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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 ガーデン兵編
84/87

〜ガーデン本島防衛戦6〜

天に黒煙を立ち上らせ、艦首で波頭を切り開く巨艦が4隻。重巡洋艦 ヘレンの救援信号を受け取った戦艦部隊だった。

前後には巡洋艦と駆逐艦の護衛を伴う大艦隊は、ガーデンの保有する洋上戦力の主力部隊である。


戦艦部隊の先頭を突き進む戦艦 ガーディアンは損傷による傾斜や速力の低下を応急修理で、なんとか艦隊に追いつけるまでに回復していた。

そしてその艦橋内は、いささか好奇の雰囲気で包まれている。


『こちらレーダー。敵艦隊が間も無く可視圏内に入ります!』

「了解した」


新兵器の水上レーダーが、そのスコープに目標の影を映し出した。


『方位164 中型艦9、小型艦6の艦隊は単縦陣で航行中。現在の速力では、あと30分ほどで会敵します』

「合戦準備、ですな」

「ああ、そうだな。艦隊、索敵輪形陣より第4種警戒航行序列へ。駆逐隊は前進して海面下の索敵に努めよ」


空から見下ろすと二重の輪の様な隊列を組んでいた艦隊は、ライトの司令によってその形を変えていく。

足が速い駆逐艦は先行して水平線を見張り、主力の戦艦は陣の中央で縦一列に並び、その後ろに二列縦隊の重巡洋艦が続いた。


「しかし、ヘレンの報告よりも主力艦の数が多いのが気になるな。新手がどこかで合流でもしたか?」

「補助艦艇数は我が方10隻で上回っております。しかしこの差は...戦艦の喪失も視野に入れるべきでしょうな」

『駆逐艦 ハーヴェストより入電!我、方位164に黒煙を視認!確認求む!』


すぐさまレーダーと大測距儀が動き出し、指定方向を隈なく捜索すると、確かに水平線から立ち昇る黒煙が発見された。


『敵艦隊発見!方位164 距離21,000!!』

「ふぅむ...排煙の量からみても燃料はおそらく石炭。敵の進軍速度は?」

「相対速度から逆算すると....10ノットといったラインでしょう」

「型は?」

「主力艦で15,000t級の前時代的な戦艦と予測されます」


ライトの問いかけに航海長がすぐさま答えると、彼は唸りを上げながら眉をひそめる。


「なら何故ヘレンは負けた?報告時の数に誤りが無ければ、攻防力に劣る重巡とはいえ、砲の数と速射性能は圧倒的に優っている。速力もだ。スコール先で至近距離からの奇襲を受けたにしても、被害が嫌に大きいと思わないか?」

「我々は対モンスター戦闘は兎も角、対艦戦闘には不慣れな点もありますから、指揮のミスが起きてもおかしくは無いでしょう」

「そもそも巡洋艦と駆逐艦は、その速度を活かした哨戒や掃海が主な任務。防御機構も十分とは言えませんから、戦艦の砲弾に耐えろというのは酷な注文ではないでしょうか?」


面々からの意見に今度はライトの方が押し黙ることになった。

確かにガーデンの艦艇はモンスターの攻撃に耐えられる様に設計され、逆算的にどの程度の対艦戦闘に耐えられるかが導き出されている。


「だとすると、こんなご時世に艦対艦の戦闘を念頭に置いた設計で、戦闘艦艇を建造した国があるってことか?」

「ーーーーーッ」


ライトの一言に皆が息を飲んで表情を強張らせた。機関音のみが響く艦橋で、誰もが口をつぐんだまま目だけを動かして互いの顔を見つめ合う。


そんな中で再びライトは重たそうに口を開いた。


「もしそうだとすると、もしも敵が対艦戦闘の訓練を十分に積んだ相手だとすると、我々との戦力差はどの程度の詰まる?」

戦歴(けいけん)が無い以上は憶測(さあ)、としか。ですが彼我の建造技術が10年程度と見積もれば、2対1の戦いは厳しいかと」

「なるほど、だから倍差で来ましたか。上手い計算だ」


彼らは口元には薄っすらと笑みを浮かべているものの、目はギラギラと光り、握りしめた拳は微かに震えている。


水上艦艇は、言い換えれば洋上の移動砲台だ。旋回砲塔を備えた甲鉄艦が港町に向かって火を吹けば、ガーデンが港町ハファンスタッドにした様に、街の一つは簡単に瓦礫と化してしまう。

