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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 初年度生編
56/87

〜出撃〜

訓練兵団第104班出撃前戦闘能力検査結果


Name:Aisha(アイシャ)Client(クライアント)

Level:604

HP:7852


Name:Ellen(エレン)Kera(ケラー)

Level:862

HP:11206


Name:Koyomi(コヨミ)Mizukami(ミズカミ)

Level:1101

HP:14313


Name:Saki(サキ)Mizukami(ミズカミ)

Level:651

HP:8463


Name:Spien(スピエン)Irugis(イルギス)

Level:736

HP:9568



Name:William(ウィリアム)Turner(ターナー)

Level:699

HP:9087


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【試験概要通知】

《期間》:2日

《概要》:指定された班の訓練生は救助班が街の生存者を救出し終えるまでそれらを護衛し、それ以外は期限である一晩過ぎるまで市街地に潜伏して徘徊するグールを駆逐すること。

《試験合格基準》:生きて帰ること。




104班の面々が鈍い機関の音を聞きながら狭苦しい強襲艇にすし詰めにされること約5時間、(ようや)く羅針艦橋から【目的地視認】の報告が伝声管を伝って知らされ、全幅がたったの2.5mしかない待機室で各々が装備の最終確認を始めた。

ただし、本来5人詰めのところに6人も入っているので何をするにも兎に角狭い。


「ちょっウィル!もうちょっとそっち行ってよ脚甲のベルトが締められないって」

「僕だってキツイんだけど...」

「貴様ら暴れるな!小手の金具が止め難いぞ!」

「3人共....うるさい」


エレンが小柄な体躯を利用して部屋の隅の方でブーツの紐を締め直しながらボソリと文句を呟くが、賑やかな3人の前にかき消されてしまった。


「痛っ!何でこんな所にライフル銃が掛けてあるのよ!」


壁に掛けてあった銃の銃身の頭をぶつけたアイシャが不満気に言う。


「見た所...非常時の....迎撃用...」


頭を抑えるアイシャをよそにエレンは冷静に分析している。


一方で出航前に準備を終わらせてきた水上兄妹はベンチに座って目を瞑っていた。

やかましい騒ぎはあったもののそうこうしている内に全員の支度が終わり、更にしばらくすると【衝撃に備えよ】との怒声が伝声管から響き、一同が壁の支柱や吊革に掴まると同時に物凄い振動と岩を砕いたかの様な音が艦を揺らし、浮遊感に似た不気味な軋みが船体をしならせると急激に艦首が持ち上がった。


少しの間静寂が艦を支配していたが、今度は艦内で何か重い音がしたかと思うと待機室の先端が開き砂浜が姿を現す。

【出撃!】の号令がかかると全員が一斉に艦を飛び出して砂浜へ駆け出した。

左右では他班も同じような状況である。


訓練兵団全班と随伴してきた各兵団員の合計1500人で砂浜を埋め尽くされ、それらは指定された少数の班を残して一挙に市街地へとなだれ込んだ。

市街地と言っても、予定通りガーデン水上部隊による3日間の艦砲射撃でことごとく薙ぎ払われ、滅多打ちにされているため建物の原型を留めているものは最早殆どないと言って良い状況な挙句、地面も砲弾が炸裂したせいで至る所に大きな窪みができている。


「物凄い砲火だ。ハファンスタッドは美しい港町だと聞いていたが...今では唯の廃墟だ」

「スピエンはこの街を知っていたのかい?」


呆然とした様子でスピエンが呟くとウィリアムがそう尋ね返す。


「勿論だ。この地方ではそれなりに大きな貿易港として栄えた街だったからな。父上が此処で仕入れたパイプ草を気に入っておられてよく使用人に調達に行かせていたから噂程度なら知っていた」

「こんな廃墟になってもグールって残ってるのかな?」


アイシャは呆気にとられているスピエンとは逆に周囲を警戒しながら独り言の様に呟いた。


「生き残りがいる可能性は否定できない。何せ奴らは脳を完全に吹き飛ばすか切断しない限りは活動を停止しないからな。尤も、水上部隊の大砲は最低でも20cmらしいから相当数を仕留めて入ると思うんだけども...」


