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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 ガーデン兵編
78/87

〜ガーデン本島防衛戦 1〜

『レッドドラゴン視認!方位128 高度500、距離10,000!』


対空指揮所に設置された測距儀から竜の位置が各砲台へ伝えられると、全砲門が一斉にそちらの空を睨む。


鳴り響いた空襲警報によって、昔話という名の大した後日談もない回想は終わりを告げた。


俺は補用白兵戦隊として正面港に配備された後に、現地指揮で第三高角砲の給弾員を命じられた。

これは初めて知ったのだが、正面港は三層構造になっていて、一番上が地面、真ん中が医務室と弾庫、最下層が指揮所と火薬庫になっていたらしい。

俺は今、中層の弾庫に居る。


「敵は急降下からの引き起こしで速度を出してからのブレス攻撃が常套手段だ。この時の敵は1秒間に50mの速さで突っ込んでくる。俺たちが1発でも弾切れを起こせば、上の砲台は全滅だ。覚悟してかかれ!」

「「はい!」」


班長の手短な訓示が終わると、各自散らばっては砲弾を担ぎ、揚弾塔(ようだんとう)という弾を上の層へと運ぶ機械に乗せていく。


『射撃用意!方位127 高度270 距離800!』


指示が飛び、一帯が不気味な静けさに包まれる。


狙いを定めているのであろうか。数分間、絶えず重機音が響いていた。


ーーーそして、射撃の命令が下される。


『撃てっ!』


断続的に大小様々な大砲が斉射される轟音と振動が、頭上の装甲板を突き抜けて弾庫まで届く。


『効果認められず!修正射、上げ6 右2!』

『機銃群射撃始め!』


竜が間近に迫り、中距離特化の大口径砲から近距離での小回りが利く中、小口径砲と機銃が火を吹き出す。


硝煙の臭いがここまで届きそうなほどの勢いで撃っているものの、教本通りであれば竜に対して銃火器の効果は薄い。

剣で鱗を剥がしていないと、全て装甲で弾かれてしまうからだ。


では何故撃つのか?

