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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 ガーデン兵編
79/87

〜ガーデン本島防衛戦 2〜

そうだ、丁度よく足元には瀕死の磯姫が転がっている。折角なのでこれを使おう。


血だまりの中に倒れる磯姫の髪を掴んで吊り上げる。

胸にポッカリと空いた穴からはまだ血が噴き出している。生きてはいるようだが、目に光は無く呼吸も浅いので、放っておけば今にも死にそうな様子だ。


「お前たちにも兄妹の情があるならば退け。そうすればこれは返してやる」

「同族喰いとは、なんと恐ろしいことをッ!」


グレイが歯を食いしばって唸る。あまり関わり合いがなかったとはいえ、彼の怒る姿はこの一年で初めて目にした。

剣の柄を握る力も強まっている。


「はっ!さっきまで人のオレに同じような事を強要していた奴がよく言うぜ」


まったく、いざ自分たちが喰われるとなった途端にこの批判だ。あざ笑う気にもならない。自分勝手もいいところだ。それに、概念的な要素を多分に含む妖怪だって、糧を得て生き長らえる生物だ。追い詰められれば共食いだってしよう。


とはいえ、原産地である我らが極東の島の沈没に伴って起きた大量絶滅以来の絶対数の減少によって発想が消えたのかもしれない。


グレイがダッと打ち込んでくる。

上段から迫る刃を横に受け流し、その勢いを使って首を落とす。

対人戦闘ならここで終わりだが、相手は首が無くなった程度では死んでくれない。首無しの胴体が急に剣を横に振りぬき、オレの脇腹を打った。


胸当ての装甲がギリギリで刃の貫通を防いだものの、純粋に打撃の威力が骨を砕き、内臓を潰す。

横によろめいて血の塊を吐き出した。


「ガハッ!」


中身を潰されると治りは悪いのか、その後数回斬り結ぶ間も鈍痛が響いた。痛みを堪えながらの斬って斬られては急速に神経を擦り切れさせていく。

それがやっと治った頃合いでオレの突きがグレイの胸を、グレイ斬撃がオレの右腕を吹き飛ばした。


お互いに距離を置いて、オレは腕から刀を回収し、グレイは傷を癒す。


「今、オレと喧嘩なんてしていて良いのか?早く磯姫を治さないと死んでしまうぞ?」

「貴様とて、いつまでも此処で遊んでいては妹君の身が危ないだろう」


さっき、素直に逃がしてくれればこんな戦いはせずにすんだというものを...