暦はそう答えつつ、瓦礫の影に転がっていた爆風で吹き飛ばされたらしい引き千切られた小さな腕を見て彼も知らず知らずの間に鞘を握る手に力が篭っていた。


「用心は怠れない。例え下半身が無かろうとも動き回れるんだからな」


アイシャやウィリアム、スピエンといった実戦慣れしていない面々は暦の言葉を聞いて思わず生唾を飲み込むとより一層周囲に意識を向ける。

一向は警戒態勢の輪形陣を組んだまま市街地の西側にある元は大通りであったと思われる通りに出ると、今までの小道とは違って些か見張りが効く場所に出たためか僅かに肩の力が抜いた一方で水上兄妹とエレンは警戒の色を濃くして見回していると、エレンの視界に小さな何かが写り込んだ。


「!...コヨミ!」


大きな声で暦を呼びながら彼女は素早く剣を抜き放つ。

呼ばれた暦はもとより緊張の糸が緩みかけていたメンバーも只ならぬ雰囲気を感じ取って各々武器を手に取った。


エレンが指差す方向には布の切れ端と血の跡がベッタリと瓦礫に付着している。

注意しながら近寄ってみると、まだ少女の域を脱していない容姿の女性が俯いたまま座り込んでいることも確認できた。

これによって班全体に電撃のような緊張が走る。


「コヨミ...あれ...」

「グールか唯の死体か...どちらにせよ放置するのは危険だが、それにしても五体満足で血痕はあるが目立った外傷も無し。砲弾の嵐の後だというのに随分と綺麗な個体だ」

「生きては...いないのかな?」

「それはない」


アイシャが首を傾げながらそう言ったが暦はまずあり得ないと否定してから1人で女性に近づいていった。

勿論抜刀した刀の刃をピッタリと向けながらではあるが。


暦が十分な間合いを詰めたのとほぼ同時にピクリと女性の体が動く。

瞬時に彼の刀がきらめいて後1秒もしないで相手の頭を分断するというところまで刃が迫った瞬間その動きが止まった。

何故ならたった今暦に斬り裂かれようとしていた女性が喋ったのである。

これは死体もグールもできないことである。


「い...や、助け...て....こわ...い」


エレン以上に小さい彼女の声は、見た目通り少女らしいあどけなさを残したものであったがすっかりと擦れてしまっていた。

何の悪戯か、それと同時に雲が空を覆って日の光を隠してしまい薄暗くなる。


「こわ...い....よ...こわ...い」


暦が刀を引くと、ゆっくりと起き上がった彼女は擦れた声を出しながら覚束ない足取りで近寄って来るが、目がよく見えないのか瞳はどんよりと曇っていて偶に転びそうになったりもした。


救いを求めるかの様に暦目掛けて伸ばされた腕を見た彼は半ば本能で大きく後ろへと飛んだ。

支えを得るべく伸ばされた腕が空を切り、バランスを崩した彼女は簡単に地面に倒れた。


「貴様、何をしているんだ!」

「そうだよコヨミ!」


予想外の行動をとった暦を班員は批判したが、本人はそれも届かないほどに心臓が早鐘のように鳴っていた。


数々の修羅場を切り抜けてきた彼の直感が危険だと騒いでいるのだ。


「私が...」


サッと前に出て起こすのを手伝おうとしたアイシャであったが、今度はエレンも不気味なものを感じたらしく素早くアイシャを止めにかかったがそれよりも一早く暦が彼女の襟首を掴んで引き寄せた。

