〜模擬戦〜
〜Side of Koyomi〜
俺は刀を、エレンは自分の曲剣(ルナエッジとか言うらしい)を班員に預けて練兵場の中心に立ち、それぞれ練習用の剣を構える。
「それでは両者準備はいいな?...始め!」
俺とエレン双方がお互いの間合いの外に立ち、武器を構えるとクレタ教官が模擬戦開始の合図をする。
「シッ」
短く息を吐き出すとエレンは前傾姿勢で素早くこちらに突っ込んでくる。
対して俺は剣の切っ先を僅かに床に押し当ててジッと彼女の動きに集中した。
「・・・はぁ!!」
エレンが十分に自分の間合いに入ったのを刹那に感じとると、慣れた動作で重心を動かさないように足を床に這わせてから一気に足を踏み出して体の回転と押し殺されていた力を一息に解き放って剣を振った。
鞘が無いので仕方無しにやった居合い切り擬きである。
ビュッと空気を切り裂く心地よい音がして、その刃がエレンの剣の腹に当たるか否かの瀬戸際に突然ゆらりと彼女が揺れると次の瞬間にはその姿が消え失せた。
「!」
本来ならば遠心力による剣の振り過ぎと体の前進を抑える為、どうしても一瞬だけ動きを止める必要がある。
だが今はその一瞬が命取りになるという事を半ば本能で察知した俺は敢えて勢いを殺さず、寧ろ利用して体を剣を振り抜いた先である右後ろまで一気に回頭した。
そうしてみると予感は的中、何時の間にか俺の背後に回っていたエレンが振り上げた刃が今まさに俺の剣を掬い上げようとしていたのだ。
「くっ!」
俺は仇となる筈だった遠心力を味方にして、一気に回頭しきると剣の物打ちの辺りに手を添える。
そこにエレンの凶刃が衝突し、眩い火花を散らすことになるが二点で支えられた剣が俺の手から離れることはなかった。
「む...速い...」
エレンが僅かに驚きの混じった顔でそう呟く。
彼女の驚きも尤もだろう。
居合い切りからその勢いを一切殺さずに回転したのだ。それに故意的な加速も加わったのだかた傍目から見れば瞬時に俺が180度回転したように見えるはずだ。
「そっちこそ、どうやって背後に回ったんだ?」
「背が低いからって...見くびらないで...」
その言葉で俺は身長の差を利用して死角に入り込んで背後を突いたのだと判断した。
エレンは素っ気なく呟いたがその目には対戦前には見られなかったギラギラとした闘志が浮き彫りになっている。
「今度は...ちゃんと...決めるっ!」
キッと見開くと狩人のような獰猛な視線が俺へと向けられる。
(さっきのはあくまで小手調べ...か。この娘、手を抜くとやられるな)
俺も、さてどうしたものかと頭の中で策を練りつつエレンと対峙する。
当然悠長に考える時間など与えてくれない彼女は息つく間も無いような攻撃をしかけてくる。
俺はそれを弾き、或いは受け流しながらよくエレンの動きを観察する。
(動きに無駄も無理も無い攻め方からして彼女の方も自分の弱点は把握している...この娘は単純に強いな)
打ち合いながら俺はエレンの動きの無駄の無さに感心した。
自分より力で勝る相手に持ち前の素早さと背の低さを利用して奇襲攻撃を仕掛ける。
そして失敗した後は動きを読まれないように二度と同じ技は使わない。
単純な攻撃方法だが長い実戦経験による練度故に手強かった。
だが、だからこそ戦っていて面白かった。
思えばこんなに模擬戦を楽しんだのは何時以来だろうと思い返してしまう程に...
