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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 初年度生編
44/87

〜実戦試験・終〜

リッパーリーフ、スチールウルフを倒した104班は最後の目標であるリグルツリーを探しに再び森の中へと戻って来ていた。


「コヨミはリグルツリーってモンスターは見たことあるのかい?」


周囲を警戒しながらウィリアムが何気なく尋ねると暦は首を横に振った。


「いや、実は俺も初めての相手だ。この試験の前に資料館に行った時に訓練場に生息するモンスターは全種類調べたんだが...見た目は根っこで自足歩行する中くらいの木で、幹が中央で二つに裂けて口になるって事ぐらいしか書いてなかったから情報も少ない。エレンは何か知ってるか?」


暦は前方を歩いているエレンに話を振ってみると、彼女は小さく頷いた。


「何度か....戦ったこと...ある.....こういう森の中だと.....かなり厄介....攻撃方法は.....噛り付いてくる.....だけだけど.....動いてないと.....普通の木と見分け辛いから.....嫌い...」

「うわ...ハズレ引いたかな」

「虫系のモンスターが相手じゃない分いい方だよ」


ガックリと肩を落としたアイシャに向かって暦が悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「あのうじゃうじゃと湧いてくる姿はなかなか精神に堪えるものが...」

「ちょっ...コ、コヨミ⁉︎わ、私虫は嫌いだからそういうのは本当に止めてって!」

「コヨミって偶に(たち)の悪い冗談を言うよね」

「まったくだ」

「同感...............あと朴念仁」

「こんな所で一致団結しなくても...で、エレンは何か言ったか?」


思わぬところで班員の意見が纏まってしまった事に呆れつつも、暦はエレンの微かな呟きをしっかりと聞いていた。


「別に...天然ジゴロは....一度痛い目を見た方が...いい」


素知らぬふりをして顔をそっぽ向けたエレンであったが、無表情に見える顔は僅かに焦りの色が見受けられた。


「・・・ちょっと待て」


笑い顔を一転させた暦が腕を上げて停止の合図を送る。


彼の耳は遠くに響く発砲音を捉えており、少し遅れてから漂う硝煙の香りも感知した。


「誰かが発砲してる、数は...三人だ。減音器を付けてるのか?えらく音が小さい」


一人でキョロキョロとする暦に班員たちは頭の上に疑問符を浮かべたが、今日一日の行動を介して彼が何かに反応している時は警戒した方がいいと学んだ為にサッと緊張が走った。


やがてエレンも硝煙の臭いを嗅ぎつけたらしく小さく鼻を動かした。


「・・・何か来る...気をつけて...」

「流れ弾と跳弾に気をつけて動け!」


全員が鞘を払い、腰を屈めて身を低くする。

すると、二人以外の班員たちも地響きと共に何かが近づいてくるのに気づいた。


草木を掻き分けて進む音と断続的な発砲音、そして物凄い勢いで地面を這う様な音がどんどんと近づいてくる。


「右から来るぞ!気をつけろ!!」


スピエン叫ぶと何かが来ると予想される進路から全員が飛び退いくと、それと殆ど同時に五つの人影が草むらから飛び出した。


「ひっ!」


その内の一人の青年が突然現れた暦たちに驚いて銃口を向けたが、近くにいたエレンが素早く飛び出して銃身を握り射線を空へとズラして落ち着くように言った。


「私たちは...人間....あなたたちの......味方」

「はあっはあっ、すまない...いや駄目だ、早く逃げろ!奴が来る!!」


思い掛け無い味方に一度は安堵の表情を見せた青年であったが、後ろから迫る音に再び顔を青くする。

しかし、木々を引き裂き地面を這う音は既に間近に迫って来ており、今から逃げても到底間に合わないということを一同は瞬時に悟った。


班の先頭に立った暦は音のする方に身体を向けてジッと森の中へ目を凝らした。


「・・・獲物だ...と喜びたいが、こんなに大きいのか⁉︎」


暦が焦りと驚きの混ざった表情を浮かべると同時に目の前の木が吹き飛ばされて宙を舞うとそれは姿を現した。


太い枝を腕のように振り回し、無数の根を足の様に動かして這い回る高さ8メートルはあろうかという巨木が大きな赤い口を開けて姿を見せたのだ。


「くっ...104班は奴の周りに円を描く様に囲むんだ、だが敵の攻撃範囲がまだ解らないから十分な間合いを取れ!!それとお前たちは応戦できるだけの弾薬があるなら遠距離からで構わないから奴の口の中に撃ち込め!」