知性的なのか、野蛮なのか判断に困る態度は止めてほしい限りだ。でないと、次の一手を打つ時に迷う。

もしもこれが計算された行動なのだとしたら、彼はとてつもない作戦家だ。


とはいえ、彼は磯姫と比べて随分と楽に戦うことが出来る。何故なら、剣が主体の攻撃ばかり繰り出すためだ。

我流にせよどこぞの流派にせよ、洗練された剣技には打ち込みであったり、間合いを取る感覚であったりと様々ながらも一定の癖や法則性が発生してくる。

それはオレにも同じ事が言えるので、剣の勝負はそれらを相手より早く見つける勝負でもあるのだ。


故に磯姫の様な反射神経だけを頼りに、趣味趣向で剣を操る相手が一番戦い難い。


しばらくの間打ち込み、斬り結び、間合いを取るの繰り返しが行われた。

未だにお互いが見切れない千日試合に肩で息をする。


だが、チラリチラリとグレイは磯姫の様子を気にし出している。浅い打ち込みが続くこともあった。


ーーーこれは使える。


折角お荷物を抱えて戦っているのだ。有効に使わなければ勿体ない。


磯姫を振りかぶり、グレイへと投げつける。


「なにッ!」


予想外だったのか、磯姫を受け止めようと一瞬の隙が生まれた。

そこを狙って再び間合いを詰め、道中で磯姫を回収する。それに続いて中段横薙ぎの一撃を放った。

攻撃はグレイの胴体を分断し、転がった上半身へダガーを突き立てて心臓を抉る。


「グガッ!」

「さて、心臓を貰うぞーーーッ!」


暴れる相手を押さえつけ、胸を抉ろうと伸ばした腕が切り落とされた。


「?」


続いて、磯姫を掴む手も切り落とされる。


いつの間にか後ろを取っていたカーディナルにやられたらしい。獲物に夢中になっていたこともあって反応が遅れ、蹴り飛ばされたオレは瓦礫に埋まることになった。


「そこまでだ」


ようやく決着の見えたオレたちの戦いは、ずっと静観を続けていたカーディナルの一言によって終わりを告げた。


「グレイ、諦めろ。心臓を失った彼女はもはや再起不能だ。傷を癒したところで、生き長らえてももう水を操ることは出来ない。お前まで失ってはこの先行き詰まるかもしれない」

「カーディナル!」


細い目で磯姫を見下ろすカーディナルにグレイは鋭い視線を送るが、それを黙って見返されると言葉を押し殺して頷いた。

彼の視線に気圧されて緊張したのか、吐く息まで白くなっている。


「わかってくれて何よりだ。ーーー慢心に気づかせていただいた事に感謝しましょう、若君」

「急に態度を変えてどうする。気持ち悪い」

「狩る者は同時に狩られる者...狩猟の基本を思い出させてくれた事に感謝しているのだよ」


相変わらず太々しい様子に変わりはないが、オレを若君などと呼ぶあたりに寒気を感じる。

いいや、実際この寒気は気のものから来るだけではない。カーディナルの全身から滲み出るような妖気が空気を()てつかせていた。グレイの白い息は、気温まで下がっていたからだったか。


「そしてそれは、今の若君にも言える事だ」


ご尤もだ。脅威が三から二へ減ったとはいえ、この場から逃げられなければあっという間に敵討ちをされてしまう。


すぐにでも動けるよう、呼吸を整えて刀を構え直す。


これは覚悟を決めなければならないかもしれない...。


本気でそう考えていた矢先、急にカーディナルが素頓狂な事を言い始めた。


「若君の力を蘇らせる目論見は...まあ完遂したと言っていいだろう」


多少の代価はあったが。と言外に語って視線を磯姫に落とした。が、すぐに戻して不敵な笑みを浮かべた。


「ここからはゲームをしよう」


見つめる先は俺よりはるか後方だ。

そこには施設群や、炎龍(レッドドラゴン)を迎撃するスズナが居る。


「丁度そろそろ、ドラゴンが妹君のいるあたりに着く頃間だ」

「ッ!」


振り返って気配を探ってみる。

確かにスズナと炎龍のものと思われる大きな二つの気配が紗季の元へと急速に近づいていた。けれど、すぐに何かが起こるような距離でもない。今から駆けつけても間に合うだろう。


「ではゲームの内容だ。若君はドラゴンを退け、守りたいものを守れれば勝ち、一方で戦いに敗れても、守ることができなきても負けだ。安心するといい、負けても若君は命を失わせない」

