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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 ガーデン兵編
72/87

〜ガーデン南東沖海戦 前編〜

高度約1000mの冷気が体を突き刺し、曇り止め加工がされたゴーグルも端の方が凝結し出す。

補助ジョットパックによって飛行速度は時速400kmを優に超え、酸素マスクから漏れる白い息を彼方へと取り残していった。


12人の精鋭が半々に2つの索敵輪形陣を組んで飛行する。

母艦を立って20分が過ぎた頃、先鋒の索敵を行っているシンシアが翼を振ってバンクと通信を送ってきた。


『隊長、前方右30度、下方6度方向に飛行物体を2つ確認。ドラゴンです。種類までは識別不可。送ります』


その方角へ目を向けると、雲の隙間から黒い点が2つ宙に浮いている。

距離は600mほど、接敵まで1分とかからない。


『了解だ。各員へ、編隊集結、No.2を着剣...抜刀!送れ』


了解の声が重なり、刃を抜く鋭い音を響かせる。


『識別しました!レッドドラゴンとランサードラゴンです!送ります』

『編隊単縦陣、シラギ班は30秒後に補用機落とせ。俺たちがレッドへ行く、後続隊はランサーを殺れ。諸君らの健闘を祈る。以上』


ものの数秒で編隊が組み直され、前後に綺麗な直線が2本出来上がる。

目標は眼下を悠々と飛んでいる。


時間になり剣のレバーを引くと、鞘についた補助ジョットパックとバックパックの固定翼が分離して急激に速度が低下する。

俺は上体を反らして背面飛行から急降下へと移ると、後続の班員たち5人もそれに従った。


ウィングの出力を上げると展開した4枚の高圧エネルギーの翼が風を切り裂き、甲高い風切り音を響かせる。

これによって敵もこちらの存在に気がついたようだった。


ーーーだが遅い!


12枚の刃がすれ違いざまにドラゴンの鱗を割き、絶叫を置いてはるか下方まで降下した。

しかし、攻撃を仕掛ける時に俺は奇妙なものを見かけた。


ドラゴンの背中に、騎手が居た?


『緊急通信、ドラゴンの背中に騎手らしきものを視認。送れ』

『了解。こちらも確認しました。送ります』

『こちらも確認。送ります』


続く続報も全て黒。

ヤロウ、ドラゴンを飼いならしやがった。卵の確保に何千の屍の山を築いたのだ!


怒りと作戦変更の二重で舌打ちをさせられる。

ドラゴンライダーともなれば、動きは野生に比べて臨機応変なものになるはずだ。


『各員注意しろ!野良とはワケが違う!3人編隊に変更し、各小隊で空戦に当たれ。以上!!』


再び上昇して、反転攻撃の第二波も成功。2度の使用で装着していた刃が砕け散る。

即座にNo.1に換装して、旋回してきたレッドとドッグファイトになった。


2回の攻撃で怯んでいるのか動きが鈍い。簡単に後ろをとると、そのまま加速して尻尾から羽の付け根までを切り裂く。

細かな鱗の破片が雨のように降り、レッドドラゴンが急速に高度を落とした。


小隊は訓練通り左右二手に分かれてそれを追う。全員が固まって追えば、ブレスで一網打尽にされてしまうからだ。


そこでドラゴンはグルリと腹を見せる。まだ息があるのに何故?

