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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 ガーデン兵編
73/87

〜ガーデン南東沖海戦 後編〜

戦艦4隻を中心とした第1戦隊の旗艦 ガーディアンは遠方で上がる黒煙を視認した。


「艦長、水雷戦隊を視認。炎上している」

「飛行目標 (ふた)、確認!」

「・・・デカイな。どちらも30mはある」


双眼鏡を覗きながらライトはそう呟き、生身でアレに挑むシラギたちの勇ましさに息を飲む。


「いい具合に鱗も落ちています。あれでしたら副砲や高角砲でも貫通可能でしょう」

「うむ、別働隊の重巡艦隊に沈没艦の乗員救助を命じなさい。---我 対空戦に入れり。艦長、指揮は任せました」

「はっ・・・対空戦闘用意。左砲戦、主砲 対空焼散弾(にごう)装填始め」


報告に頷いたライトは艦橋の椅子に腰を下ろしたまま指示を出す。

その瞳には冷たい焔が揺らめいていた。


艦内に重々しい重機音を響かせて旋回した、主砲4基8門が水平線を見据える。


「初撃は目標から大きく前方を狙え。注意をこちらへ引き付けろ」

「・・・全艦、照準よし!」

「甲板員退避、衝撃に備え取舵5度...撃てッ」


艦長が命令を下すと、麾下(きか)4隻、合計32門の大口径砲が火を吹いた。

爆風が甲板を薙ぎ払って艦を揺らし、海面は衝撃波で大きく(えぐ)れる。


撃ち出された黒い点が大空を駆け、狙い通りドラゴンや水雷戦隊の手前で炸裂した。


大きな爆音にドラゴンは驚いて駆逐艦への攻撃を緩める。

それと同時に、3隻にまで減ってしまった駆逐艦はバラバラな方向へと散らばった。


獲物に逃げられ、やがて第2、第3射と続いたことでドラゴンの目標は完全に戦艦隊に移った。


「目標が本艦隊へ急速接近!距離19,000!」

「次弾弾種変更、対竜弾(さんごう)。距離500を切り次第、斉射しろ」


接近するドラゴンのたちに迷いは無い。

何故なら、すでに2匹は水雷戦隊との戦闘で砲弾は脅威では無いと認識し、さらには連射が効かないことも見抜いている。

知能の高いドラゴンは誰に教えられずともその程度は易々と理解できた。


だが、それこそがこの作戦の狙いであった。


出撃に時間がかかり、足も遅い戦艦とはいえ、有事に備えてボイラーに火を灯したものが数隻は常備されている。

わざわざ脆い水雷戦隊を出動させたのは小回りや速度だけではなく、その備砲の威力も関係していた。


しばしの睨み合いの間、細かな照準修正が続く。

やがて測距(そっきょ)手から敵が間合いに入ったことが告げられると、砲手達はシンと静まり返って次の命令を待った。


「撃て」


轟音が鳴り響き、飛翔したうちの1発がランサードラゴンの近くで炸裂した。

強烈な爆風が鱗を吹き飛ばし、弾片が全身に突き刺さっていく。ランサーの絶叫は弾幕にかき消され、力無く海面に墜落した。


主力戦艦の主砲弾は、威力も口径も水雷戦隊の倍以上ある。

思いもよらない相方の喪失にレッドドラゴンはたじろぎ、続けて放たれた中口径の対空砲火にも怯えて距離をとった。十分な間合いを確保してからもう一度主砲が火を噴くが、至近距離でランダムな動きを繰り返すドラゴンにはなかなか命中しない。