いくらガーデンが沿岸に防御用の砲台を備えていたとしても、遅いか早いかの違いだけで結果は同じ事である。


つまり、彼らには一時的なものも含めて【撤退】の二文字はあり得ないのだった。


「単発火力と装甲防御ではこちらが秀で、命中率と構造防御では敵艦隊が優れていると思った方が良いでしょう」

「だが有効射程(当たる距離)はこちらに利があるはずだ。アウトレンジで叩き潰せ」

「勿論です」


大まかな戦術が決まると、艦橋の中は再び緊張感の張り詰めた沈黙に支配される。


伝令による報告の声、艦全体を震わせる機関音、たらりと額を流れる大粒の汗。

それら全てが、刻々と近づく戦闘への緊張を高める為のリソースとして頭に溜まってくる。


「艦長、戦闘指揮を任せた」

「了解です」


指揮権を受け取った艦長は艦内帽を目部下に被って海原を睨んだ。その口元は笑みを浮かべる様に、微かにつり上がっていた。


(ーーー司令はああ言うが、やはり戦艦は戦艦同士の戦いでなければ!!)


対空射撃や木造の海賊船撃破といった、防空や掃海任務に従事してきた彼にとって、鋼鉄艦同士の撃ち合いは初めての経験だった。

それに加えて、このシチュエーションは彼が船乗りを目指すキッカケとなった過去の時代の海戦であり、憧れそのものだ。戦闘の現実を知った今でも、燻っていた火種は再び燃え上がる。


ーーー予想ではあるが、敵艦隊の射程は我が方の3分の2程。しかし敵には数がある。一方的蹂躙(ワンサイドゲーム)での完全勝利とはいかないだろう。


「対艦戦闘用意!方位盤射撃、弾種通常弾、甲板員退避。観測射撃...撃てッ!」


狙いを定めた主砲が一斉射撃を行う。

撃った砲弾(たま)散布界(バラつき)は、標的の浮かぶ21km先では直径数百メートル前後もある。この距離での命中は初めから望まれていないが、着弾点を確認し、徐々に命中率を上げるという遠距離砲戦の鉄板だ。


