〜ガーデン本島防衛戦4〜
〜ガーデン本島防衛戦4〜
何にせよ、いきなり竜の暴れる地上へ飛び出す訳にはいかない。
いくつか部屋を巡ると、腕や頭に治療の跡を残した兵たちがゴチャゴチャと再武装を進める部屋に辿り着いた。ちょうど良く、治療を終えた軽傷者たちが出撃の準備をする場所に入ったようだった。
部屋の中を見回して、高等兵団員らしき数人に目星をつけて近づいて敬礼する。
「一般兵団剣士部の水上 暦です。士官殿、戦況をお聞かせ願えますでしょうか?」
「西部守備隊指揮官のクレマンだ」
手近な一人が敬礼を返し、説明してくれる。
話によれば、つい先ほどまでグレイ高等兵団長の陣頭指揮による戦闘が行われていたものの、現在は損耗した部隊を再編するために一時硬直状態となっているらしい。
「討伐隊の航空支援はどうしたのでしょうか?」
「この煙じゃ飛べないそうだ。シラギ隊長らが駆けつけたって話だったが、今しがた撃墜されたといの事だ」
撃墜、あのシラギ先輩が落とされたいうのか。
いくらなんでも、手負いの竜一匹に先輩がヘマをするだなんて考えられない。
「シラギ隊は無事なんですか!」
「わからない。我々も通信で知ったばかりだ。だが、三人編隊の内1つは落下中にパラシュートが開いたそうだ。それが誰のものかまでは続報が無い」
多分、その一つが先輩で間違い無いだろう。あの人は何処までも強かで、生き抜くことに周到だ。
「ありがとうございました」
「ただの情報伝達だ。・・・ところで、貴様も手が空いているのなら我々と共に再度出るといい。剣士ならば、人手が余るということもない」
どうしたものか。適当なところで組織の指揮下に戻らねばとは考えていたが、今はスズナの事もあるし、何より命令で動いていてはカーディナルの挑戦を達成できる可能性が下がる。
ーーーいや、剣士ならば最前線に立たされる。そして目標はこの部隊の担当区域に居るのだから、スズナと共に前へ出て戦うのも手かもしれない。
二人で本気の戦闘を繰り広げれば、人間では割り入る隙もないだろう。
問題は、カーディナルたちがどんな隠し球を持っているかだ。
冷静に考えて、僅かながらも力を取り戻した俺に瀕死の竜を早く殺してこいと言うのは報酬との賭け金が釣り合わない。
ならばどうするか。
俺がスズナや紗季の安否を気にして病院棟まで来ることは簡単に推察できたはずだ。ともすれば、こうして再編部隊と落ち合う可能性も高くなる。
グレイが部隊を引き、補充員を確保するために招集をかければ、現在のように声をかけられる事もあるだろう。そして、俺にはそれを断る理由が無い。ここで首を横に振れば、それは敵前逃亡になってしまう。
それに、いざという時に俺の動きを止める手を彼らが持っていないとも限らない。
姿の見えない紗季もそうだが、友人知人からが駒として手元に置かれている可能性もある。親しい誰かが二人の手にあるとしたら、それだけで抑止力になる。
・・・本当に、後手に回れば回るほど八方塞がりになっていく。
故に遊戯か。
仕方がない。ここは一つ流れに沿うのが無難な手だろう。
「了解しました。麾下に加わります」
「頼んだぞ」
「待って」
クレマン士官さんと握手を交わしていると、スズナがその間に割って入ってきた。
「私も参加いたします」
「君は?」
「カーディナル・スクエアよりドラゴンの討伐を命じられました」
「なに?」
スズナの声を聞いた途端に、彼らの表情が変わる。
何かを小言でボソボソと相談し、自信の様な恐れの様な顔をしていた。
「君がリーサルウェポンか。とすればコヨミ、差し詰め君は彼女の保護者かね?」
「・・・そうとも言えます」
嘘は言っていない。が、そうとは言わない。
「場所を移そう。ここは人が多すぎる」
士官は背後の人だかりにチラリと目をやり、続いて脇道の方へ視線を流す。
あちらへ行けと言っているのだろう。
「すまんが、少し席を外す」
「ああ、直に出発だ。急げよ」
「わかっている」
立ち上がったクレマンさんと共に先の小道に入り、少し進んだあたりで足を止めた。
「前線にいる我々へ、一時間ほど前にある指令が下った。実験兵器が投入されるので、急ぎ地下壕へ退避しろとな」
汗を額ににじませた彼は、ピタリとスズナに視線を合わせたままズラそうとしない。
まるで起爆寸前の爆弾から目を離せない様である。
「そして私は退避指揮中に見たのだ。その娘が、たった一人でドラゴンと戦っている様を...」
なるほど、それなら驚いたって仕方がない。
自分の部隊を壊滅状態に追い込んだ竜を相手に、単騎で戦う彼女の姿を見れば、普通は恐怖を抱く。
と、そこでスズナが拳を握り締める。
「ファーザー、現在は私に関する情報統制が敷かれている為、クレマン高等兵団員は任意執行対象です。如何なさいますか?」