レッドドラゴンは雄叫びを1つ上げ、空高くまで上昇するとガーデンの方へ逃げていく。


「まずい、奴を逃がすな!主砲旋回いそ--ッ!」


ライトが追撃を命じようとした瞬間、戦艦 ガーディアンが大きな振動に襲われて一同がよろめいた。


『喫水線下に損傷!6番ボイラー室に浸水!』

『艦、速力低下。20ノット!』

『ランサーの棘が命中した模様です』


報告と共に艦橋近くまで立ち上がった大きな水柱の中から、大半の鱗が落後してボロボロになったランサードラゴンが飛び出してきた。


「ガアアァァアアアアァアァアアア!!」


雄叫びを上げ、満身創痍のランサーは最期の一暴れとでもいうように棘を連射し、近くの構造物を爪やら牙やらで引き裂く。


伝声管からは各所の被害が相次いで報告された。


「後続艦に連絡、我を残してレッドを撃墜せよ。ならびに、航空支援要請。以上だ」

「了解しました」


ライトが指令を出すと、前進するガーディアンを残して僚艦は一斉に面舵を切る。


単艦で残ったガーディアンは舵を左右に切って甲板上のドラゴンを振り落とそうとするが、なにせ艦腹にランサーの棘が突き刺さって大きな抵抗力を生んでいる。

途中真っ直ぐ進んでいるつもりであってもわずかに左へ逸れていた。


「艦が左に進んでいる、当て舵10度。左舷最上甲板での白兵戦用意」


艦長命令で進路修正と戦闘準備が進められていく。

収容している白兵戦闘員は2個中隊人数にして120人程度でしかない。足の付く場所で成竜を相手に戦うにはやや少ない人員とも言えた。


だが、そこがホームグラウンドであれば話は別だ。ここは自艦の甲板上、数十の銃口と6つの砲門がドラゴンを睨む。


「総員配置につきました」

「左舷高角砲は仰角マイナス一杯。残った機銃群は十字射撃を開始しろ」


速やかに下命されると、25mmの機銃群が一斉に火を噴いた。

通常ならば鱗に弾かれて痒くもないだろうが、今はそれが無い。たとえその下にある筋肉が強靭であったとしても、大口径弾を直に食らえば多少は効果がある。

そこに高角砲の砲弾が食い込んで炸裂し、肉片を撒き散らした。


銃撃と砲撃は断続的に約10分間行われ、うずくまって耐え続けたドラゴンも流石に満身創痍となっていた。

しかし、そこで力尽きてくれるほどドラゴンはヤワな生物ではない。爪を立て、ギロリと睨む眼には今も戦意が猛っている。


『機銃、残弾わずか!』

直掩(ちょくえん)隊、間もなく到着します』

『白兵戦闘員配置よし』


艦橋に響き渡る数々の報告にライトは黙って頷き、それを見た艦長は速やかに命令を発する。


「白兵隊突撃せよ!」


下命と同時に弾の雨が止み、物陰からガーデン兵が飛び出した。


ランサードラゴンは雄叫びを上げて威嚇し、爪を振り回して、太い針のような剣を握るガーデン兵たちを薙ぎ払っていく。

当たれば即死、(かす)っても重症。

初撃で5人が肉片となって飛び散り、3人が手足をもがれて転がった。


無謀な突撃を嘲笑(あざわら)うかのように、二本足で立ったランサーが頭を持ち上げて見下ろした瞬間、その上顎に1発の高角砲弾が命中する。

その衝撃で軽い脳震盪(のうしんとう)を起こしたドラゴンがよろめいた。


一瞬の隙を見逃さず、両足にガーデン兵たちが持っていた針剣が突き刺さる。刀身の根元に仕掛けられた火薬が炸裂し、その勢いで足の甲を貫通した針は甲板ごと串刺した。


「ガアアアアァァアア!!」


ランサーは痛みで思わず我に返って前足を着いたが、そこにも同様に針を突き刺されて四肢の固定が完了した。


「アンカーレイピア固定完了!」

『直掩隊へ、首を刈れ』

『了解!』


空から一閃。2つの影と4筋の閃光が急降下してすれ違いざまにランサーの首を裂く。

直掩として呼ばれたシラギ隊の隊員がトドメを刺したのだった。


首とアゴの付け根にあたるエラへ薄く鋭い刃が食い込むと、始めに砕けた刀身が銀砂を降らせ、続いてジワリと滲み出ていた血が勢い良く噴き出した。

頸動脈と静脈を断たれたランサードラゴンは、その瞳を鈍く揺らめかせ、微かな呻き声を上げた後に息絶えた。


甲板には静かに血だまりが広がっていく。


『左舷中甲板より報告、ランサードラゴンの絶命を確認』

