〜模擬戦 vsスピエン〜
模擬剣を拾い、今度はスピエンと対峙する。
彼の構えは騎士のそれそのもので、中心線のしっかりとした王道中の王道をいっている。
「ではいくぞ!」
「こっちこそ!」
スピエンの模擬剣は両刃の長剣で、片手でも両手でも扱えるバスタードソードだ。まともに受ければ腕が痺れる。
上段から振り下ろされる刀身の腹を叩いて軌道を反らせる。
鋭いが、真っ直ぐな剣筋な分エレンと比べて弾き易い。
二、三度は同じように弾き合いが続いたが、急にスピエンの剣筋が変化した。
両手持ちを片手持ちに変え、力強い単発技から、速く連続した切り方になったのだ。
これでは防御しただけで剣が持っていかれる可能性が高いので、必然的に身を逸らして躱すようになってくる。
・・・これはこれで目の訓練になるのでありがたい。
スピエンの攻めは直ぐに終わり、大きく間合いを取って呼吸を整えている。
今度はこちらの番だ。
片手剣の利点はその軽さと取り回しの良さにある。
勝手はやや違うものの、ある程度の腕力さえあれば短剣と同様に扱える。つまるところ、突きと斬撃の切り替えが手首の運動だけで済んでしまうのだ。
対してバスタードソードは両手剣と片手剣の両方の利点と欠点を持つ。片手剣とでは、超近距離での連続技に脆い。
「ぐぅっ...」
再び間合いを開けると、腕に疲労が溜まってきたのかスピエンが苦しげな呻き声を上げた。
こちらも汗が顎まで伝わっている。これだけの技量の二人との連戦は堪えた。
スピエンも疲労が溜まってきたのか、呼吸を整えながら構えを変える。
「コヨミ、前々から一つ試したいことがあったのだ。貴様なら受け切れると信じるぞ」
「過剰評価は本当に止めてくれ。対人技以上は受けきれない」
「もちろん手加減はする・・・いくぞ!」
駆け出したスピエンは剣を両手に握ってキレの良い連続技を放ってきた。
デタラメに剣を振っているわけではない。
片手でない分威力と速度が上がり、落ちるはずの機動性と間合いは全身を絶えず利用することで補っている。
ーーー言うなれば、高速剣の極致だ。
あんなものに当たったらたまったものではない。下手に受ければ剣は弾かれ、連続で躱すにしても早過ぎる。
どこに手加減の要素があるのだろう?
だが、体力の消耗も異常に激しい様で見る間に勢いが落ちていく。
未完成だから手加減なのだろうか?
どのみち、対人の模擬戦で使うには度の過ぎた技だ。
「くぅっ!」
ついに体力が尽きたのか、攻撃の手が止まって大きく後退した。
すかさず突きの構えをとると、一気に間合いを詰める。大技のお返しはやはり大技だろう。
「耐えろよ、スピエン」
「来い!とは言えんな」
疲弊したスピエンは苦笑いを浮かべつつもしっかりと防御態勢に入る。
刃と刃が交わって火花が飛び散り、甲高い金属音と共にバスタードソードが宙を舞う。
ーーー水上家伝来"無明三段突き"
「?」
スピエンは訳がわからない。といった表情で固まっている。
一突きしては一歩踏み込みを三度繰り返す。剣を引くのと踏み込みが合わさることで早く次の動作に切り替えることができる為、相手は一瞬のうちに三回の突きが放たれたかの様に錯覚する。
それを全て刃先に受けたことでスピエンの模擬剣は吹き飛んだのだ。
「勝負...あり」
審判役のエレンが決着を告げると、俺もスピエンもその場にへたり込んだ。
疲れて歩きたくもない。
「はぁはぁ...少し休憩にしよう」
剣を杖代わりにして立ち上がり、練兵場の端にある長椅子まで移動した。
それだけの作業にしても、この広い練兵場の中心から端までを、しかも他の模擬戦の邪魔にならないよう蛇行して進むとなるとかなりの距離になる。疲れた体にはなかなか厳しい。
ようやく腰を落ち着けると、ボヤくようにスピエンが口を開きだす。
「それにしても、このような時に模擬戦をやらせるとは...変わったところは教官に似ていらっしゃる」
「最初は俺も変だと思ったけど、よく考えると上手い手だよ」
「どういう事だ?」
「?」
スピエンとエレンは首を傾げてこちらを見る。なんだ、気づいていなかったのだろうか?