ーーーそれでも、戦艦の砲は有効射程距離での命中率が17に±1%といった程度。


閃光と爆炎が甲板を包み、その圧力は艦内の乗組員達でさえ内臓が迫り上がる様な圧迫感に襲われるほど強烈なものだ。

砲煙が薄れゆく中で、艦橋の頂上にある見張所にて数人が双眼鏡越しに目を凝らす。

上空約8000mまで上昇した砲弾が降下し、着弾するまでに要する時間は、おおよそ40秒。


「弾ーーー着ッ」


長い様で短な時間の後に、遠方の海面に無数の水柱が立ち昇った。


「上げ7、右1、修正射急げ!」

「第二斉射、爆風注意!!」


再び砲撃の振動が艦と海を揺らし、弾を空へと撃ち上げる。

そして同じ作業が繰り返されること6度目、遂に敵艦隊の砲戦も始まったことで、海戦はいよいよ本格的な様相を見せ始めた。


「本射撃用意!方位盤そのまま、弾種徹甲弾」

『徹甲弾装填完了』

「撃てッ!!」


狙いの定めた相手に、今度は徹甲弾が空を舞った。


榴弾の様に大量の炸薬が詰まっている訳ではないので、当たっても小規模な爆発が起きるのみだが、徹甲弾の破壊力は火薬量ではない。

大口径弾が高速で発射され、目標に当たることで発生する運動エネルギーの暴力で硬い装甲板を食い破り、内部に被害を与える。

ガーディアン級戦艦の徹甲弾であれば、三階建の鉄筋コンクリート建築なら1発で倒壊させられる破壊力を秘めていた。


「弾ーーー着ッ」


到達した弾の1発が敵艦に当たり、火柱が上がった。


「目標に1発命中!敵巡洋艦中破!!」

「流石に巡洋艦相手なら問題なく砲弾は突き刺さるか...標的を敵戦艦に変更しろ」

「敵艦隊発砲!!」


確認と修正を繰り返すうちに、ガーデン艦隊と敵艦隊の距離は10,000m弱まで接近していた。


「艦隊、回避行動を取れ」

「敵艦隊の増速を確認!修正急げ!!」


両艦隊の砲撃と回避行動が始まり、本格的な砲戦が、現代人の忘れ去った古の海戦...艦隊決戦の火蓋が切って落とされた。


「敵弾飛来!」

「衝撃に備えーーーーっ!」


ドドドンと轟音と共に砲弾が近くの海面に落ちる。四万トン以上の巨艦といえど、全身を身震いさせる様に激しく揺さぶられた。


「敵弾夾叉(きょうさ)!」

「我が方の砲弾も間もなく到達。弾ーーー着ッ!全遠弾」

「距離はだいぶ近づいている。焦らずに、確実に1発ずつ当てていけ」

「護衛艦と副砲群も砲撃を始めます!」


射程の足りていなかった中小砲が火を吹き始めると、砲弾はほぼ絶え間無く敵艦に降り注ぐ様になる。

すると回避のために敵味方の陣形は崩れ、それに比例して砲撃の精度は落ちていく。


それでも高練度の射撃によって、数発の砲弾がガーデン艦隊の何隻かに命中する。砲弾は浅いところで炸裂して、大空へと紅いセロファンの様な炎を上げた。


「敵は榴弾(りゅうだん)で攻撃しています!」

「何故だ!戦艦に対して榴弾は効果が薄いぞ!」

「しかし、護衛艦には効果絶大です!」


それは軽くて薄い弾体の中に炸薬をたっぷりと詰め込んだ砲弾で、大口径砲から放たれるそれらは、装甲の薄い巡洋艦や駆逐艦、戦艦でも無装甲の上部艤装に対して絶大な効力を発揮する。

立ち所にして一隻の駆逐艦が弾け飛び、後続の戦艦も副砲や指揮所に損傷を受けた。


『駆逐艦 キスティス轟沈!』

『戦艦 パラディン小破!戦闘行動ニ支障ナシ』


砲戦距離が縮まってくるにつれて猛威を振るい始めたのが巡洋艦や駆逐艦といった中小の艦である。快速性と機敏な砲旋回によって敵艦隊に打撃を与えた。


「いいぞ、いいぞ!」


重巡 テレサは標的として捉えた敵巡洋艦に10発以上の命中弾を与え、自艦もほぼ同数の砲弾を受けていたものの、装甲による防御性能の差で優勢に戦闘を進めていた。

そして、また1発が中央部を撃ち抜くなり敵艦は大爆発を起こして戦列から落伍。大きく傾いて停止しているところを駆逐艦の集中砲火でトドメを刺された。


「敵の巡洋艦を撃沈!」

「ふむ、やはり硬いな」


技術格差のある同艦種が鍔迫り合っても相当に時間が掛かった。加えて、当方は巡洋艦2隻が中破して駆逐艦を一隻失っていた。

そして次の瞬間、ほぼ同時に敵旗艦と戦艦 ガーディアンに1発の命中弾が出た。


ガリッともゴリッともいう様な音と共に、至近弾とは桁の異なる振動で艦全体が大きく揺さぶられる。

装甲板を撃ち抜いた敵の砲弾が艦の中枢部に損傷を与えた音だった。


『右舷中央部後方に命中弾!重要防御区画(バイタルパート)貫通!!』

「被害確認急げ!」


艦の防御を担う副長の命令ですぐさま被害確認が行われると、ある一つの事が判明した。

それは、敵の徹甲弾が炸裂していないということだった。無論、始めは不発が疑われたが、重要区画に突き刺さった一本の棒が特殊な合金の塊であることが発見されるのに時間はかからなかった。

つまるところ敵弾は、比較的に軽い弾体で装甲板を砕き、硬質の弾芯は高速で飛来したことによる運動エネルギーの暴力で艦を破壊したのだ。

この構造だと初速の落ちる遠距離砲戦では威力を十分に発揮できない。だから十分に距離が縮まるまで相手は榴弾で攻撃して、中近距離砲戦で厄介な副砲といった補助兵装を破壊していたのだろう。

そしてその撃ち分けは、現在進行形で有効性を物語っている。旋回が遅い主砲の動きは忙しなく、動く度に再照準を余儀なくされる。


対する敵艦は、低速ゆえに砲の旋回と回避行動とでチグハグが生まれない。


「まさか、石炭専燃機関なのは燃料補給の、旧式低速なのは至近距離の殴り合いを計算しての設計だったということか」


ガーデン艦隊の様な重油専燃機関は速度に秀でている一方で緊急時などに停泊地での燃料補給が出来ないが、石炭であれば安易に補給が行える。

そして、表面硬化処理の施されたガーディアン級戦艦の装甲は、ランサードラゴンの様な、砲弾に似た性質の攻撃を放つ相手に対して有効な防御力を発揮できる装甲である。正面から攻撃が当たれば装甲板によって棘などは砕け、斜めに当たれば滑って弾き返せる様に作られている一方で、あくまで防御力は物理依存である。