「「「「了解」」」」

「わ、わかった。我々105班は後退して援護射撃に回るぞ!」


暦が素早く指示をとばし、振り回される枝を104班が可能な限り捌いている間に105班にも指示を出す。

だいぶ混乱していた様子であった105班の面々であったが、多少は息を吐けたのと味方が増えた事で冷静さを取り戻して迅速に射撃に適した場所まで後退して銃を構えた。


「奴は表面が恐ろしく硬い上に力も強い、剣でも対処は難しいぞ!」

「そのようだな」


スピエンが今し方切り込んだ所を憎々しげに睨みながら唸るように答える。


彼の切り込んだ部分は僅かに凹んで毛羽立った程度の損傷しか与えられておらず、到底まともなダメージを与えたとは思い辛い。

加えて彼の持つ剣は既に幾つかの刃こぼれを起こしており、このまま無理な使い方を続けていれば、いつか音を立てて折れてしまう未来は明白である。

しかもこれは彼だけの問題では無く、104班殆ど全員の問題であった。


唯一暦の刀だけは持ち前のしなやかさと鋭さというアドバンテージを遺憾なく発揮して、彼らよりは比較的優位に戦っていた。

とはいえ、暦であっても斬り落とせるのは精々中ぐらいまでの枝のみで、とても振り回される太い枝に斬り込むことは出来ないようである。


「コヨミ、こいつも植物だろう。だったらあの燃える針で何とかならないのかい?」


苦しそうな表情をしたウィリアムが救いを求める様な顔で暦に聞くが、彼は首を横に振った。


「あの針で燃やせるのは精々3メートル程度のモンスターまでだ。しかもあんなに幹が硬いんじゃそもそも刺さらない!」

「なら口の中は...」

「これだけ攻撃の激しい場所での精密投擲は流石に無理だ」


アイシャも一生懸命に応戦しながら意見を出してみるが、これも却下されてしまった。


「くぅっ...」


具体的な解決策が見つからないまま、遂にエレンの曲剣の一本が刃の中頃から真っ二つになって折れてしまい、彼女も苦しそうな呻きを小さく上げた。


105班も懸命に援護射撃をしてはいるが、何せ標的が激しく動いている為に中々狙った所に弾丸(たま)が命中しないようである。


「ひっ!」

「まずい!アイシャ、横に飛べ!」


大きく振りかぶった枝がアイシャに向かって振り下ろされる。

迫り来る死の気配に彼女は足がすくんでしまったのかスピエンに警告されても尚動けずにいた。


「あ...」


アイシャが当たると思った瞬間、彼女は何かに突き飛ばされてその場からかなり離れた場所まで吹っ飛んだ。


「いつつ...な、何が...」


飛ばされた際にぶつけた肩に手を添えつつさっきまで自分がいた場所に視線を向けると、枝を振り抜いたままの状態で固まるリグルツリーがいた。

彼女の目は自然にその先を追い駆けて行き、そしてベッタリと血に濡れた木の幹に辿り着くとその下に下がった。


「エ、エレン?」


木の下には蹲った様な体勢のままピクリとも動かないエレンが横たわって血だまりを作っていた。

彼女のすぐ側には咄嗟の防御に使ったらしい曲剣が砕け散っており、瞬間的に凄まじい力が彼女を襲ったという事が見て取れた。


「貴様ああああぁぁぁぁ!!」


憤怒に顔を歪めたスピエンが形振り構わずにリグルツリー目掛けて走り出した。


「待て!」


暦が素早くスピエンの襟首を掴んで後ろに放り投げる。

すると今さっきまで彼が立っていた場所に枝が振り下ろされて、何本かの細い枝は地面に深々と突き刺さっていた。


「くそっ...」


投げ飛ばされて頭に上った血が下がったのか少し冷静さを取り戻したスピエンがもしもあのまま自分が進んでいたらと身を震わせ、礼を言おうと暦の方を向いた瞬間身体が凍り付いたように止まってしまうと同時に経験した事の無いような悪寒に全身を支配された。