打ち合っていて自然と笑みが零れる。
もっと、もっとと心の底から湧き上がるような好奇心と敵愾心とが混ざり合い、貪欲な闘争心を生み出していた。
「ははっ...」
思わず口から笑いが漏れた。
「?」
当然の俺の笑い声にエレンは首を傾げる。
「!」
だが彼女は直ぐに考える余裕を失う。
俺が全力で、しかも攻撃対象を彼女の持つ剣だけに移行したからだ。
俺は命のかかったモンスターとの戦いのように、全身全霊で一本の剣に切りかかる。
エレンは狭い戦闘区域をお互いに縦横無尽に駆け回って応戦する。
エレンの無駄の無い剣の動きに対抗するために俺はそれ以上の動きで彼女を追い詰める。
円運動を利用した刀独特の剣術は彼女には不慣れなのかやり難そうにしていた。
「くっ!」
剣を振り抜いた、エレンに焦りか疲労か一瞬の隙が生まれた。
「あっ!」
俺がそれを見逃さずに一歩踏み出ると、彼女も反射的に後ろに下がろうとしたが前に踏み出していた足を一気に後ろに引いた為に彼女は態勢を崩して後ろへと倒れる。
俺は倒れゆくエレンの背中に素早く手を回して支えてやりつつも刃を彼女の白く細い首筋にピタリと添えた。
「そこまでっ!」
教官の声が練兵場に響き渡り模擬戦の終了が告げられる。
「よっと」
シンと静まり返った中で俺はエレンを起こして自分の足で立てるようにした。
「お疲れ様。強いな、またやろう」
「........え?...あ、うん...」
何が起こったのかわからないのか空返事をするエレン。
「おい...最後に何があったんだ?」
「えっ...わ、わかんなかったな〜」
「相手を転ばせたぞ」
「最後の動きがキザったらしい...」
やがて観戦者たちがザワザワとしだす。
それは直ぐに賞賛の声となって練兵場中に響き渡った。
(柄にも無く派手に動いたのが仇となったか...)
少し熱くなりすぎた自分を恥ずかしく思いながら、いそいそと退場しようとするとエレンにジャケットの袖を引っ張られた。
「コヨミ...クレタ教官が...呼んでる」
錆び付いた蝶番の様に硬い動作で後ろを振り向くと教官が物が切れそうな程鋭い眼光をしながら無言で手招きしていた。
(あ...どうしよう、凄い行きたくない)
どうしようもない危機感に支配されて困り果てたが、待たせては余計面倒なことになりそうだと思い小走りに駆け寄った。
「お呼びでしょうか」
「・・・お前、アンクルブレイクなんてどこで覚えた?」
「へ?」
異常な威圧感からは程遠い様な質問に間の抜けた声が出てしまった。
「アンクルブレイクだ。最後に使っていただろう」
しばらく考えていると、なる程思い当たるものがあった。
「・・・・相手の重心を故意に前後へ動かせて転倒させたことでしょうか?」
「そうだ、東では呼び名が違うのか?」
「はい、幼少の頃に家で教えられた格闘術の一つで名称は特に無かったと思います」
「そうか」
一つ頷くと、続いてジロジロと俺を見た。
「堅い」
教官はニヤッと笑うと俺の背中を何度か叩いた。
「動きが堅ぇんだよ。そう緊張すんな」
「はい、すみませんでした」
「いい動きだったぞ。以上だ、行け」
「はっ、お褒めいただきありがとうございます」
俺はお辞儀をすると逃げる様に自分の班へと引き上げていった。
「お疲れ〜後半の動きは凄かったね。どうやったらあんな風に動けるの?」
「特に最後のエレンを転ばせたやつ。あれってどうやったんだい?」
「本当だよ!エレンがいきなり転んだんだもん。びっくりしたよ!」
帰ったら帰ったで質問責めであった。
「コヨミ」
そんな中でスピエンが一人真剣な顔で俺に問いかけた。
「貴様ら、いったい何位だった?」
「何位?」
「アリーナの順位だ」
「私は32位よ」
「僕は20位だったよ」
「...1位」
順にアイシャ、ウィリアム、エレンと自分の順位を述べていく。
「俺は一位だ」
「やっぱりか...っ」
スピエンは俺とエレンの順位を聞いて顔を歪める。
「・・・貴様らを目標にしてやろう」
「え?」
「別に...しなくていい」
「いいから黙ってされていろ!おい、次は僕の番なんだ。早く行くぞ!」
「え?ちょっと!引っ張らないでよ〜」
ギロッと俺たちを睨みつけると彼はアイシャを引っ張って模擬戦をしに出た。
「なあ、エレン。もしかしてスピエンって...」
「素直に...なれない...人?」
二人で首を傾げるが一向に答えは出なかった。
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スピエン・イルギス
Lv.735
装備品 プリンス オブ エドワード
備考
西部区中心に位置する王都セントウエスティアの上級貴族の長男。
幼少の頃より不自由無く育てられてきた為に我儘な性格ではあるが、その本質が傲慢なのか素直になれないだけなのかは永遠の謎。
趣味の乗馬は故郷でも名の知れる程上手い。
因みにアリーナの順位は15位。




