は実はあまり強くはない能力者である、という三つがすぐに思い浮かんだ。
(まあ、どのみち時間をこのまま稼げればいい。……すぐに祗蓮が助けを呼んでくれるだろう)
ごくり、と唾を飲み干しながら、祐雅は立ち続けた。
「…………おい」
木場の人差し指がゆっくりと持ち上がる。遂に見せた反応は、祐雅の緊張を極限まで高めさせた。
「誰に、逃げられるって?」
その疑問の直後、どさり、と背後で音がした。
「え?」
全ての警戒を忘れて、祐雅は首を回す。祗蓮が走り去った筈の方角を確認した。地面に横たわった人の姿があった。
学園の制服に、長い紫色の髪。倒れているのは、間違いなく御京院・アナスタシア・祗蓮だ。
「――な」
口を開いて絶句する。
何が起こったか全く分からなかった。祐雅は咄嗟に祗蓮の傍へと駆け寄ろうとした。身を翻して、無意識の内に地面を蹴る。
「舐めた口を効いてくれたなあ、低級能力者」
凶悪を押し込めた声音が発せられる。
敵に背を向けてしまった。それを気付いた時には、もう手遅れだった。敵意を超えた殺意に全身を塗り潰される。来る、という瞬時の直感だけが自分に囁いていた。
木場京悟は両腕を動かさず、駆ける寸前の祐雅を睨む。
ただ立っているだけ。
だが、その棒立ちの姿勢から――自身の腕も届かない位置に居る祐雅を殴り飛ばした。
「が……っ!?」
真横へと祐雅の身体が大きく吹き飛ぶ。視界さえも勢いによって左右にぶれた。片側にかかった強い力で身体は軋み、浮遊感が感覚を襲う。
どん!
放物線を描いては、高く舞い上がった肉体が地面に転がる。背中から激しく打ち付けていった。二転三転もする。動きが落ち着いた頃に、ようやく唸り声を出せた。
「ぐ……う……っ!」
定まらない焦点に、吐き気を湧かせる臓物。気分はかつてない程に最悪だった。
「……ん? あの一瞬で飛んでダメージを軽減したのか? 感が良い奴だな」
苦痛に俯く祐雅を前に、木場は舌を滑らかに動かした。
「くそ……! いってえ……!」
一方、祐雅は震える両腕で上半身を起こしていく。この男に褒められても嬉しくは無かった。窮地は未だに脱出できていない。今の一撃によるダメージを軽減したのは偶然だ。次も繰り返される自身は無い。
宙に放り上げられた時、祐雅は木場までの空間を凝視した。偶然の視界であり、すぐに能力を見極めようと頭を働かせた。
(……見え……なかった)
ふらふらとした足取りで何とか立ち上がる。頭でも打ったのか、平衡感覚がやけにくるっていた。けれども、思考を止める暇は無い。
(――食らったから分かった……。俺は、確かに殴られた)
痛む腕に意識を集める。無理矢理に動かすと、順調に曲がった。骨折は免れた様だ。
「見えない腕――――お前、念動系か?」
「ほう……?」
適切な推測を口にすると、木場は薄らと笑みを作った。
「単なる低級能力者ではなさそうだな」
どうやら正解だったらしい。僅かに携えた顎髭を指で擦り、何度か頷いていた。
念動系の能力。
所謂、念動力による現象を引き起こす代物だった。サイコキネシスという別称でも有名である。人の意識で力場を成形し、自在に操る。思念から発生しているので、他の者はその現象が殆ど視認出来ない。
念動系の系統としても複数の種類が確認されており、能力の存在その物は特別に珍しくも無かった。
しかし、祐雅は内心で非常に焦っていた。
(やっべ……! こいつが念動系……腕の様な物を操るっているのは分かった。でも……!)