ーーーと、すぐに奴の口に紅い炎が揺らめいた。


『シラギ班全員散開!』


各員がやっとブレスの射線から外れたと同時に地獄の業火のようなファイアブレスが横薙ぎに突き抜け、その熱気で近場にいた2名に火が点いた。

彼らは急降下して消火に当たる。


こちらは班員の三分の一が戦線離脱。

対するレッドドラゴンは手負いだが、持ち前の防御力により軽症程度で済んでいる。


一方で、後続のクラーク班はランサードラゴンを相手に善戦している。

重鈍なランサーは簡単に背後を取れるが、堅牢な鱗と鋭いトゲは通常攻撃では貫けない。

そこをクラークたちは降下の勢いを上手く利用して着実に削っている。


空中戦独特のくぐもった音の連続に耳を痛めながらもレッドの追撃に入る。

No.1の分厚い刃が鱗と鱗の間に抉りこむと、鉄板を切り裂いているかの様な重たい手応えを感じつつ鱗を1~2枚剥ぎ取った。


レッドドラゴンは叫び声を上げて体をうねらせる。

人間でいえば生爪を剥がされたようなものだ。


「くっ...そろそろか」


ドラゴンは空中戦を得意としないため、空での戦いは我々に有利な形で進んでいくのだが、こちらも無限に飛んでいられる訳でもない。


ウィングの航続力は燃費の良い巡航速度で30分前後、全力航行の空戦時は5分と持たない。

現在、腕に装着したバッテリーの残量計はちょうど半分を指していた。


非常用パラシュートも装備してあるので不時着水は可能だが、今使ったとしても魚かドラゴンの餌だ。


『全隊員へ。時間だ、帰投する。以上』


了解の声を聞きながら海上を見下ろす。

すると、はるか彼方の水平線にポツンと浮かぶ黒い点を発見した。


あれは艦艇から出た排煙だ。


ーーーよし、急派の水雷戦隊が間に合った。これで着艦ができる。


母艦となる巡洋艦を見定めると、各員は一気に急降下へと移行する。

当然ドラゴンたちも後に続いた。


降下による頭痛に顔をしかめながらも高度100mまで降り、ジグザグ飛行を行いながら撤退を進める。

これによって直線的な飛び道具を扱うランサーは的が絞れず、レッドは高速飛行中でブレスを撃てない。


撤退を始めて10分が経った。

艦隊の上げる黒煙がはっきりと目視できるまで接近し、向こうも俺たちと敵の識別が可能となる頃合いだが、バッテリー残量も10%を切っている。

各員、エネルギー節約のために動きが単調になり始めた。


そんな時に、艦隊の方でまばゆい閃光が放たれたかと思うと、それと連動して編隊は一斉に散らばった。


ドラゴンたちがどれを追うか速度を緩めた瞬間、十数発の爆炎が2匹を包む。

艦砲射撃が始まったのだ。


十数秒おきに飛来する砲弾群にドラゴンたちは翻弄され、見る間に距離が開いていく。


だが、急な旋回を行ったためにバッテリーが目減りしていた。このままでは母艦まで辿りつけない。


『・・・各員へ、ウィング以外の装備を全て投棄。軽くなって母艦へ急げ。以上』


苦渋の決断であるが、帰投するにはこれしかない。


鞘を落とし、ベルトを外す。

重量物が一気に減ると飛行速度も自然と上昇していった。


振り向いてドラゴンたちの状況を確認する。

竜は爆風に翻弄されてめちゃくちゃな回避行動をとっていたが、20cmの砲弾が至近距離で炸裂しているのだ。どんな装備をしていたとしても騎手の方は死んだだろう。


重量物が減ったお陰で母艦まで1kmを切った現在でもバッテリー残量は5%を指している。


ーーーこれなら帰れる。


あとは見出した可能性を全力で実現させるだけだ。


全員が高度を海面すれすれまで落として出力を絞った。

こうすればバッテリーの消耗を抑え、また上方からの攻撃を低速でも追撃を躱しやすくなるからだ。


艦隊が砲撃をやめて、こちらの収容態勢に入った。

旗艦らしい巡洋艦は発光信号にて着艦は駆逐艦にしろと誘導をする。


一同は、戦列をそれてこちらへ直進して来た駆逐艦へと進路を変え、先頭を飛ぶクラークは着艦アプローチに入る。

続々と艦の中甲板に降り立ち、殿(しんがり)の俺も無事に甲板へ足をつけた。


「お疲れ様です、シラギ隊長」

「クラーク、被害状況を報告しろ」

「はっ!...軽症者2名、未帰還は--」


クラークは間を空けて自信満々に破顔させたかと思うと、再び真顔に戻って次の言葉を発する。


「未帰還0。隊員総員帰投致しました!」

「うむ、セドリック、アラン、火傷は平気か?」

「はい!」

「この程度、3日で治りますよ」


2人の元気そうな返事に笑みを浮かべ、続いて他の隊員達を労う。


「皆もよくやってくれた。またお前達の顔を見られて何よりだ。・・・さて俺たちの仕事は一旦終わったが戦闘は続いている。各自緊急発艦に備えてバッテリーの充電を忘れないように...それでは待機任務へ移行せよ!」


