〜墓場岬〜
〜Side of Koyomi〜
シラギ先輩に連れられて来られたのはガーデンの最北端にある、蛍の多い岬だった。
青白い光を放つ蛍たち、暖かく穏やかな風、きらめく満天の星空、夜だというのに黒く染まらない青い海、そして無数に突き刺さる白い墓標。
それらが微妙なバランスで釣り合い、なんとも幻想的な雰囲気を生み出していた。
「綺麗だ....此処は一体?」
「俺たちの、ドラゴン討伐部隊の墓地だ」
シラギ先輩は俺の独り言に答えると、一人でフラフラとしながらある場所へと歩いていく。
追ってみるとその先には、古い数本の墓標と真新しい十数本の墓標が立っている。
先輩はそれらの墓標の前に立ち、儚げに空を見上げていた。
「お前たち、来るのが遅くなった上に花も無くてすまなかったな。本当は残りの二人も連れて来たかったんだが、そうもいかなくってな」
シラギ先輩は悲しげな声でそう呟くとほっそりと涙を流した。
俺はかけられる慰めの言葉も無く、ただいつでも先輩を支えられるように構えておく程度のことしかできなくて無力感に包まれる。
「俺の班から死人が出るのは...これで二十人目だ。まあ、こんなに一度に欠けたのは初めてだがな」
ポロリと漏らす言葉には力の無い、乾いた自虐的な笑いも混じっていた。
「ミズカミ、お前は...大切な人を失ったことはあるか?」
先輩はコートの袖で涙をを拭うと暗い声で聞いてきた。
「・・・失いかけたことはありますが、実際に失ったことはありません」
俺がそう答えるとシラギ先輩は、
「そうか、よかったな」
と一言呟いて俺の目を見た。
「なあミズカミ、友を失って...それが一番悲しく感じられるのはいつだと思う?」
「・・・今の様に、死者を弔う時でしょうか」
「そうじゃない」
俺がそう言うとシラギ先輩は静かに首を横に振り、遠く空を眺めて口を開く。
「帰って、皆で飯を食う時だ。俺たちは食堂の飯が好きでな、毎食皆で食いに行ってたんだ。そうすると大体誰がどの席に座るか決まってくるだろ?」
先輩は目頭を押さえると空を仰いだまま静かに目を閉じる。
「俺たち装備であるウイングはバッテリーを交換しながら全速力で飛べば一日に約300浬の往復ができる。そうすると朝、皆で飯を食って出撃して、夜帰ってきて飯を食うことができる。そうして...朝一緒に飯を食って...笑っていた奴が居なくなっているんだ。更にそいつがお調子者だったりすると、妙に静かな夕食を過ごす羽目になってな...そんな時が一番寂しいんだ」
不意にシラギ先輩の膝から力が抜けたのが見て取れた。
「危ない!」
俺は急いで先輩の肩を支えて倒れないようにする。
俺に支えられるシラギ先輩は肩を細かく震えさせ、見た目通りの少女らしい弱々しさに溢れてあの凛々しさと頼もしさは何処へか消え去っていた。
こうしてみると何故エルメス先輩がシラギ先輩に世話を焼くのか理解できる気がした。
例えるならばシラギ先輩は水晶で出来た剣なのだろう。
美しく輝く硬くて鋭い剣だが、一度欠けやひび割れが生じてしまうと一度に崩れ去ってしまうような...そんな脆さが感じられた。
この異常な脆さは過去に何か大きな心の傷を負ったことがあるのかもしれない。
それ故に仲間を失うことに対して過敏になっているのだろう。
「先輩、お体に障ります。もう戻りましょう」
「ああ、すまないな」
シラギ先輩は涙は流せど決して声を震わせることは無かった。
それはもしかすると先輩なりの意地なのかもしれない。
「ミズカミ、良ければ刀を貸してくれ」
「?...どうぞ」
俺が鞘ごと引き抜いた刀を先輩に渡すと、それを滑らかな手つきで抜き放ちその長く白い髪にそっと刃を添えた。
刃が髪の毛に僅かに触れるとプツップツッと音がして腰まであったものがほんの僅かに短くなる。
シラギ先輩は切取った髪の毛を空に舞わせると、髪は風に乗り、白き鋼の様に流れて行った。
「さらばだ友よ。次会う時は...俺が逝った時だ」
先輩はしばらくの間海を眺めてていたが、やがて刀を鞘に収めて俺の手に乗せた。
「髪を切るのに使って悪かったな。後で手入れ用具を取り寄せておこう」
「いえ、自前の物で大丈夫ですから気にしないでください」
「そうか...ならばいつか別の形で礼を返そう」
「本当に気にしないでください」
シラギ先輩は別の形でと妥協すると俺の肩に腕をかけた。
「すまないがエルメスの部屋まで頼む。此処からならば俺の部屋や病室よりも近い」
「はい、わかりました」
俺も先輩の背中に手を回すと、滑らない様にしっかりと掴んで帰った。
----------------------M.Gメモ----------------------
墓場岬
ガーデンで最も素晴らしい景色の岬にあるドラゴン討伐部隊から出た死者を弔うための場所。
殆どの遺体は戦闘中に紛失してしまうので、故人の遺品を棺に入れて埋めることが多い。
乱立する様に見える白い墓標は、実は場所ごとに誰の班かが別れている。
シラギ・スラティスタは自分の班員が死ぬたびに此処に訪れて、自戒と魂の慰めとして髪の毛を一房切取って風に流している。