目で捉えきれない。
だから、立てられる対策が皆無だった。先日では相手の目に見える能力こそが、祐雅の立ち回りを可能にしていた。裏を返せば、視界に映らない念動系の前では防御すらままならない。
「……く、祗蓮……!」
そして、不意に倒れてしまった祗蓮の事も心配だった。倒れた状態を貫き、木場に気付かれない様に背後へと視線を向ける。
あの細い身体は未だに倒れたままだ。立ち上がる気配もない。まるで意識を失ったかの様だった。さっきまで全力で走っていた。そんな事は有り得ない、と祐雅はすぐに己へ言い聞かせる。
一体何が起こったのか。疑問を頭に張り巡らせ、回答を手探りで求める。
そこで、祐雅はようやくとある可能性を察した。
「まさ……か」
自分の浅はかさを強く呪った。相手が大規模な学園への襲撃者であり、その様子から少数精鋭だと勝手に思いこんでしまった。
一人目から逃げた先に居た二人目。そこから先への連想を怠った。実際には居たのだ、更なる伏兵が。
「ミスター。このガールでいいのかい?」
祐雅の予想を裏付けるかの如く、祗蓮の傍に一人の男が現れた。木場と同じく物陰にでも潜んでいたのだろうか。スーツを着た三十代らしき男性が飄々と立っていた。少し長めの金髪が、日の光で輝いている。
「来たか、ケイン」
「実にイージーだったぜ。これだけの仕事でいいのかい?」
祐雅の頭上で二人がやり取りを交わす。どうやら、この外人がもう一人の伏兵で間違いないらしい。
祗蓮を昏倒させたのも、ケインと呼ばれた男の能力だろう。どの様な能力か、想像はすぐにつく。人の心に干渉する、精神系だ。侵入者達は祗蓮の誘拐を企んであり、下手な傷は負わせたくないと考えられる。ならば、物理的な影響が少ない精神系の能力で行動不能にさせてしまうのが一番だ。
「く……そ…………!」
このままではいけない。
対応策も持たぬまま、祐雅は両腕を使って立ち上がろうとした。頭が真っ白だった。二人の能力者に囲まれていた。普段なら逃亡をすぐに思いつく。だが、祗蓮が倒れたままだ。どうにかしなければ、とひたすらに焦った。
「…………おや」
そこに、男の声がもう一つが重なる。
「――――っ!?」
つい先程に聴いたばかりの、柔和な声色だった。それを受け、祐雅は身体の奥底が凍える感覚を覚えてしまう。呟きを言った人物を確かめようと、視界の反対側へゆっくりと振り向いた。
「作戦は上手くいったようですね」
「ああ、春井か」
木場が新たに近づいて来た男の名を呼ぶ。春井明人。最初に祐雅と祗蓮が遭遇した天慧教団の残党だ。
この男を足止めする為に、あの祥子が相手をしている筈だった。最強クラスの能力者であるメイドに勝てる者などそうそう居ない。故に、頼る事に戸惑いは無かった。有難く祗蓮を連れて逃げさせてもらった。
「お……前…………!」
しかし、春井は現に祐雅の元へと歩み寄っている。しかもその頬を赤い液体で濡らしていた。
――まさか、祥子さんが負けたのか。
湧き上がって来る最悪な想像に対して、馬鹿な、と吐いて捨てたかった。有り得ない、と祐雅は何度も自分に言い聞かせる。
「……ごぶっ!?」
近づいて来た春井の靴によって、祐雅は転がっていた横顔を踏みつけられた。革靴の冷たくて硬い感触に圧迫される。口が開けなくなり、喋るのが難しくなった。
「おや? 何かを踏んでいる様な」
「て……め……ぇ!」
顔を上げようにも上げられない。そのまま、祐雅は地面に押さえつけられた。
「教主様は無事ですか?」
「イエス! この通り、お姫様は眠っているぜ」
「それは良かった。ならば、早くここから脱出しましょう」
提案すると同時に、春井が更に重量をかけた。
(――痛い、痛い、痛い! この野郎……っ!)