「また大層無茶振りな勝負だ」


一聞すれば、ありきたりな勝負内容ではある。だがよく聞けば、勝負条件も敗北条件も線引きが曖昧で具体的ではない。


「賞品はそうだな...ホムンクルスの命だ。ーーーさあ、もうゲームは始まっているぞ?」

「・・・・ッ」


悔しいが、もう磯姫を交渉材料としては使えない。出来るだけ身軽になって向かわなければ、最悪紗季を失うことになる。


「今は退こう。だがいつの日か、必ずお前たち全員の心臓を食ってやる。それをゆめゆめ忘れるな」


我ながら悪役っぽいセリフを残すと炎の壁を飛び越える。


着地してから一度振り返ってみたところ追ってくる気配はなさそうだったので、刀を鞘に戻して全力で走り出した。


配置された砲台群はほぼ壊滅状態で、熱で鉄板が歪んでいたり、誘爆を起こして吹き飛んでいたりと酷い有様だ。

とはいえ、炎の直撃を免れた箇所からは懸命に応急処置を続ける声が聞こえてくる。


・・・そういえば、一つ仕事を忘れていた。


手近なところで、壊れた砲台跡をいくつか回って無事な伝声管を探すと、四箇所目でようやく使えるものが見つかった。


「こちら七番弾薬庫よりの伝令水上 暦。司令室、応答願う」

『ーーーーーこちら司令室』


やや間が空いたものの、返事が返ってきた。


「正面港 高角砲群にて死傷者多数。救護兵の派遣を請う」

『了解した、直ちに派遣する。現場の状況を報告してくれ』

炎龍(レッドドラゴン)が南東施設群へ接近中、我はその迎撃に当たる。繰り返し、救護兵の急派を請う」


返事は聞かずに、伝声管を握りつぶしてその場を離れる。

今現在も命令違反の行動をしている事がバレると都合が悪い。主戦場だということは伝えてあるから、いきなり会話が途切れても不自然ではないだろう。


あとはオレのやる事をやるだけだ。


カーディナルの射撃中止命令を受けて沈黙している砲台をいくつか通り抜けると、突然紅い鱗に身を包んだ巨龍の姿が現れた。


その体躯はボロボロで、流血も見受けられた。力無く垂れた翼からは既に空を飛ぶ力が残っていない事がわかる。


対するスズナは、片腕が黒く炭化していた。

炎の直撃をあれで防いだのだろう。

他にも大きな切り傷がいくつもあるところから、体力(ヒットポイント)が赤くなってしばらく経っていそうだ。


双方満身創痍だが、スズナを回復させて協力すれば何とか倒せるかもしれないし、竜が相手ならシラギ先輩達が向かっているかもしれない。


そうこう腹づもりしている間に、瓦礫に埋まって身動きできないでいるスズナへ竜の一撃が迫った。まともに受ければいくら彼女でも命はない。


抜刀して、建物の影から飛び出す。とにかく攻撃をスズナから逸らさなければならないので、跳躍の勢いを使って振り下ろされつつある竜の腕に体当たりする。


何とか攻撃を逸らす程度の勢いは生み出せたようで、凶刃はスズナの代わりに、その横の鉄骨を折った。

一方でこちらの肩からは鈍い音と鈍痛が響いたが、次の瞬間には癒えていた。


「スズナ!無事か!」

「ファー....ザー...その....お姿..は」

「待っていろ、今助ける」


崩れた瓦礫から彼女を掘り出し、抱きかかえると近くの地下壕へと滑り込む。防火扉を蹴り開けて通路に寝かせた。

外からは竜の咆哮が聞こえているので長居はできない。


「治療をする。悪いが剥ぐぞ」

「まだ....体...は...動きま.....す」

「こんな状態で無茶を言うな。死んで倒れるまで動く気か?」


微かに抵抗する腕を抑え、砕けた胸当てを外し、シャツをめくる。白くて細い腹部は、ほとんどが血で汚れている。

血が滲んでいたのでよもやと思った通り、腹部に親指ほどの穴が空いている。傷の割に出血が少ないのは、中にまだねじ切られた鉄材が詰まっていたからだった。

戦い続けるのと、大量出血を免れるためにここで折ったのだろう。

このまま治療しては鉄材が体内に埋まってしまうので摘出する必要がある。


「痛いだろうけど、我慢してくれ」

「平気...」

「駄々をこねるな。戦うために生まれたのだというのなら、せめて老いて動けなくなるまで戦えるよう命は大切にしろ」

「・・・わかり...ました」


子供を叱るように説教してやると、意外にも素直に頷いた。


スズナの事だから、もっと頑固に屁理屈を言うかと思ったが...今は良かったという一言で済ませておこう。


「いくぞッ」

「お願い....します」


傷口に指を入れると、すぐに硬いものが指先に触れる。それと同時にスズナの表情が険しくなり、苦しげな声を必死で抑えている。


「グゥッ....クッ!」

「抜くぞ、歯を食いしばれ」


痛みをこらえながら声無く頷いたのを確認して、一層深くまで指を入れて鉄材を掴む。

肉が固まってやや抵抗を感じるそれを、一思いに体外へと引く。


「ッッッッッッッ!」


異物が体内を移動する衝撃に、反射的に腰が浮くスズナを抑えつけ、なるべく垂直に抜き終わると、力を失ったようにクテッと崩れ落ちた。続いて大量の血液が音もなく広がっていく。