呆気にとられたアイシャを他所に、倒れていた女性は少し前までアイシャの首筋があった辺りに噛みつくような体勢で顔を持って来ていた。


「ひっ...」


アイシャは恐怖で短い悲鳴を上げたが、次の瞬間には目の前の女性の頭は鼻の上辺りで断裂していた。


「助け...て」


短な末期の言葉を残して崩れ落ちた彼女を一同は取り囲む。


「何!何なの!グールは言葉を喋らないんじゃなかったの!?」


すっかりパニックに陥ったアイシャが近くに居たエレンにしがみつきながら避け様に言う。


「ダメ...静かにして....見つかる...」


エレンはアイシャを落ち着かせつつも素早く彼女の口を押さえて声を殺させた。

勿論余計にグールを呼ばない為の措置であったが、実戦経験の少ないアイシャは間近に迫った死の恐怖に怯えきってしまっていた。

無表情に困っているエレンは救いを求める様な目で暦を仰ぐ。


「そんな目で見られてもな...」


周囲に見張りを効かせていた彼は落ち着くまでそっとしておくのが一番だと思ったのだが、何時までも此処に留まるのは非常に危険であり、それは誰もが重々承知の事であった。

特にエレンと水上兄妹は危険地帯での長居は極力避けたく、焦る気持ちを抑えて必死に頭を捻った。


「仕方ない、誰かがアイシャに寄り添って進むしかないな。...ウィリアム、頼めるか?」

「僕は大丈夫だけど...平気かな?」


不安そうな表情を浮かべたウィリアムは暦に首を傾げると暦は安心しろとばかりに彼の肩を叩いて励ました。


「普段からアイシャと仲の良いウィリアムだからこそ適役だよ」

「・・・わかったよ。じゃあ僕の分の守備もお願いするね」

「任せてくれ」


しばらく黙っていたウィリアムだったが遂に折れて頷くと、エレンからアイシャを受け取った。


「それじゃあこの通りを一旦抜けて暗くなる前に今夜休めそうな場所を探そう」

「そうだな。この際だから贅沢は言わんが、せめて落ち着ける場所は欲しいものだ。...その女の為にもな」


スピエンの言葉を聞いて彼も彼なりにアイシャのことを気にかけているのだと気付いたがスピエンに対して後ろを向いたまま暦とエレンが厳しい指摘を飛ばす。


「スピエン、残念だが戦場に落ち着ける場所なんてものは無いさ。何時何処から襲われるかわからないんだからな」

「ここは...強さが全て...油断すれば...喰われる....あなたみたいな人は...とても危険」

「そんな事わかっている。だが十分な休養も摂らずに神経を擦り減らせと言うのか!」

「そうだ。だからこそ人間は安全な城壁の中に引き篭もった」

「貴様はどうなんだ!俺たちより数十倍も優れた身体能力を宿し、ずば抜けた戦闘能力を持ちながらモンスターが恐ろしいと言うのか!!」


いつの間にか語気の強めて暦を責めていたスピエンは次の瞬間、破裂音とジワリと熱を帯びた頬の痛みに思考が止まった。


「スピエン...さん?お兄ちゃんの事をそんな風に言うのはやめてもらえませんか?お兄ちゃんだって好きで人の道を逸れたんじゃないんです。それでもまだ言うなら...」


威圧感のある目で睨みつけた紗季にスピエンは驚きと怒りを覚えたが、彼女への制裁は意外にも暦によって行われた。


「こら紗季、下手に規律は崩さないでくれ。紗季の気持ちは充分に伝わったから」


軽い手刀を脳天に食らわせ、きつくない口調で叱咤した暦であったが、紗季は必要以上と思われる程にびくりと跳ね上がった。


「ご、ごめんなさいお兄ちゃん」

「怒ってないからそんなに驚かないでくれ」


そう言って彼女の頭を撫でる暦の手にはしっかりと刀が握られていた。

いつの間に湧いたのか3匹のグールの群れが駆け寄って来ている。

エレンは暦とほぼ同時に気がつき、スピエンはワンテンポ遅れて発見してそれぞれ愛剣を抜いた。


「前にも言ったがグールは早い、気をぬくなよ!紗季はウィリアムとアイシャを守ってくれ」

「わかったよお兄ちゃん」


流石の紗季もこの手の切り替えは早く、さっと小太刀を抜いて2人の前に立ち塞がった。


「行くぞ!」


暦の掛け声と共に彼らも走り出し、グングンと距離を縮めていき、遂にそれぞれが振り上げた剣先と切っ先がグールの頭部に食い込んだが、第一撃で刀以外に斬り裂けた者は無い。

鼻の頭が潰れて腐った血を垂れ流すグールは真にグロテスクであったが、それを凌駕する気迫で追い討ちをかけたエレンの第二撃でその首をより深く掻き、身軽さに物を言わせて足の間に滑り込むと背後に回り、グールの背中に飛び乗って地面と体が平行になった瞬間に起き上がり、首に添えていた曲剣が状態を起こした加速度の手助けを得て見事にその首を切り落とした。


一方でスピエンは2人が手早くグールを屠ったのに対して残った1匹に苦戦を強いられていた。

頭を狙って打ち込んでいるのにも関わらず、それらは肩や胴体を裂くばかりで全く手応えと言うものが感じられていないのだ。

それでも勇敢に切りかかったスピエンであったが危険と判断したエレンがさっさとグールの首を落としてしまった。


これで一先ず安心かと思ったらまるで地面から湧き出したのかと言いたくなるような大勢のグールの群れに囲まれている。

遠くからパンパンと銃声も響き始めて、本格的な戦闘が始まったことを知らせていた。


「中央突破するぞ!着いてきてくれ!!」


暦を戦闘とした単縦陣は迫り来るグールの一群を潜り抜けて走り始めた。

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