〜仲間の信頼〜
〜Side of Eren〜
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何時から目が覚めていたのか、それは私にもわからなかった。
ただぼんやりとした世界の中で何か温かいものに包まれている。という感覚を漠然と感じるのみで、夢でも見ている様な気分のままでいると、やがて柔らかな場所に寝かされたのがわかったので薄っすらと目を開けてみた。
するとコヨミが誰か白衣を着た女の人と話し合っているのが第一に映り、目を動かしていくと泣きじゃくったアイシャが私の横で伏せていて少し離れた所からウィリアムとスピエンが心配そうな顔で私を見ていた。
「ここ....何処?」
何気なく口を開けると全員が私に視線を向けた。
「エレン!大丈夫⁉︎」
真っ赤に目を張らせたアイシャが安心した顔をして一番に声をかけてくる。
「ごめんなさいエレン!私が...私が鈍臭かった所為で大怪我させて本当にごめんなさい」
瞳に涙をいっぱいに浮かべた彼女は私の胸に顔を埋めながら謝った。
私はボーッとしながらも、そう言えば確か...と記憶が蘇ってきた。
確かリグルツリーの攻撃が彼女に当たりそうだったから必死になって体当たりしたは良いが、自分が回避不能になり、咄嗟に剣を盾の代わりにしたものの全く役に立たずそのまま腹部を大きく抉り取られて木に叩きつけられたのだった。
しかしどういう訳なのか、致命傷を受けたはずの私は今も生きている上に、患部を手で摩ってみても包帯が巻かれているどころか傷のようなものにすら触れる事は無かった。
「ん....平気......ここは?」
取り敢えず自分は無事だと告げてから今いる場所を尋ねる。
しっかりとバネの利いたベットから救護室とも思わされるが、仄かに漂う油の香りと壁の向こう側から極僅かに聞こえる一定の間隔を刻んだ振動音から工場の様な場所も連想させられた。
「科学開発班の工廠内にある班長室さ」
私の問いかけに暦と話していた女の人が言った答えはやはり私の想像通りであった。
「初めましてエレン、私はエルメス・サンドリヨンっていって科学開発班の班長さ」
「お世話....かけました......」
私はベットに座ったままお辞儀をした。
エルメス班長はやや癖のある茶髪を手で弄びながらにっこりと笑っている。
貧血気味なのか普段はあまり感じたことのない目覚めの悪さに悩みつつも、覚めてきた私の頭にある疑問が浮かび上がった。
「ところで....どうして...科学開発班?....」
普通であれば意識を失うようなことがあれば訓練場の救護室か私の私室、もしくは衛生兵団の下へ運ばれるのものだろう。
だと言うのに何故私は医療とは縁も所縁も無さそうなこの場所へ運ばれたのだろうか?
その疑問にはやはりエルメス班長が答えた。
「そう、コヨミが君を抱えてきて診てもらえないか言ってね。まあ、私としてはここじゃなくて衛生兵団の方に行ってもらいたかったけど、どうもそっちだと不都合があるらしくってね」
彼女は笑いながら視線をコヨミへと流したので私もそれを追いかけると、彼は私の目を眺めている。
それからすまなそうな顔をすると、無理矢理作ったような笑顔を向けて口を開いた。
「取り敢えずは無事に目を覚まして良かったよ。我を忘れて無我夢中にやったことだったから、もし目を覚まさなかったらって心配していた」
「ところでだ」
突然スピエンが大きな声で会話に乱入する。
その目には戸惑いや困惑、恐れや警戒の色がはっきりと浮かんでいた。
「エレンも起きたことだ、いい加減に説明しろ!コヨミ、貴様は一体何なんだ⁉︎」
彼の問いかけにコヨミは黙って目を閉じていて、欠けてしまうのではないかというくらいきつく歯を食い縛っている。
スピエンはそれでも構わずに続けた。
「貴様の尋常じゃない強さは僕たちの戦闘経験の不足やエレンの力量で大分影には隠れていたが、己の血で他人の傷を...しかもあの様に内臓が露出する程の傷をいとも容易く治癒するなど人間のできる技では無い!僕に人とはどういうものか、貴族とはどうあるべきかと説いた貴様が人間ですらなかったのか⁉︎」
抑えていた感情が一気に噴き出しているのか、荒々しい口調で怒鳴り散らす。
そこにウィリアムが割り入ってきてスピエンに落ち着くようにと肩に手を置いた。
「スピエン、君の言いたいこともわからなくはないけど...それじゃあ一方的過ぎてコヨミの意見は全く聞いていないじゃないか。それにエレンだって病み上がりなんだ、大声は良くないよ」
「くっ...そうだな、すまない熱くなり過ぎた」
ウィリアムによって会話に水を差されて少しばかり冷静さを取り戻したのか、スピエンは未だに瞳の内に感情を孕ませているものの一端は引き下がった。
「コヨミ、僕たちは同じ104班の仲間だ。仲間ならお互いにお互いを信じ合いたいと思うのは当然の事だろう?だけど、君のその異様な能力は僕たちの間に大きな亀裂を生みかねないんだ。だからお願いだよ、全部じゃなくてもいい、話せる事だけ構わないから僕たちに教えて欲しいんだ!」
ウィリアムは真っ直ぐにコヨミを見て言い、頭を下げた。
コヨミはしばらく目と口をを閉じていたけれども、やがて薄っすらと目を開くとわたしを見る。
彼は何も言わなかったけれども、私もウィリアムたちと同じ意見なのか、と語りかけているということが直ぐにわかった。
私が黙ったまま小さく頷くと、彼はため息と共に様々な感情を吐き出すと天井を仰いだ。
「絶対に、他言無用だからな?」
コヨミがそう言うと私たちは黙って頷いて、彼が口を開くのをジッと待つ。
彼の顔は長い前髪で目元が隠れてしまい、詳しい表情を読み取る事はできなかったが何度か口がパクついた事から言う事言わぬ事をあれこれと考えているのだろう。
「・・・・・エルメス先輩、お願いがあります」
「何だい?」
「・・・が.....っても紗希を.......れないで...」
コヨミは私たちではなくエルメス班長の方に近づいて行って何やら耳打ちをした。
「わかったよ」
彼女はメガネをキラリとひからせて了承し、ドアノブに手をかけたが、ふと動きを止めて振り返った。
「コヨミ、ちょっとそこにある薬箱を取ってくれないかい?」
「?...はい」
彼女の指す薬箱は木製の小さな箱だったが、アイシャのすぐ横のあるので何故自分にと言った顔をしたコヨミは、箱を持った瞬間に一瞬だけ彼の表情に微かな動きを見せた。
「ありがとう。最近どうも体の調子が悪くってね、まだ30ちょっとなのにガタガタだよ」
しかし、何事もないかの様に薬箱を渡すとエルメス班長は笑いながら再びドアノブに手をかけた。
「あーっとそうそうコヨミ、必要なら、いつでも来てあげるからね」
何やら意味深な言葉を残すと彼女は手を振りながら部屋を出て行った。
「まあ、一度座ろう」
コヨミはそう言うと手頃な椅子を集めて私の腰掛けたベットの左右に2脚ずつ置くと皆んな黙って座った。
「まず初っ端から常識外な話になるんだが...」
ゆっくりと語り始めた彼の話は、私たちの想像の遥か上を行くものであったなど、今は知る由もなかった。
----------------------M.Gメモ----------------------
・エルメスの薬箱
木と皮で出来た極一般的な薬箱であるが、その大きさは丁度よく小型の拳銃が一丁収まるものである。
勿論中身が何なのかは入れた本人であるエルメスと手渡す為に持った暦以外には居ない。