すぐにダガーで手の平を貫いて傷を癒す。

腹部の穴は時間が巻き戻るようにふさがり、炭化していた腕は黒い表面がポロポロと崩れて白い肌が露わになる。

修復される手を何度も突き刺し、四度目でやっと完治した。


「大丈夫か?」

「・・・・」


傷は癒えたのに、スズナは力無く倒れたままで動かない。

ハッとして手首を握ったところ、小さな鼓動は感じられたので気を失っただけのようだ。


さて、本調子とは言えないので共闘したかったのだが、この調子ではしばらく起きそうにない。

加えて俺も思ったより消耗が激しかったようで、気だるさが全身を包んでいた。


「流石に、放置はまずいよな」


彼女が意識を失っている以上、何処か安全な場所に退避させておく必要がある。

この地下壕は鉄の防火扉一枚を挟んで主戦場が広がっているので、もし炎の直撃を受けたら一瞬で蒸し焼きになってしまう。


「となると、病院棟へ連れて行くのが一番か」


あそこなら複数層の地下施設があり、万が一の事態が起きても全滅することはない。


「・・・」


外は静かだが、竜の気配はまだ近くにある。

多少危険ではあるものの、地上を進んだ方が構造を理解できていない地下道を行くよりも早くて確実だ。


スズナを抱きかかえ、ゆっくりと扉を開ける。少なくとも、目視できる場所に炎龍の姿はなかった。


「よし」


掩体(えんたい)を出て、次に身を隠せそうな建物の影まで走り抜けると、同時に上空から竜の咆哮が聞こえてきた。


くっ、飛ぶ力は残っていないだろうと侮っていたか!