「戦闘用具収め。進路修正、ガーデンへ急行せよ」


一先ずの戦闘が終了して、艦橋内に安堵の息が溢れる。

戦艦は滅多な攻撃では沈まないが、中に乗っている人間はそうではない。1回の攻撃で何人もの人間が死ぬ。事実、先の戦闘で負傷者は十数名、死者も数名出ていた。


尤も、上級種であれば1匹で一国を滅ぼすことも可能なドラゴン相手に、この人数と船数隻の喪失で済んだのだから完全勝利といっても過言ではなかった。


「艦橋にこそ被害はありませんでしたが、左舷対空兵装の損傷が思いの(ほか)大きいようです。密な弾幕を張るのは厳しいでしょう」

「うむ、白兵隊の被害はどれほどか?」

「死者5名、重症(イエロー)6名、軽傷は11名です」

「そうか、剣を手に戦う彼らには毎度無理強いをさせてしまいますね...」


ライトはグッと拳を握り締めて防弾ガラス越しの空を見上げる。


(つくづく、神はなぜ、我々に命を可視化させたのだろう。己の死を見せるなど、なんと(むご)いことか)


奥歯を噛み締めて、視界の右上に浮かぶ自分の(ヒットポイント)と神を呪った。


「・・・遺体は丁重に扱え。彼らの故郷に返さねばならない」


ため息とともに私情を吐き出して指揮に戻る。

そこで、背後のドアがノックされた。


「ドラゴン討伐隊 シラギ班副隊長クラークです」


野太い声が鋼鉄の扉越しに響いてくる。


「入れ」

「失礼します」


入室を許可すると、ドアが開いて司令塔の中に見慣れた巨漢が入ってきた。


「航空支援任務、完了致しました!」

「ご苦労だった。救援感謝する」


敬礼を返すと、ライトはやや砕けた口調で話す。


「また君が来ましたか、クラーク。大変な任務をさせた後だというのに、申し訳なかった」

「いやいや、緊急発進(スクランブル)は飯の数より多いのが俺たちですからねぇ。大した問題じゃありませんよ」


クラークは気丈夫にニカッと笑って艦橋()の空気を和ませた。


「無理な飛行をしたんでバッテリーを交換したいんだが、貴艦に予備はあるだろうか」

「数は少ないが有ったはずだ。後で主計科の者に案内させよう」

「ありがとうございます!」


一通り仕事の話が片付くと、二人とも肩の力を抜いて語り始めた。


「ところで、シラギはどうしている?また無茶をしていないだろうな?」


君が来たのだからな。と、含みのある言い方をライトがすると、クラークも困ったような図星だと言うような表情を浮かべた。


「隊長ならガーデンからの支援要請を受けてそっちに飛びましたよ。あの人もそろそろ、椅子に座って指揮するだけでもいい気がしますがねぇ」

「言いなさるな。奴にとってドラゴン退治は生き甲斐なのです。それに、部下だけを死地へ送れるほど出来(・・)た人でもないでしょう」

「ハハッ違いない」


しばらくの間、艦橋内に2人の笑い声だけが響いていた。

だが、そんな戦場に吹く凪はあっという間に過ぎ去っていく。

伝声管から新たな情報が届いた。


『不明艦追跡中の第2水雷戦隊より入電!我、不明艦見ゆ。続報!発光信号にて呼びかけを行うも応答無し』

「砲雷撃戦用意、再三にわたって呼びかけ、降伏の意が無ければ戦闘始め。ただし撃沈はするな、鹵獲(ろかく)しろ」


ライトの命令が直ちに繰り返され、電信となって遥かの水雷戦隊へ下される。


「では、我々はこれより待機任務に就きます!司令長官、ご健闘をお祈りしております」


今度の敬礼は、黙って返される。

クラークも黙って踵を返して指揮所から出て行った。


同時刻、海の他に陸-ーガーデン本島でも戦闘の気配が一気に高まっていた。

--ーーーーーーM.G.メモーーーーーーーー


・ガーディアン級戦艦


4隻の姉妹艦がいるガーデンの主力戦艦。

排水量は41,120t、40.5cm連装砲を4基と14cm副砲を多数持ち、同口径砲や中型ドラゴンならびに大型海魔の攻撃に耐え得る装甲を装備する。

最高速度は30ノット。


ガーデン本島守備艦隊の旗艦で、ディアナを含む歴代の司令長官が座乗した。

暦たちがミーラスブリザで乗ったのもこの船であるが、その際はプロパガンダとして派遣されていた。

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