それは、多少なり鱗と翼を傷つけ、陸上戦になった時に有利にするためである。

・・・シラギ先輩の受け売りだが、専門家が言うのだからそうなのだろう。


『急降下ー!!』


突然、伝声管から大声が響く。

あたり一帯がヒヤリとした空気に包まれ、刹那の静けさが訪れた。


ーーーと同時に、濃密な死の恐怖がこの防空陣を支配する。

それは妖怪である俺にとって、堪らなく魅力的な香りであった。事実、無意識的に身体が高揚感で震えている。

力が衰えていても尚、いや、衰えているからこそそれを潤すものに強く惹かれた。


それを自覚すると、今度はどうしようもない自己嫌悪に変わる。


どうしてこの身体はこんなにもっ!---と、己を呪わずにはいられなかった。


「衝撃に備えろ!」


葛藤の時間を惚けていると思われたのか、頭を抑えられて伏せさせられる。

直後に木箱が落ちてきて、もしも立ったままだったなら大怪我を負っていたかもしれない。


直後に轟音と振動が響いて、取っ手などに掴まっていなかった数人が転倒する。


衝撃で白電灯が砕け、しばらくの暗闇の後に予備の赤灯に切り替わった。


「くそッ!揚弾塔がやられたか...」


班長が機器類をいじりつつ、そんな愚痴をこぼした。


『被害を報告せよ!』

「7番砲弾庫 揚弾塔破損!給弾不能!」

『医務室被害無し!』


各所からの被害報告が続く中で、直上と付近の射撃陣営からの報告が一向に届かない。


「伝令!...お前が行け」

「了解しました!」


先程、俺の頭を抑えた彼が命令されて通路に消える。戦闘中ゆえ、名前も礼も言う暇さえなかった。


しかしながら、上の状況は見るまでも無いだろう。

気配感知で生命反応の有無は大まかに知ることは出来たし、生き残りも即死しなかっただけの様な状態だ。

いやそれ以前に、硝煙の臭い、歪んだ扉、だと言うのに叫び声は無し。ただ死の匂いだけが充満していた。気配感知(こんな力)が無くとも状況はわかるだろう。

それでも命令を下して目で直接確認させる。そしてそれを報告させる点は世界中のどの傭兵団とも違っていた。


無駄な動きとも取れるが、ガーデンの強みはこういったところにあるのだろう。


『7番砲弾庫員へ。速やかに弾庫へ注水を行い、白兵戦待機室にて待機せよ』


誘爆防止の処置と命令が届いた。

白兵戦待機室へ回されたというのは、要するに補用枠にあてがわれたのだ。必要に応じて各部署に再配備されるが、運が悪ければ絶望的な戦力差の竜と生身で戦うことになる。


左右二手に分かれた防火壁を閉じ、注水弁と書かれた取っ手を下ろす。


「電路切断、注水弁開け!」

「電路切断完了、注水開始!満水までおよそ20分!」


バチンと音がして電気が途絶え、室内の全電子機器が沈黙する。

続けて滝のように流れ込む水の音が響いた。ここは海面より低い立地だし、匂いからも海水が流れ込んでいるらしいことがわかる。


「走らせた伝令が帰ってこないな。置いて行くわけにもいかない...ニュービー、貴様が行ってこい」

「了解しました」


返事を返し、一応竜との戦闘も考えて剣帯に刀を付ける。


ノエル先輩によって新調された(こしら)えはガーデンの服装にあっていて、戦闘中でも邪魔にならない。今度があれば、改めてお礼を言おう。


直近の開閉天板は歪んでしまっていて開かないので、朱色の電灯に照らされた鋼鉄の通路を走り、砲台陣営付近へつながる防火扉へと急ぐ。

こちらも大きく歪んではいたが、最近こじ開けられたようで、なんとか人ひとりが通り抜けられる程度の隙間があった。


「くっ...こう言う時に妖怪(あれ)の力が欲しくなるなッと!」


隙間から、やや不恰好に飛び出した格好で外に出た。


はじめに、全身が焼けるような熱気。

つづいて、人肉の焼ける嫌な臭気。


砲台跡は、まさしく地獄絵図だった。


三角巾を取り出して口と鼻を覆い、耐熱性の覆面で目を守る。

装備がひと段落して、再び辺りを見回した。


ポツリポツリと、微弱な命の気配を周囲から感じる。

俺は最も近い気配に駆け寄った。


ーーーそこには、先に伝令へ走った名も知れぬ彼であった。


腹部に折れた鋼材が突き刺さっており、大量出血と内臓損傷を起こしている。もう、長くはない。

だが、不審な点があるとすれば、その首に人の手で強く握りしめられたかのような青アザがあることだった。


「大丈夫か!誰にやられた!」

「カッ.....早...逃げ.....死..」


自身の最期を感じたのか、血液混じりの吐息とともに気遣いを見せる。


「待ってろ!」


腰からナイフを抜いて、左手の指先を刺す。むず痒いような感覚とともに、赤い血液が滲み、それを患部に振りかける。

赤い斑点が広がるだけで、治癒の力は現れなかった。


「やっぱり、駄目かッ」


せめて治癒の力だけでも。と思っていたが、そんなに都合よくはいかない様だ。


「すまない。恩は返せないみたいだ」


ならば、せめて死後は丁寧に埋葬してやりたい。

そう考えた時、後ろから声がした。


「丁度いいじゃない。ソレ、まだ生きているうちに食べちゃったら?」


ゾクリとした、悪寒の様な冷たさに襲われる。

それは、竜などは足元にも及ばない死の気配だ。


ーーー不覚を取ったっ!


