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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 ガーデン兵編
83/87

〜閑話休題〜

*注意!


この話は、本編時間軸とはビミョーに関係の無いパラレル的な回です。

深く考えずにお読み下さい。

焼け野原と化した元寮棟の跡地。急造バラックの一つである俺の部屋。紗季は救護の仕事で出かけてしまって俺一人ポツンと残されていた。

手持ち無沙汰から始めた装備の点検と整備もひと段落ついて手を洗い、ちょうど時間も頃合いなので炊き出しのご相伴にあずかろうかと思っていたらスズナがヒョッコリと顔を見せた。


「トリックオアトリート。ファーザー、菓子類の提示を要求します」

「どうしたんだ、いきなり」


髪飾りか何かでピコンと狐耳を生やした彼女の開口一番に思わず思ったままの言葉が口から飛び出す。


「本日はこの掛け声とともに菓子類を要求する祭日だと聞かされました」

「ああ、そういえば去年も同じように絡まれた記憶が...なるほど、そういう事だったのか」


おそらく、シラギ先輩あたりの入れ知恵だろう。


ガーデンは傭兵機関であるものの、こうした催事は大体的に執り行う。

もっとも今回に関していえば、生々しい戦後の緊張を和らげる効果も期待されているのだろう。しかも甘いものは栄養価も高い上に心的疲労も癒す力がある。なるほど効率的なものだ。


「参ったな。今は手元に無いんだ」


とはいえ、性格柄手元にそうそう甘味など置いていない。紗季用のものが幾らかあった記憶もあるが、部屋と共に焼けてしまって今では瓦礫の下だ。


「了解しました。ファーザー」


俺の回答に頷いたスズナは、半歩引いて残りの一文を口にした。


「ではイタズラです」

「・・・ッ!」


失礼な話だが、わずかに身を引いて身構えてしまった。

先日の戦闘で嫌という程に実感したが、スズナは言われた事を鵜呑みにしてしまう、赤子のような素直さを持っている。そんな彼女の「イタズラ」とは、果たしてどのようなものなのか。