「練兵場で模擬戦をやらせておけば、少なくとも俺たちは監視下におけるわけだから中々したたかな人だよ。団長より役人向きだ」
「確かにそうだな。何故このタイミングでこんな事をやらせるのかと疑問に思っていたが...なるほど、合点がいった」
「・・・」
「エレン?どうしたんだい?」
「・・・何でも...ない」
いつも通り無表情なエレンの顔であったが、わずかに影が差したような気がした。過去に似たような事でもあり、辛いことでもあったのかもしれない。
「そっか...」
ポンと頭に手を置いて、やや大雑把に撫でる。忘れろとも、気にするなとも、そんな意味合いを込めてのものだ。
何の抵抗もないので、手の動きに合わせて体が揺れる彼女はジッとこちらを見つめてくる。
上陸艇の甲板でされた告白には明確に答えていない。彼女を傷つけたくなかったからぼかした言い方をしたが、そのせいで気持ちを引きずっているのだとしたら、早く明言してやるのが良いはずだ。
ーーーだが、彼女を跳ね除けるには、此処はあまりにも居心地が良い。
そんな自分に自己嫌悪さえ抱く。
「なーにイチャついてんのよ。またサキに怒られるよ?」
「うわっ!」
いつの間にか現れたアイシャが俺を見上げていた。隣には肩に包帯を巻いたウィリアムも立っている。
「どうしたんだ貴様たち、特にウィリアムは絶対安静だったろう」
スピエンの言葉にウィリアムは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
そういえば、彼もこの一年で随分とヤンチャになった。不動の安定はアイシャくらいなものだ。
「あー、うん。そうだったんだけど、病室は何も無いからさ。許可をもらって見学だけはさせてもらってるんだ」
「私はその付き添い。さっきの3人の戦いっぷりも見させてもらったよ〜。コヨミは良い負けっぷりだったね」
にししっと、彼女は楽しそうな笑みを浮かべる。
もう少し元気があればツッコミも入れられたが、現状では乾いた笑いしか出なかった。
「思ったよりキツイよ。良い復習になった」
「でも...凄かった..」
「うんうん。でもエレンのステップも華麗だよね!踊ってるみたいだよ」
「あれは難しいぞ。見様見真似ではもどきにもならないーーー」
三人がエレンの歩法に会話を弾ませる中、隣に座ったウィリアムは俺の燕返しや三段突きに関心があるようだった。
「あの切返しはツバメガエシって言うんだ」
「ああ、振り下ろした直後に一歩踏み込んで、その勢いを利用して刃を返して斬り上げるんだ。刀の技だけど、直剣でもできたから習得自治は出来るはずだよ。ただ、手首を痛めやすいから始めはゆっくりと動き方から体に覚えこませたほうが良い」
「ふんふん」
「三段突きは、突き出しと踏み込みの合わせ方に癖があるけど、基本動作は唯の突き技と変わらない。コツさえ掴めばそんなに難しい技じゃないよ」
ウィリアムは利き手が使えないにもかかわらず自分の手で紙に今の解説を書き込んでいる。
代筆は嫌らしい。
「ありがとうコヨミ!頑張って覚えるよ」
「わからないことがあったら聞いてくれれば答えるよ」
「うん、お願いするよ!」
こちらの会話が一段落つくと、スピエンたちの方も区切りがついたようで、いつの間にかこっちの話を聞いていた。
そして、ふと思い出したかのようにアイシャが口を開いた。
「そういえばさ、コヨミの昔話...結構前から聞きそびれちゃってるね〜」
「確かにそうだな」
「気になってた...」
すっかり忘れていたけれど、確かにそんなに話があった気がする。
時効にはなっていなかったのか。
「約束でしょ〜、昇進祝いに聞かせてよ」
「祝いの席でできるような話じゃないんだけどな」
「皆んな、無理に聞くのは良くないよ。誰にだって話したくないことはあるだろうし」
「ん...」
ウィリアムの言葉に、エレンが再び影を落とす。彼女の過去は聞いたことがあるが、決して人に聞かれたいものではなかったはずだ。
これで言わないのは公平じゃない。
「いや、いいんだ。俺と紗季との関係も話さなきゃだろうし、皆んなへの信頼の証だと思って聞いてほしい」
もちろん他言無用でと付け足し、全員が了承する。
さて、これで後には引けなくなった。
これも、いい加減に過去と向き合ういい機会かもしれない。
「紗季も居たほうがいいから、今夜俺の部屋に集まってくれ。そこで全て話すよ。ーーーさて、次はエレンとスピエンの模擬戦だな」
一気に話題を変えたためか、級友たちの多くはポカンと取り残されている。
一人エレンは嬉々として立ち上がり、得物を握りしめた。
「さっ...いく..」
「う、うむ。是非手合わせ願おう」
スピエンも模擬剣を担ぐと、エレンに続いて席を離れる。
「ねえ、コヨミはどっちが勝ちと思う?やっぱりエレン?」
アイシャは俺の隣に腰を下ろすと、勝敗の行方を尋ねてくる。
だが正直な話、俺にもよくわからない。
普通に考えればエレンが優勢なのだろうが、スピエンの伸びしろは半端ではない。短時間でも急成長するのが彼の強みだ。
加えて、対戦者への直接攻撃が行えない今回の模擬戦では、エレンの曲剣でスピエンの剣を飛ばすのは厳しい。機動性を活かせず、身長差や単発火力の弱さが浮き彫りになる。
「んー、難しいけど...スピエンが勝つかもしれないな」
「そうかなぁ。でもスピエンはコヨミに負けてるよ?」
アイシャは首を傾げるが、強さというか、力量を計るのは難しい。
練度の違いは除外しても、得意とする属性によってその優劣は変化する。
俺はやや攻撃寄りとはいえ万能型なので、継戦能力には優れるがエレンのような機動性を活かした高速型には脆い。
一方で、スピエンのように防御力は無いが強力な攻撃手段を多く持つ重戦闘型は俺のような万能型に粘られると体力が底を尽きるので得意としない。
ではあの二人はどうか?
どちらも各属性の典型例と言っていい。本来ならば、手早い攻め手が数多なエレンが防御力の低いスピエンよりも優位に立てるはずだ。
だが、先に述べたように今回の条件ではエレンの長所とスピエンの短所が潰される。ほとんど千日試合だ。
唯一エレンが勝機をつかめるとしたら、持ち前の素早さと体力でスピエンの体力切れを待つしかない。
彼らもその事は熟知しているはずだ。どんな勝負になるのか、頭を空にして楽しむことにした。