何かしらの方法でそれを無効化されてしまえば、装甲は硬い板から、ただ分厚い板になってしまう。


「いかん!我々は敵の狩場に誘い込まれたぞ!」

「敵は短距離砲戦特化型だ!!」


叫び声に続いて2発の主砲弾と6発もの副砲弾が戦艦 ガーディアンに命中。先の様な重大な損傷は無かったものの、同艦は激しく燃え上がり中破した。


『後部甲板にて火災発生!』

『副砲弾薬庫室温上昇!』

『通信マスト大破、使用不能!』

『方位盤損傷!統一射撃不能!』


伝声管伝いに艦内各部から被害報告が上ってくる。

浅い箇所で炸裂した砲弾が多発した為、補助装置系の被害が多発していた。

特に方位盤の損傷は大きく、全主砲を統一制御した射撃が不可能となり各個射撃を余儀なくされる。


「主砲、砲測射撃へ切り替え!射撃は各砲任せた」

「我が方の巡洋艦 アテナの沈没を確認!」

「くそっ!」


ガーディアンと敵艦隊による旗艦同士の殴り合いはその後もしばし続き、さらに2発の主砲弾が双方に命中する。


戦艦 ガーディアンは、一発が1番主砲の旋回盤を破壊してこれを射撃不能にして、もう一発が後部艦橋をなぎ倒され、敵戦艦には、一発が舷側の装甲帯を貫通して大損害を与え、もう一発はマストを一本へし折った。


続く副砲群の射撃は双方ともに熾烈(しれつ)を極めたが、ここは船体規模の差が物を言い、敵旗艦は中央から後方へかけての上部構造物に甚大な被害を受ける。


それでも、敵はすぐに主砲の再装填を終えて次の斉射を行うと、四発の30.5cm砲弾が戦艦 ガーディアンに飛来する。


「回避運動!取舵一杯急げ!!」


急転舵で回避を目論んだガーディアンではあったが、砲戦距離が8,000mを切った超近距離砲戦では、あまりにも遅過ぎる行動であった。


「一発直撃コース!!衝撃に備えーーーーッッッ!」


叫び声からしばらくして、ズズンという振動が艦を揺らす。


「被害状況!!ーーー」

缶室(ボイラー)に損傷!速力低下!!』

『艦の傾斜、ただ今右へ5度!』

「損傷部の隔壁を閉鎖、排水ポンプ作動!」

「高角砲へ、敵艦へ応射せよ」


副長の修復指揮と、艦長による戦闘指揮が伝声管をせわしなく行き交うそんな中、司令であるライトはジッと敵艦の艦尾に掲揚される軍艦旗を睨みつけていた。


ーーーあの旗はイスランディ帝国海軍のものだ。セントウエスティアの覇権国が何故ガーデンに砲を向ける?


セントウエスティアのイスランディ帝国といえば、毎年重鎮の跡取り息子が必ずと言っていいほど受験しており、その人口はガーデンの上から下まで入れて2%ほどに上る。

近年の国交で特別な近寄りも緊張も無く、国際的にも中立を保つガーデンに、正面から殴りかかってくる意味がわからなかった。


ガーデンに手を出せば、いかなる理由があろうとも向う50年は傭兵の派遣を行わないとは、国際的にも宣言して承認されているものだ。

加えて、モンスターが跋扈(ばっこ)して貿易もままならない世の中で、人同士で殺し合う旨味は薄い。

母国がモンスターに滅ぼされそうだといった逼迫(ひっぱく)した理由でもなければ、現代では対人戦争など起こるはずもないのである。


ーーーかの帝国が危ういという素振りも情報も、確か無かったはずだが...