ーーー最悪バラックが消し飛ぶ。


そんな事が脳裏をよぎった瞬間に思わず体が後ろへ逃げたのだった。


「・・・ファーザー、それはルール違反です。大人しく(わたしたち)に捕縛されてください」

「ごめん。でも一つだけ、イタズラは対象が俺一人で済むようにしてね」

「・・・?もとよりそのつもりですが?」


首を傾げて、無表情に疑問符を浮かべた。

変に身構えるのも失礼だし、俺にしか被害が及ばないのなら、最悪五体が無くなっても今なら平気だ。

一息ついてから覚悟を決める。


「よし、いいぞ」

「ではファーザー、少し頭を下げてください」


指示に従って中腰の姿勢になり、目線が合う辺りまで屈んだ。


「このくらいかな?」

「はい、ありがとうございます。では...」


頷いたスズナが近づき、顔を寄せる。


・・・ん?これはまさか。


いや、まさかも何もないし、そこまで鈍感な神経もしていない。この動きは間違いなくーーー


「ちゅっ」


そこは声に出すんだと脳裏をよぎりつつ、予想通りに柔らかく、ほんのりとしっとりした感触を左の頬に感じた。


「イタズラの完了です、ファーザー」

「いいや、うん。確かに驚いた。いったい誰に教わったんだい?」


事と次第によってはタダじゃあ済まさない。

自我の希薄な娘を誑かした罪は十分に償ってもらう必要がある。


揺らめく殺気を押し殺しながら尋ねると、予想外な答えが返ってきた。


カーディナル(マイマスター)からです」


あの野郎、いつか本当に心臓を喰ってやる。


「そうか...。あの人の言うことはあんまり信じちゃダメだからね」

「マスターからの命令は、(わたしたち)の最高指令です。ファーザーにコレを妨害・改変する権限は存在しません」

「命令じゃないんだけどなぁ...」


機械のような彼女にはどう説明したら良いものか。

指示と忠告の使い分けができるとも思えないし、命令か否かだけで物事を処理する彼女に『お願い』が通用するとも考え難い。参った。


「少し倫理の勉強をしようか。スズナも人として生きていくのなら、兵器としての役割だけでなく、人としての在り方も学んだ方がいいと思うんだ」

「それは必要なことでしょうか?(わたしたち)には動物の壊し方が完璧にインプットされています」

「思考を持った生物には、心理効果を狙った戦術も有効だ。上手く扱えば一つの行動で多くを滅ぼすことだって出来る。とても合理的で有効的だと思うんだけどな」

「確かに、無駄を省くき、戦術パターンを増やす為には良いかもしれませんね。了解しましたファーザー、倫理についてのご鞭撻をお願いします」


適当に言いくるめると、思いの外あっさりと納得してくれた。あくまで戦闘のためという位置付けらしいが、それでも倫理から常識を教えてやれば、思考するくらいの自我は芽生えてくれるはずだ。


ーーーまあ、それはおいおい進めるとして。


「その、とりっくおあとりーとってのは何なんだい?」


訳せば「企みか奢りか」になるので、この場合の企みがイタズラを、奢りが菓子を指す言葉なのだろうとは察しがつく。

だが何故そのように言うのかが分からない。


「ハロウィンと呼ばれるウエストエンドの古代宗教に基づいた祭事で、冬の始まるこの日には霊や精霊が現世に現れ、それらを欺く為に人々は扮装して魔除けの焚き火を囲んだと伝わっています。菓子類の要求はそれらにあやかった子供達の風習が定着したものと思われます」

「懇切丁寧な説明をありがとう。つまるところは西のお盆みたいなものか」

「その推測で概ねよろしいかと」


なるほどと納得のいく説明を受け、数年来の小さな疑問が一つ拭われる。


と、そこでまた複数の気配が近づいてくるのを感じた。どれも知った気配だ。


「「「トリックオアトリート」」」


顔を見せたのはアイシャ、エレン、ネリシャの三人でだ。紗季が仕事で居ないのを聞きつけたのか、普段はあまり見られない組み合わせだ。


「これって年齢制限とか無いのか?」

「子供が行うものですので、広義的には未成年であれば許容されるものかと」


知っている限りでは、この中に未成年者は居ない。

それどころか、ネリシャにいたっては未成年はおろか俺の数倍は生きている。というか、本当に精霊(エルフ)がやって来た。


・・・しかしまあ、折角楽しんで来たのだから無下に扱うのも可哀想だ。仮にも、ネリシャ以外に対しては年長者であるわけだし。そもそもスズナの様にイタズラに怯える必要もない。


だが、揃いも揃って狐の扮装をするのは何なのだろう。俺への当てつけかな?