反射的に体が動いて、刃が鞘を離れる。

身を(ひるがえ)す勢いを利用した横薙ぎの一閃が、確かに相手の胴を捉えて肉と骨を断つ。


「あらあら。久し振りなのに、いきなりはちょっと無粋じゃない?でも強引なのは嫌いじゃないわ」

「磯姫っ!」


続く二の太刀はヒラリと躱され、磯姫はこちらの間合いからわずかに離れた所に立つ。


「一年ぶりかしら?名前、覚えててくれて嬉しいわ」

「あんな衝撃的な出会いをした相手を忘れられる人間は居ないよ」

「あら、アナタは妖怪でしょう?」


相変わらず、不気味なくらいに可憐な笑みを投げかけてくる。


・・・ところで、既に先の攻撃での傷も消えていたが、衣服ごと胴を真っ二つしたらしく切れ端で身を隠していた。


「・・・とりあえず、これを着ろ」


必要な装備を取り外したガーデンコートを放り投げる。彼女の身丈であれば、あれで十分に肌を隠せるだろう。

流石に半裸で動かれては目のやり場に困る。


一方で、受け取った磯姫はキョトンとした顔だったが、すぐにニヒルな笑みを浮かべた。


「なになに、欲情でもしたかしら?目に焼き付けておかなくてもいいの?」

「女の子が...無闇に肌を晒すものではない」

「ふふっ...ありがとう、その姿の時は紳士的で素敵ね」

「・・・どうも」


コートを羽織り、前留めをとめた磯姫はそう言う。

それは、アイツがガサツ過ぎるだけだろう。無遠慮だし。


「ともかく、どうしてこんな所にいる?何か企んでいるのか?」

「そんなところ、かしら?ねぇ、兄さま方」


磯姫が振り向いた炎の先には、見知った姿が浮かんでいた。


「話しは早い。我々は君に力を取り戻して欲しいのだよ」


と、長い黒髪をたなびかせるカーディナル・スクエア。


「加えて不純物の除去、といった具合だな」


と、硬い表情を崩さないグレイ・フォックス。


「全員人間じゃないことは知っていたが、まさか兄弟だとは思わなかったな」

「それだけではない。我々は貴様の妖気(ちから)と血筋を守る義務がある」

「義務?」


グレイの言葉に眉をひそめる。

いったいどの様な義務が彼らに存在すると言うのだろうか。少なくとも、磯姫は始祖様の眷属といった様子でもない。


この疑問にはカーディナルが答えを出した。


「いきなり言われても混乱するだけだろう。そうだな、手短に言えば...君が最後の大妖怪の末裔だからだ」


大妖怪。

聞きなれない単語ではあるが、どういったものなのかは安易に想像できる。

要するに、彼らは支配者の血を護ろうとしているのだろう。・・・そこにどんな思惑があるのかまではわからないが。


病院棟の方へ目をやる。今のところは火の手も騒ぎも起こっていないし、命の気配が変に減っているということもない。


だが、この仕草をグレイに気づかれた。


「安心したまえ、妹君に興味は無い。姫の力を継いだのは貴様だからな」

「まあ確かに、ここに三人ともいるんだから、実は四人兄弟だった...なんてオチでも無ければ安心だ」

「面白い発想だ。ネタに加えておこう」


妙な所に食いつかれて拍子抜けしたが、気を引き締め直して刀を構える。


「できれば、平和的な解決が望ましいんだが?」

「それはアナタ次第ね」

「俺はこの身体に満足している」

「では破談だな、我々も少し強引な手を取らせてもらおう」


戦力差は火を見るより明らかだ。

妖怪化していても、磯姫一人でさえあれだけ苦戦したのだ。同等以上がさらに二人も増えるのだから、刃を抜けば、それは自分の腹を斬るための様なものだ。


加えて、姿こそ見えないが、近くの黒煙の中からは炎竜(レッドドラゴン)の鳴き声も聞こえてくる。

それに気がついたのか、グレイが言葉を挟む。