イスランディ帝国は人類の築いた国の中でも史上3本指に入る強国である。

甲鉄艦の建造や量産を行う数少ない国の一つで、文明では世界屈指、技術力でもガーデンに引けを取らないレベルを誇っていた。


「全艦へ発信。『我、敵旗艦との一騎打ちを行う。手出しは無用。』以上だ。加えて本艦は敵旗艦の戦闘能力のみ奪え、撃沈は許さない」


何にせよ確認が必要だと判断したライトは、敵将の座す戦艦の鹵獲(ろかく)を考え、指示する。


手旗信号によって指令が下されると、ガーデン艦隊は可能な限り他の敵艦を引き連れて戦闘海域を離れていく。それにより、直近数キロの海域には戦艦 ガーディアンと敵旗艦のみの決戦場が出来上がった。


「生かさず殺さずとは、司令部も難しい注文をするもんだ」


思わずそう呟いた砲術長はため息を零す。


船を浮かんだまま鎮圧するには、上部構造物に狙いを定める必要がある。しかし、敵の司令部を殺さないようにするには更に狙いを絞って敵艦の中央部と前後2基の主砲を破壊しなくてはならない。それも弾火薬庫直撃による轟沈を避けての事だ。


「当てるだけで容易じゃないのに、加えてあんな細かく指示されてもねぇ」


数キロ離れれば、海上の船など点でしかないし、互いに波で揺れる艦上から砲撃するのだ。

「どのあたり」までは狙えても、それが「どこ」に当たるかはわからない。


それでも彼らは努力した。

その後、砲撃中止命令が出るまでに当てた砲弾の数は3発。1発は敵艦の後部主砲正面防盾を貫いてこれを破壊し、残る2発は船体中央部に命中して機関室にダメージを与え航行不能にせしめた。


しかしその結果として、敵艦は完全に沈黙して左前からゆっくりと海面に身を沈めつつあり、海面には多数の遭難者が漂流している。

対する戦艦 ガーディアンも1、3番主砲を完全に破壊され、甲板は火の海と化し、雄大だった上部構造物は見る影もなく破壊され尽くし右に傾いていた。


「敵艦の戦闘旗と軍艦旗が降ります」


やや見晴らしの良くなった艦橋から双眼鏡を覗く監視兵の言葉を聞いて、司令部はようやく一息つける様な思いがした。


「救助活動は如何なさいますか?」


艦長が、漂流者救助について、司令のライトに指示を仰ぐ。彼は首を横に振った。


「未だ本海域は戦闘中だ。それに、ガーデンは侵略者に手は差し伸べない。情報を持っているであろう高級士官のみ引き揚げろ。それと、誰かクラーク=オイゲンを呼んできてくれ。完全武装で来いともな」

「では私が」


ただ一言冷たく指示を言い放ち、駆けていく伝令を横目に見る。しかしその後でこうも付け足した。


「そうだ、同じ船乗りとして、死力を尽くして戦った良きライバルとして、急を要する現場以外の総員で右舷側へ10秒間黙祷を捧げよ」

「はっ!」


船乗りにとって、敵は船であってその中にいる人ではない。故に、こうした戦後の凪には不思議な同情と共感が胸中を駆け巡るのである。

それらを言葉にはせず、戦艦 ガーディアンの乗組員2,844名は敬礼とするのであった。


それが終わって、艦から将校回収用の内火艇を降ろす作業中に、ライトには見慣れた巨体が艦橋に入ってきた。


「お呼びでしょうか?」

「ああ。完全に職務外の願いなのだが、貴官には沈みゆく敵旗艦に侵入して軍艦旗と適当な資料を持ってきてもらいたい」

「・・・なるほど、道理で俺が呼ばれた訳だ。了解しました」


そう頼むライトに、クラークは一瞬だけ困った様な呆れた様な苦笑を浮かべ、真顔で返事をする。


「沈没するまでの目安等が分かれば教えていただけますか?」

「完全に沈みきるまでおおよそ30分と言ったところだが、浸水状況の急変などで激しく上下する可能性が高い。ーーー10分で帰ってこい」

「・・・了解だ」


勝手のわからない敵艦を、往復含めてたった10分で探索など無茶だと思うクラークではあったが、友人の頼みということで整理をつけると、横のウイングから飛び出してそのまま飛翔していった。


『内火艇の発進準備完了!・・・ところで、将官以外が寄ってきた場合、対処は如何なさいますか?』


内火艇の準備が整ったところで、伝声管からその様な疑問が飛んでくると、ライトはこれを一蹴した。


「情けは要らん。全員射殺しろ」


熾烈(しれつ)な海戦の片隅で、一艘の内火艇が海上を駆け出した。

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