「悪いけど、お菓子は持ってないんだ。それで、スズナにも今イタズラされたところだ」


まずもって、この惨状で菓子類を持っている奴が居るなら是非寄ってみたいものだ。


「じゃあ...イタズラ..」

「ですね〜!!」

「どんなイタズラにしましょうか?」


女子三人は円陣を組んで悪巧みを始める。

聴力の問題で丸聞こえなのは無視してあげるのが優しさだろう。


「まず...私から....」


ズイッと近づいたエレンが頭を差し出す。


「頭...撫でて....」

「お安い御用だ」


ポンと手の平を彼女の頭に置いて、その頭頂部から後頭部までをゆっくりと撫でてやる。

やや疲れてクタッとした髪質ではあるものの必死で手入れしてきたのか、それらしい痕跡がいくらか見つかった。


「頑張ったな」


そう呟くと、彼女の細い腕が俺の腰をぐるりと回る。

抱きつかれてしまった。


「ん...」


目を細めて心地好さそうにするエレンを撫で続けること二、三分。ようやく満足したのか腕が離れた。


「甘いなぁ、青春だなぁ...」


それを見ていたアイシャが顔を紅くしながらポソッと呟いた。

こんな殺伐とした青春があってたまるか。


「次は私ですね」


心の内でツッコミを入れていると、続いてネリシャが前に出た。


「目を瞑っていただけますか?」

「ああ、それくらい何ともないよ」


この三人の中では、事後的に最も恐れていたネリシャの指示に従って目を閉じる。

今ばかりは紗季が出かけていて良かったと心から思う。


「いきますよ〜」


気の抜けた声と共に、温かな息が右耳を凪いだ。


「ぬわっ!!」


文字通り飛び上がって驚き、頭のてっぺんから尻尾の先まで身の毛のよだつ思いをした。

その様子を見てネリシャはクスクスと笑っている。


「ふふっコヨミさん、お耳が弱いんですね」

「・・・」


敢えて答えずに流し目に留めておく。

しかし、いつもの彼女に比べて押しが弱い気がするが何かあったのだろうか?


彼女も彼女で特権と引き換えにかなりの無理難題を上層部から言われているらしいのでその事で気兼ねがあるのかもしれない。折を見て相談事がないか聞いてみるとしよう。


「で...最後はあたしか」

「だね」


一番予想がつかないアイシャが最後に残った。

訓練兵団時代に同班だったとはいえ、エレンほど絡んでくることもなかったので趣味趣向はほとんど知らない。それどころか、班外に交友関係を広げていた彼女がネリシャとエレン(この二人)と一緒に行動していること自体が珍しい。


「アイシャはどんなイタズラを俺にするんだ?」

「そう言われると、なんか言い出しにくいなぁ」


乾いた笑いを浮かべながら頬を擦ると、部屋の中をキョロキョロと見回始めた。


「んー...じゃあアレ。コヨミがよく使ってる爆雷針(ボムピック)を1本もらえる?」


そう言ってボロ布の上に並べられた俺の装備を指差した。


「別にいいけど、これならガーデンの購買で安く売ってるよ?」


確か十本の束になって銀貨一枚くらいの値段だった筈だ。銃弾と同じ様な感じで、消耗品として安価に並べられていたと思う。


「一本じゃ護身用にしても心許ないだろう。何なら三本くらいあった方が実用的だけど」

「いや、いーのいーの。何て言うかほら、御守りみたいな感じでさ、それならそんなにかさばらないし、戦場にも持っていける。だから一本がいいなって」

「そっか」


そう言うなら無理に押し付けても仕方がない。

キラリと光る大針を一本取ってアイシャに手渡す。


「危ないから持ち運びには専用の(ベルト)を買った方がいいよ。投げ方はーーー」

「投げ方はコヨミがやってるの見て覚えたよ!」

「ーーー流石だ」


相変わらず見様見真似の得意な娘だ。


「でも、使う時には針の尾部にある信管を押しておかないと爆発しないから、注意するんだよ」

「はーい」


元気のいい返事をした彼女はクルリと身を翻して女子群に戻っていく。


ーーーと、そこで誰かの胃の音が小さくなった。


「くっ...」


アイシャが耳まで真っ赤にして顔を伏せる。


「ははっ、皆んなもまだ食事が済んでないようなら一緒に行かないか?食堂は建物ごと無くなったけど、炊き出しに参加すればそれなりの食事は出ているって噂だ」

「本当に!もう携帯食生活しなくて良いんだ。やったー!!」


炊き出しの情報は知らなかったのか、それを聞いたアイシャは飛び上がって喜んだ。脇ではネリシャも胸を撫で下ろしながら苦笑いを続けている。


孤島での数少ない楽しみから食事が消えていた昨今は沈鬱とした雰囲気がガーデン中に流れていた。

技術開発班の面々も同じ様子で、そんなに不味いならば携帯食の改良をしてもらいたいくらいだ。


「美味しいのに...」


一人携帯食信者のエレンだけは小さく意義を申し立てていた。


「早く行こ、早く行こ!」

「ああ。・・・スズナも来るか?」

「・・・食事による士気の上下は気になるところです」

「それは行くってことで良いんだよな?」

「イエス、ファーザー」


アイシャに捲し立てられるようにして五人でバラックを後にする。


炊き出しの場所までは少し歩くようで、復旧の進む通りを進んだ。瓦礫は退けられたものの、道端には銃と剣の墓標が至る所に立ち並び、崩れたり焦げたりしたままの道は未だに戦火の激しさを物語っていた。