「ドラゴンは気にすることはない。砲声が止んでいるだろう、ホムンクルスが交戦中だ」

「スズナが⁉︎まさか一人でッ!」


ともすれば、何が何でもこの場を抜ける必要ができた。彼女もまた、俺と同様に不死力を失っている。

それも、俺を回復させるために妖気(ちから)を使った所為で、だ。

血縁だからというだけでなく、恩人としても彼女を見殺しにする訳にはいかない。


ーーーどうするか。戦っても殺されはしないだろうが、気絶させてその間に血肉を食わされる可能性がある。

ーーーでは逃げるか?無理だ。少なくともグレイはあのシラギ先輩を倒した相手なのだから、俺が逃げ切れる見込みは低い。後の結果は戦った場合と同じだろう。


悩んでいるうちに、俺を中心とした30mほどの円形に高い炎の壁に巻かれる。退路を絶たれた。

もちろん単なる炎ではない。妖術によって起こされた自然に消えることのない焔だ。


「君が彼女を可愛がっていることは知っている。だが、アレは君の力を不当に受け継いだマガイモノ...生かしておくわけにはいかない」

「今を生き残れば次へ、また次も生き残ればその次へ...兵器として開発された彼女の処分は容易い」


三人の妖怪たちの姿が、逆光により影の様に浮かんでいる。語る姿は、おとぎ話の魔王さながらだ。


「私たちはアナタの力を守る義務があるって言ったでしょう?・・・あの女の血を守るのは不本意だけどね」

「無駄話はよせ。あまり時間をとってはドラゴンが来る」


磯姫を制したグレイはゆっくりと剣を鞘から抜いた。

見た目は洋式の直剣だが、刃は薄い。とはいえ、刀で正面から受け止めたなら刀身ごと断たれてしまうであろう無骨さを感じる。


グレイはゆらりとした動きで構える。

流石に相手に動かれても棒立ちはよろしくないので、こちらも鯉口を切った。


ーーー構えはしたが、戦う気は無い。近くの砲台跡から揚弾塔に滑り込んで地下道へ出るのが作戦だ。

賭けになるが、運良く注水されていない弾薬庫に繋がっていることを祈るしかない。


ゆらりと相手が動く。

だと言うのに動きはまるで読めず、見切りも効かない。


ビュンッと風を切る音がして、次の瞬間には鋼鉄の刃が右脇腹を貫通し、背後の土塁に突き刺さった。


「うっ...ごはッ」


空気の塊が口から漏れるが血は出ない。消化器官は外したようだ。

しかし、斜めに突き刺さった剣は腎臓あたりを貫いたようだった。引き抜かれると同時に大量の血液が足元に溢れた。

体の芯から熱がサッと引いて行くのと同時に、(ヒットポイント)が一気に赤くなる。


「さて、その出血量だ。不死力が無ければ5分と持たないぞ」


剣の血を払って悠々と鞘に納めるグレイにより死の宣告が行われる。事実、それに違いは無い。

まだ動けなくはないが、大量出血による眠気に襲われ始めていた。


「そしてだが、ホムンクルスには撤退経路を伝えてある。ちょうど病院棟の方へ向くようにな」

「っ!...紗希は....関係無い...だろ」

「力が無いので興味が無いと言っただけだ。利用出来るなら使うまでだ」


そう告げられた瞬間に体が反射的に動いて、近場の人間を掴んだ。


紗季...!紗季の命が危ない!

早く力を取り戻さなくては、早く人を喰らわねば!

寄越せ寄越せ、お前たちの血を、肉を、怖れを、魂を!


一歩遅れて、ようやく自分が何をしているかの理解が追いついてくる。それは、ほとんど首筋に噛みつきかけた瞬間だった。


「ッ!」


あれほど反発していたはずの捕食を迷わずに行おうとした己に激しい動揺を感じる。


「何を戸惑っている。貴様の本質は“守護”だ。あの小娘の守護霊が実態(しょうたい)だろう?」


どうしてバレたのか。公の場で自分の本質を語った記憶は無い。盗聴の類にも十二分に気をつけていた。


ーーーそれなのに何故?