それは他の班員やリグルツリーさえも同様の状態であった。


これまでも暦が怒った時などはひどく冷たい目をすることがあったが、今は一切の温度を感じさせない様な絶対零度の視線をリグルツリーに向けていた。


(おご)れていた...」


暦は間近でなければ聞き取れない様な小さな声でそう呟いた。

それは誰か他人に言うのでは無く、自分自身に対しての軽蔑が籠っていたのである。


「自分はただの人間とは違う...他の班員より戦闘経験も豊富...何より俺が居る限りは死傷者を出さない...心の何処かでそう思っていた」


本能的に暦を撃退しようと枝を振り上げるリグルツリー。

しかし彼は未だに一人でぶつぶつと呟いたままで身じろぎ一つしていない。

それは枝が振り下ろされても同じであったが、今に当たるという時になって右腕が枝を待ち受ける様に上げられる。

誰もが暦ごと潰されると予想したが、実際は全員の予想を裏切るものとなった。


勢い良く振り下ろされたはずの太い枝は、まるで止まった木に手を添えるかのように静かに受け止められていたのだ。


「ああ、結局俺は...オレのままか」


横一線に銀色の閃光がきらめいたかと思うと、リグルツリーがピタリとその動きを止めた。


そして直ぐにズルズルと巨大な幹がずれ、やがて完全に斬り倒された。


「馬鹿な...リグルツリーを一刀両断しただと?それにあれは...」


全員の視線が暦に集まった。


彼は姿形こそは人のそれであったが、纏っている気配が人の域を軽々と超えている。

やけに静かになった森の中で、彼はアイシャに保護されていたエレンの側に近づくと静かに腰を下ろした。


「アイシャ、少し離れていてくれ」

「は....はい」


アイシャは暦から視線を外せないまま怯えたように後ずさる。


「エレン、すまなかったな。俺の所為だ」


血だまりの中で動かなくなっている彼女に暦は静かに告げると、その細い首筋に指を当てると弱々しい鼓動が確かに指を伝って感じられた。


「・・・まだ脈がある。よかった」


微かに微笑むと暦は刀で自分の毛首にスッと切れ込みを入れた。

動脈を斬ったのか、血が勢いよく溢れ出してエレンの患部である腹部に垂れていく。

すると、暦の血で濡れた場所にある傷が時間を巻き戻したかのようにみるみる塞がっていき、数秒の間に傷は完治してしまった。

エレンの顔色もだいぶ良くなっており、致命傷であった筈の傷は跡形も無く消え失せてしまったのだ。


「教官、目標のモンスターは全て倒しました。帰還してもよろしいですか?」

「あ....」


暦に声をかけられた教官たちも硬直したまま口を動かすことができず、ただ首を縦に振っただけであった。


「では、失礼させて頂きます」


彼は一言断りを入れると、ガラス細工に触るような丁寧な手つきでエレンを抱きかかえると、一人静かに姿をくらました。

------------------------M.Gメモ---------------------



リグルツリー


Lv.1700前後

HP 37000程度

全長 3〜10m

備考

無数にある根を足の様に動かして自足歩行する文字通りの蠢く木。

個体によって異なるが幹の左右に太い枝を伸ばしていてこれを振り回したり、幹の中央部にある巨大な口で噛み付いたりして攻撃してくる。

眠っていたり止まっていたりすると普通の樹木と何ら変わりが無い為に、森林地帯では最も警戒すべきモンスターである。

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