加えて俺の視界では時折、成仏出来なかった者や、死んだことに気がついていない者の影が白い(もや)のように通り過ぎていく。


ざっと勘定をして、二千人くらいは亡くなったであろうか。被害は砲台群に配置された者が最も多く、次いで白兵隊が二番手に上がる。


再建のため、我々一般兵はしばらくガーデンの各泊地に分散させられて、そこから出撃という形になるらしい。物資は泊地にも備蓄があるらしく、当面の活動には支障はないとの事ではあるが、消耗の激しい戦闘物資の補給が無いというのは何とも心許ない話だ。


それに、島の中では簡単に会えた友人とも離れ離れに配置される可能性は非常に高い。


「ーーー寂しく、なるな」

「どうかしたの?」


つい溢れた言葉にアイシャが反応する。


「いや、何でもないよ」

「?」

「ははは...」

「・・・」


首を傾げる彼女に空元気に笑って見せると、今度は反対側でエレンが黙って俺の袖を摘んだ。


みんなが感じている無力感と喪失感。カーディナルには傷の舐め合いと馬鹿にされたが、こうしてみると悪いものではない。


そのうちに、明るい笑い声と調理の煙がこちらまで届くようになってきた。


「おっ、やってるやってる」


元は噴水広場であった、訓練生区画の中央区で炊き出しは行われていた。

料理をしているのは訓練生の女子生徒が主で、男子が配膳や片付けを手伝っているようだった。


「地下壕に避難していただけあって、訓練生たちに死者はいないらしいね」

「ええ、彼らだけでも守れたのなら、私たちも戦った甲斐がありましたね」


確かに、熟練が減るのも問題だが、若手が減るのはそれ以上に問題だ。彼らがこうして元気に働いている姿を見ると、流された血も無駄ではなかったのだと実感できる。


「じゃあ早速、いただこうか」

「そーしよー!」


誘導に従って列に並び、待つ事それから十数分。

配られた食事はかぼちゃのパイだった。


「何故かぼちゃ?」

「ん?コヨミ知らないの?ハロウィンにはかぼちゃのお菓子を食べるものなんだよ。・・・まあ、このパイはお菓子って言うよりはご飯に近いボリュームがあるけどね」

「かぼちゃの前はカブを使っていたんですよ。私の里にもお供え物として毎年来ていましたが、どちらも栄養価が高い食品なので重宝しました」

「まさかの供えられる側でしたか...」


伝統を汲んだ料理というわけか。

一口かじってみると、かぼちゃの甘さと小麦生地のドッシリとした食べ応えを感じ、一欠片でもかなり腹持ちが良さそうだ。ネリシャの言う通り栄養価も高いので、一食くらいなら食事にしてしまっても差し支えはない。


「うん、美味しい」

「そう言われれば、作った子達も喜ぶよ〜」


チラリとアイシャが視線を向けた方に目を向けると、数人の女子生徒が調理場の端からこちらを眺めていたが、手を振るとすぐにいなくなってしまった。


「...甘い....美味しい...」

「エレンも気に入った?」

「んっ...」


珍しくエレンが表情を明るくしてパイを頬張っている。普段無表情な彼女の見せるその姿は、何とも愛らしい。


「ハロウィン...か」


興味無いと関わってこなかった祭りだったが、実際に参加してみるとなかなかに楽しいものだった。


ちなみに、紗季の分にと一つ持ち帰りを打診してみたが、参加者のみと言う事でお土産は入手できなかったのが心残りであった。


叶うのなら来年も皆んなで、紗季も一緒に楽しみたいものだ。

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