後で仕返ししてやる、と祐雅は心に決めた。だが、今は駄目だった。反撃どころか抵抗する素振りをする事さえも出来ない。ただ、こうして無力に瀕している時点で三人から脅威とは認められていない。そんな情けない事実が祐雅の命を救っていた。
「……ああ。そうだな」
木場は首を縦に振り、地面に横たわったままの祗蓮を見つめた。
そして、ぐったりと倒れていた身体が宙に浮く。祐雅を殴った念動系の能力が発動したのだ。巨大な拳で掴まれたかの如く、その肉体は腰元を支点として項垂れていた。
祗蓮を己の近くまで運び、木場が黒い背中を返す。
「では、行くぞ」
「お待ちください、木場様。柾谷と碓済はどうしますか?」
「放っておけ。あの二人とは先程から連絡がつかない。恐らくは風紀委員にでもやられたのだろう」
冷たく言い放ち、主導者は一歩を踏み締めた。
「……だが」
このまま逃亡すると思われた途端。木場が顔だけをゆっくりと回した。三白眼を光らせて、地面に接した顔を眺めた。
「そこの小僧は生かしておくと面倒そうだな」
「――――げっ!」
半面を歪めたまま、祐雅は言葉を失った。木場京悟の一言に肝を握り潰された。悪寒と動悸が激しく加速する。
(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ――)
殺される。
祐雅の脳裏に、血の海で倒れる自分の姿が明滅した。冗談じゃない。何とかしないと。そう胸中で叫ぶ。だが、虚しく心だけが空回りした。打つ手が一切無かった。
「……木場様。こんな学生一人に手間をかける時間はありませんよ? ご所望ならば、私が手を下しますが」
切羽詰まった心理を読み取ってか。春井明人が滑らかな口調で対抗案を出した。どちらにせよ、祐雅の命が消される事態に変わりはなかったが。
「いや。お前には教主様の世話をしてもらう。……そうだな、ケイン」
「何だい、ミスター?」
「この小僧、貴様が殺せ」
恐ろしい指示が、よりにもよって本人の前で放たれた。
「オーケイ。給料を貰ってるんだ。それぐらいは上げるさ」
(断っていいんだよ、このエセ外人! ついでみたいに俺の命を奪うな!)
心の中で必死に叫んだが、音にならない限り三人には届かない。喉から絞り出すには、春井が足を退ける必要がある。けれども、それはケインという外人が祐雅を殺すタイミングでもあった。
「アジトに戻る時は最低でも三か所は経由しろ。絶対に付けられるな」
「分かってるって、ミスター。そんなミスはしないぜ」
軽やかに会話を交わしてから、ケインが懐から折り畳みのナイフを取り出した。銀色の光沢が祐雅の顔を小さく照らす。
「では、行くぞ」
「………………はい」
木場の淡々とした言葉に、春井は小さく頷いた。命綱だった革靴が祐雅の上からそっと離れていく。
枷だった重量から祐雅は解き放たれた。だが、ここで倒れていてもナイフで殺されてしまう。もう懸念出来る選択肢は残されていなかった。素早く腕を垂直に押し付け、声と共に立ち上がろうとした。
「待――」
祐雅の口は、最後まで開かなかった。
「ノー! 静かにしなよ、ボーイ」
圧倒的な間の悪さで、ケインが能力をかけていた。瞬く間に倦怠感が祐雅の全身へと広がっていく。
「何だ……これ……!?」
胸の奥に溜まっていたやる気が段々と削がれていく様だった、現に、祐雅の身体中から黒く濁った粒子状の光が放出されている。闇色の粒は僅かに散布してから、すぐにケインの元へと走った。
「これがマイアビリティ、《気力強奪》さ」
ケインが自身の能力名を明かす。予想通り、精神系らしき名称だった。耳にしただけで効力が分かる。祗蓮が唐突に倒れた事も踏まえれば、気力とやらが無くなったら気絶してしまうとも考えられた。
しかし、祐雅は何も出来ない。
「……小僧、恐れる事は無い。すぐに貴様と同じ低級能力者が大勢あの世に行く。我らが教主、祗蓮様の名の下にな」
遠くから木場が納得を促す。
ふざけるな、と言い返したかったが唇が動かなかった。気力が吸われ、残された行動が限られているのだ。
木場と春井。スーツを羽織った二人の姿が、少しずつ遠くなる。ケインによって地に伏せた祐雅に再び興味を示しはしなかった。念動で浮かせた教主を確保して、ただ歩いていく。
「祗……蓮」
裏返りかけた小声で呼ぶ。
ざ、ざ、と足音を鳴らして天慧教団の二人は学園の敷地を進んでいった。せめて手を伸ばそうとしたが、それすらも不可能だった。
「祗蓮…………ッ!」
祐雅は最後の気力で名を呼ぶ。
微かな声色が響いて――静寂に飲み込まれた。そして、祗蓮を連れた襲撃者達は、完全に学園から逃げられてしまった。
学業があるので、次話の更新は二週間後ぐらいになると思います。書きたかった展開なのですが、少し詰まってしまいます。申し訳ありません。話としては半分以上を過ぎた所です。