着地の地震を空へ逃げることで回避し、建物の屋上を飛び石にして一目散に病院棟まで退いた。


不規則な上下左右の移動に狙いを定められないのか、炎が口の中で揺らめくことはあっても、それがこちらに発射されることはない。


『ええい、ちょこまかと...』


どこからか、くぐもった声が響いた。

振り向いても、聞こえてきた方には竜しかいない。


「まさか...」


確かに竜は知能の高い魔物(モンスター)として有名だが、人の言葉を使うなんて話は童話にも載っていない。


・・・とにかく今はスズナを安全な場所に避難させるのが先だ。


もう病院棟が見えるところまで辿り着いたので、再び地上に降りて手頃な地下壕へ入った。


ここから先は、下手に竜に行き先を知られてはいらない被害が出る。

それに、この程度の範囲にある地下道ならば目的地へつながる道があるはずだ。


方向感覚だけでいくつかの分岐を駆け抜けると、予想通りに誘導表示が見つかった。


「よし、これで迷わない」


だが、ここまで建物に近づくと人とすれ違う可能性も幾分か高くなる。となると、この姿のままうろつくのは面倒だ。

去年、派手な入場をしたので噂くらいは流れているかもしれないが、ガーデンが襲われている現在、通路でバッタリと出くわしたら反射で撃たれかねない。


銃弾くらいなら当たっても痛い程度だが、要らないところで妖気(ちから)を消費するのは面白くない。

それに、この変身態を維持するのにもそれなりの妖気を使っているので、節約のためにもやはり人の姿に戻った方が賢明だ。


「ふう...」


人ならざる耳と尾が空気に溶け、キラキラとした光の粒へと変わっていく。

それと同時に俺を襲ったのは、若干の倦怠感と激しい後悔だった。


ーーーいやいや、幾ら何でも今回の行動は独断専行が過ぎるだろう。

確かに紗季は気がかりだったし、スズナは助けなければならないと思ったさ。でもやり方は他にもあっただろう。

一応は上官に報告していたが、指令は伝声管ごと握りつぶされた。


いくら実力至上主義のガーデンであっても、過ぎた独断専行がを許す組織ではない。

上層部にも喧嘩を売ってきた様だし、良くて懲罰室行きといったところだろう。


「・・・今は、出来ることをするだけか...」


仕方がない、自分がやった事だ。罰があれば、潔く受けよう。今は一刻も早くスズナを安静な所に運ぶことが先決だ。


道を進むにつれて、予想通りちらほらとすれ違う様になった。

その都度に病院棟への近道を尋ねて進むこと数分後、ようやく目的の建物の名前が刻まれた防火扉が見えてきた。


扉をくぐると、下地剥き出しの無骨だった地下道の雰囲気も、白を基調とした清潔感のあるものへ変わる。

そこは救護兵の待機室だった様で、ちょうど班分けがされて出発前のところだった。

見渡しても、この中に紗季は居ない。


「急患だ!(ドラゴン)にやられている!」

「わかった。副隊長の班を除いて出発しろ!・・・システィ、すまんが頼む」

「任せてください」


テキパキとした指示が行われ救護隊の大部分が出動していった。

後に残った数人も機敏に動いてスズナを担架に乗せ、即席の診察を行う。


「・・・酷く衰弱しているが、外傷はなさそうだね。脈も正常、内臓損傷も無いだろう...ん?兵団章が無いな。君、彼女の所属はわかるかい?」


システィと呼ばれていた女性が眉をひそめる。

ゴタゴタの立て込んだ昨今、不審に思うのも仕方がない。こちらに懐疑の目が向けられた。


「えっと...」


なんと答えたものか。

便宜的にどこかに所属しているのかもしれないが、わからない。

そもそも、いつぞやのシラギ先輩の発言から、秘匿され正式に配属されていない可能性も高い。


「わかりません。ただ、意識を失う前に学園長直轄だとだけ言われました」


一応、当たり障りのない程度に事実を織り交ぜて説明をする。

一通り解説が終わると、彼女は一つ頷いた。


「ふむ、学園長絡みか...一応上に報告と確認はさせてもらうが、無下にはできないな。空きのベッドを一つ与えよう」

「ありがとうございます」


これでスズナは安心だ。カーディナルに話が伝わっても、先の話が本当であることが前提だが、俺が炎龍(レッドドラゴン)さえ討てれば問題も起こらないはずだ。


「君は...一般兵団の者か。見たところ、君もかなり傷ついている様だ。ここで休んだほうが良い」


傷は無いが、付着した血液や壊れた装備はそのままだ。確かに、はたから見れば俺も大怪我をしているように見えるだろう。


「こう見えても丈夫なもので、ご心配いりません」

「そうは言うな。戦うのが君の仕事だとしたら、怪我を治すのが私の仕事だ。見せてみろ」


否応無しに彼女の顔が近づき、ある筈のない患部の具合を確認される。

手つきは強引なようで無理な負荷は一切かかっていない。流石は専門家だと感心させられた。


「・・・おかしい。この装甲の亀裂からして、ここに傷がある筈なのに...」


グレイに貫かれた跡を不審に思っているようだ。

常識的に考えて、鎧の表裏に貫通した破口があるのに傷が無ければおかしいと思うだろう。


正体を明かすにせよ、嘘をつくにせよ、下手を打てば後で面倒事になってしまう。

そうすると、紗季の名前を出すのも控えたほうが良い。


他に衛生兵団で身元が割れている人は...


必死に頭を回転させると、ある人物の名前が浮かんだ。


そうだ、彼ならば説明がつく。


「私は少し特殊な体質でして...ネギル団長を呼んでいただければ、幸いです」

「むっ...団長か、わかった」


一瞬表情が曇ったのが気になったが、呼んでもらえるらしいので今は待つのが吉だ。


ーーーシラギ先輩、お願いします。


今後のためにも、切にそう願わずにはいられなかった。

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