「なっ!」
冷たいスズナの声を聞き、彼の顔が青ざめる。
「決定権は俺にあるのか?」
「はい」
「ならやめなさい」
こんな所でつまらない殺人をしたって意味が無い。与えられて困る権限ではあったが、止めろと言うとスズナ直ぐに腕を下ろした。
「イエス、ファーザー」
「はぁっ...」
殺気が消えて、クレマンさんも安堵の息を吐いて胸を撫で下ろす。
「正直言って、君らは我々の手に余る。編入は遠慮願いたいな」
面倒ごとを嫌ったのか、入隊拒否されてしまった。流石に戦場で、所属もなくうろつくのは後々で面倒になる。
「しかし、一兵卒がどこの指揮下にもなく行動するのは風紀上良くないでしょう。何か良い手はないでしょうか?」
「・・・では我々の遊撃隊として配置するので、地上に出たら自由行動という形で部隊から離れるといい」
「はい、ご協力感謝します」
良かった。
これで都合のいい言い訳が手に入った。今襲撃中はこの部隊名を借りるとしよう。
「それと、彼女には武装がありません。何か余剰在庫でもあればいただきたいのですが」
「武器か...」
クレマンさんは腕を組んで唸り声を上げる。
この反応は期待できなさそうだ。
「個人携行が可能な武器は銃火器がメインで余っているんだが、奴の装甲を撃ち抜けるものはない」
飛龍の鱗は30cm砲の直撃にも耐えうると教本には載っていた。当然、船の大砲か大型の野砲でもなければそんな大口径大質量弾は撃ち出せないし運べない。
だからこそ、剣でチマチマと鱗を剥ぐか、その隙間を狙って斬り込むかしか有効打が無いのだが...
「その必要はありません」
「何故だね?いくら君でも、そのままでは戦えんだろう」
そこでスズナが会話に割り込み、クレマンさんが首をかしげる中、とんでもない爆弾発言をした。
「・・・外に出れば倒壊した建物の骨材が多く存在します。私はそれを武器に戦いますので、装備の支給は不要です」
「なんだって!」
クレマンさんが驚きの声をあげた。
俺だって驚きだ。単騎かつ素手でどうやって今まで戦っていたのか不思議だったが、まさかそんな方法で竜と渡り合っていたのか!
「強敵を相手に、頼りない武器で戦うよりも合理的です。学園長よりそう教わりました」
「ーーー何だと?」
その一言に、驚きと怒りで思わず力が入り変化してしまう。激昂して変身するのは随分と久しぶりだ。
「ふざけるな!カーディナルはお前をなんだと思っているんだ!」
怒りで変身したためか、スズナを癒した時の様な優しい輝きは無く、代わりにおどろおどろしい冷ややかな妖気が周囲を凍て付かせる。
クレマン以下人間のほとんどは意識を失い、スズナでさえ直射を受けて顔を青くしている。
「ファー..ザー...」
「ッ!...悪い」
ハッとなってすぐに妖気を抑えると、姿も空気も元に戻ったが、場の雰囲気だけはもどらなかった。
「あっ...」
不信と恐怖の念が、狭い地下道の中でグルグルと渦巻く。不本意ながら、それらの負の感情が妖気として還元されて、わずかながら力を取り戻す。
「君は...君たちは、一体ッ」
腰を抜かしたクレマンさんが、絞り出すような声を出す。
「・・・私も彼女も、人間に害は与えません」
「私にとっても、人間は護衛の対象です。越権行為が発生しなければ、ではありますが」
しばらく俺たちを睨んでいた彼は、やがてずり落ちるように意識を失った。
これから、どうしたものだろうか。
一先ずは、俺たちが遊撃隊に配置されたことに違いはない。ならば、ある程度作戦域での自由な行動が認められている。
これを手にとって、斥候という名目で行動しよう。
それならば、来た見た勝ったの申し開きもある程度出来るはずだ。
問題点があるとすれば...目の前に広がる死屍累々の言い訳をどうするかだが、生きてはいるのだからどうとでもなるはずだ。
「とりあえず、予定通り所属だけは借りよう。スズナの装備は...討伐隊の墜落現場を探せば、何か落ちているかもしれない。それまではコレを使いなさい」
今後の動きを瞬時に頭の中で練り、スズナには俺の刀を貸すことにする。
「わぁ...」
鞘を払ったスズナが刀身を見て感嘆の声を上げた。
可憐な瞳に、冷やかな刃紋が映る。
「武器を美しいと感じたのは初めてです」
「俺からすれば、複雑な心境だな」
彼女の言う「武器」には、きっと自身も含まれている。
折れ欠け、損じれば替えられる。そんな彼女の意思は今までの言葉の端々で感じて来たことだった。
ーーーもしも、物言わぬ剣でさえ美しく感じられるのなら、語らい生きている己が身の尊さを理解してほしいものだ。
「さあ、行こう」
「イエス、ファーザー」
叶うのなら、いつの日か彼女が自らを人間だと言える日が来ることを祈って。