全員に敬礼を返し、士官室へと入った。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


シラギ班を回収し終えた駆逐艦は反転し、単艦で進路をガーデンへと取った。


一方で、戦域に残った巡洋艦と麾下(きか)5隻の駆逐艦は陣形を変え、単横陣を取る。

ドラゴン達に艦腹を見せる形であるが、全ての備砲が空を睨む。


「全艦照準よし!」

「撃てッ!」


旗艦から指令が出されると全艦一斉射撃が始まり、大小の砲弾が20秒に1発のペースで発射される。

しかし、駆逐艦の主砲は直撃でもドラゴン鱗を貫けず、巡洋艦でも致命傷には至らない。

それほどにドラゴンの鱗は硬かった。


シラギ達が鱗を裂くのではなく、継ぎ目に刃を入れて剥ぎ取っていたのもこのためである。


やがて互いの距離が縮まり、されるがままだったドラゴン達の反撃が始まる。

狙いは先頭を走る巡洋艦に集中した。


レッドドラゴンのブレスが甲板をなぎ払って鉄を溶かし、そこにランサードラゴンの棘が2本命中する。

砲弾と違って炸裂しないのでそれ単体では艦にとって致命傷にはならないが、燃え盛る火炎は艦を歪め、棘は鉄板を易々と貫いて浸水を引き起こした。


赤く燃えた船体が海水に触れて水蒸気が発生し、火災の黒煙と水蒸気で巡洋艦の姿は確認できなくなる。


「中甲板から後部甲板にて火災発生、消火不能!」

「第5から第7水密区画に浸水発生!傾斜角3度」


伝声管からは叫び声が、スピーカーからはアラーム鳴り響いて狭い艦橋を騒音で包み込む。


巡洋艦がダメージコントロールに没頭される中、ドラゴンたちは目視しやすい後続の駆逐艦に狙いを変えた。


巡洋艦と同様の反復攻撃であったが、防御力の低さから一層激しい損傷を受け、機関も停止する。

ゆっくりと左から沈み始めていた艦は、やがて貫かれた鉄板の隙間から弾庫へと引火して弾け飛んだ。


撃てる砲は各個射撃を行い、作業員は爆風と炎の中で消火と修復に追われる。

そんな中、巡洋艦の通信室ではしきりに無線のやりとりが行われていた。


電信に耳を傾けていた通信士が一枚の紙を隣に送り、受け取った方は内容を伝声管へ叫ぶ。


「第1戦隊、まもなく到着!」

「よし...取舵一杯180度、第1戦隊と合流せよ!」


指示通りに舵が切られて船体が大きく揺さぶられる。

その間も艦砲は火を吹き続けたが、ドラゴンたちは当たっても効果が薄いことに気がついたらしく、砲撃をものともせずに攻撃の手を緩めなかった。


撤退開始から数分後、10発目の棘と5発のブレスを受けた巡洋艦の機関がついに止まった。

艦上は炎に包まれ、溶けた鉄が船体を歪ませる。


「指揮権を後続駆逐艦のカルバンに譲渡。我に構うな」


巡洋艦はその電信を最後に沈黙した。

--ーーーーーーM.G.メモーーーーーーーー


・補用ジェットパック


陸上用で航続力の短いウィングの補助推進を行う外部オプション。これによって長距離の洋上飛行を可能とする。

液体燃料式の機関を搭載し、単独航続力は1時間前後。破損に弱く、爆発の危険があるため戦闘時には切り離される。


鞘の側面に推進器を付け、ウィング本体に固定翼を装着することで上空ではウィングを起動していなくとも飛行が可能である。



・エレナ級重巡洋艦


標準的なガーデンの重巡洋艦。

排水量は15600t、20.5cm連装砲を5基と、15cm級の砲弾や小型ドラゴンの爪攻撃程度は防ぐことのできる装甲を装備する。

快速で、最高速度は35ノット。


主な任務は防空警戒で、ガーデンの周囲を哨戒する巡洋艦の一隻。

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