答えはすぐに教えられた。


「行動パターンを我々同族が見れば瞭然だよ。分かってしまえば、手綱を握るのは容易い。君は妹の、如何なる生命の危機も見逃せないのだからね」

「成る程。確かに...お見通しみたいだ」


笑ってみせるが、思った以上に消耗が激しい。

不思議と頭は冷静を保てているが、それにより一層と近づいてくる死の足音を知らしめてくる。


「早く人を喰べちゃいなさい。大丈夫、恐いのも辛いのも最初だけ...すぐに家畜の肉を食べるのと同じだって気づくわ」


磯姫が、瀕死の誰かを連れてきて目の前に横たえる。

傷だらけの少女は、血液混じりの呼吸音を立てながら力無い瞳で俺を見つめていた。


死にたくない。助けてほしい。

光の失われかけた目からは、そういった意思をいまだに強く感じることができた。


ーーーああ、生かしたいとも。助けたいとも。だが今の俺には、自らの傷を癒す力さえ無い。


歯痒いと感じた。不甲斐ないと思った。

奪うことしかできない自分と、それを強要する三兄弟が憎くて、妬ましくて、恨めしくて、痛くて、苦しくて...


失血によるものとは別の要因でカラダの芯が凍りついていく。


これより先は人の俺には踏み出せない。ならば、これよりはアレに任せるしかない。


ーーーすまない、名も知らぬ少女よ。俺は君を...殺してしまう。


残った妖気を練り上げ、自分自身を変質させていく。

髪の色が変わり、頭頂部に二本の獣耳が生える。最後に髪と同色の尾が一本、ニョロリと現れた。


「やめろ!そんな状態で変化(へんげ)などしたら、消えてしまうぞ!」

「消える前に...補給するさ」


・・・まったく、汚れ仕事ばかり押し付けやがって。食事もまともに取らずに動けるわけがないんだよ。

今までだってそうだ。飢えた中を、餌がそこいらにあるのを耐えていたのだから、褒めてもらいたいくらいだ。


そんなフラフラな状態のまま、助走なしの脚力勝負な跳躍をする。狙いは、あの中では最も弱いであろう磯姫だ。


妖気は、スズナがやってみせたように直接補給することも可能である。

ともすれば、一々人間を喰って感情を変換するよりも、大きな妖気の塊をそのまま取り込んでしまったほうが効率が良い。


ーーーでは、そんなものが何処にあるか?

答えは目の前に三つもある。


「その心臓...貰い受ける!」

「ッ!」


何故誰も思いつかないのだろうか。

妖怪の心臓は妖気の塊だ。つまり妖怪(われわれ)にとっての最高の獲物は、他ならぬ妖怪(どうぞく)なのである。


形振(なりふ)り構わぬ決死の突撃は狙い通りの効果を発揮し、カーディナルとグレイは警戒して大きく後方へと飛び退いたが、陸上を得意としない磯姫一人がやや出遅れる。


「くっ!...『水のーーー」


咄嗟に防御の術を唱える彼女であったが、触媒となる水は炎の壁に遮られて使用できない。

可憐な顔が、サッと青ざめる。


指先が皮膚を破り、ぬるりとした温かな肉を掻き分け、心臓を掴むと背中を貫通した。


「グェッ...!」


おおよそ乙女の末期(まつご)には相応しくないうめきを横に腕を引き抜くと、磯姫の胸から噴水のように血液が噴き出す。


「いただくぞ」


未だに確かな鼓動を続けている磯姫の心臓を口に入れて咀嚼する。

一噛みごとに濃厚な妖気が全身を満たしていく感覚は、甘美な快楽にも等しかった。


・・・だが、まだまだ満たされない。体感で一割弱は回復しかどうかだ。

我ながら、途方も無い上限値を初めて自覚させられる。


「かっ...はっ......」


血の池をを作る磯姫にはまだ息がある様だった。

人間ならば即死は免れない一撃だったのに、しぶとい女だ。


少し離れた場所からこちらを見ていたカーディナルたちは、予想外の捕食に動揺しているようだった。


「足りないな...さあお前たちも心臓を差し出せ。オレの力を取り戻させるのは義務なのだろう?」

「同族の血肉で妖気を回復するなど...。恐ろしや、流石は大妖怪の末裔か」


彼らのオレを見る目の色が、初めて脅威たると変化した瞬間を見逃さなかった。


炎の壁も、術への集中が乱れたのか数メートル程に低く、密度もまばらになっていた。

あれならば跳躍でも、突進でも、壁を抜けることは可能だ。


ーーーとなると、あとはどうやってコイツらを撒くかどうかだな。

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