〜模擬戦〜
〜Side of Koyomi〜
「それでは顔合わせはここまでにする。班編成の際に読み上げた順番で整列しろ」
教官が呼びかけると、それまで散らばっていた同期生たちが足早に集合・整列した。
「これより班内の親睦を深める事も兼ねて力量を計る為に剣士で構成された偶数班は模擬戦を行うので隣の練兵場へ移動するから着いてこい。銃士の班はもうすぐに銃士兵団長が来る手はずになっているので少し待っていろ」
『はい!』
俺たちはゾロゾロと教官の後に着いて大講堂を後にし、すぐ隣の練兵場へと場所を移した。
練兵場は白樺の床板で敷き詰められた白く綺麗な場所で、入り口から見て右側に剣の練習用の丸太が十数本、左側には射撃場らしき部屋に通じる扉があった。
「全員壁よりに座れ。...よし、ではこれより本模擬戦について詳しく説明する」
教官は全員が座った事を確認すると、腰に吊るした剣を抜いた。
その剣はパッと見ただけでは真剣を変わりないが、よくよく見ると刃が潰してあることに気がつける。
「今回の模擬戦闘ではこの練習用の剣を使用してもらう。種類については奥の棚にあるものの中から各自で選ぶこと。さて肝心のルールだが、一対一で闘い上手く相手の剣の横っ腹を叩いて一早く剣を手放なさせるのだ。今回はアリーナの時に使った腕輪が無い為実際に相手に当てる事は禁止する。尚、皆も気づいていると思うが班員は五名しかいないので必然的に誰かが二回戦うことになる。これについては各班内で決めてもらうが、二回戦う者に関してはちょっとしたボーナスがでるぞ。それでは始めよう。では二班のーー」
「ねえねえ、誰が二回やる? 居ないなら私がやってみたいな!」
目をキラキラと輝かせたアイシャが俺たちに呼びかける。
「いいんじゃない?」
「私は...構わない」
「どうぞ」
「いや、僕も二度戦いたい」
大多数が賛成する中でスピエンも連戦を希望した。
「別にボーナスなどに興味は無いが、戦ってみたい人達が居てね」
「まあ、それなら別に構わないけど...」
アイシャは僅かに不満そうな色を顔に残していたが黙って引き下がった。
「さてスピエンが二回やるとして、誰と誰が戦うか組み合わせを決めようか」
ウィリアムが話を進めると、すかさずエレンが手を上げた。
「私は...コヨミと...戦いたい」
「わかった、程々に頼むよ」
「嫌...全力で...やる」
「ははっ...そ、そう。兎に角、異議はあるか?」
「僕も戦ってみたかったけど...今回はエレンに譲るよ」
「特になーし」
「好きにするといい」
涼しい顔している様で意外と熱の篭っているエレンに俺は思わず乾いた笑いをしてしまう。
ウィリアムは少し戦いたそうにしていたが清く譲って満場一致となる。
「では次だな、僕はウィリアムとアイシャ、君達と戦ってみたいんだが...異論はあるか?」
「僕と?...いい、けど」
「私も...平気だけど」
ウィリアムと戦いたいと言い出したスピエンにウィリアムやアイシャらが戸惑いを見せた。
「僕はこう見えても知識欲が高くてね。地方の貴族の剣の腕がどれほどか知っておきたいんだ」
スピエンの挑発的な言葉に二人はムッとした顔をするが何も言わない。
それに逢えて大勢の目の前での戦いを挑むのだから腕にも自信があるのだろう。
「さて、全員決まった事だし剣を選びに行こうか」
これ以上空気が悪くならないように俺は話題を変えた。
「そうね、どんなのがあるのかしら?...そう言えばコヨミは刀以外に直剣とかは使えるの?」
「んー...どうだろうな?使ったことが無いからよくわからないけど多分大丈夫だと思うよ」
「剣の世界を甘く見ないでほしいな」
「はぁ...」
俺は思わず心の中で「またお前か」と呟いてしまった。
「シンプルな作りの剣こそそう安々と使いこなせないものだ」
「そうか、忠告ありがとう」
嫌味臭くならない程度に深くは取り合わないようにしながら足を進める。
「ところで、さっきから貴族だ何だ言うがここでは俗世の身分の差は関係無い。皆ガーデンの同期生、あるのはそれだけだ」
「くっ貴様...」
「少しはウィリアムやアイシャを見習うんだな」
物凄い睨みを飛ばしてくるスピエンだが、今言ったとおりここでは俗世の権力は通用しない(らしい)。よって彼が睨もうがこちらになんら被害は無い。
「コヨミ...以外と...はっきり言う」
「まあ、人生は言いたいことを言わないと後悔するって学んだからな」
やっと練習用の剣が置いてある棚まで着くと各自が思い思いに得物を選び出す。
(やっぱり刀は無いか...曲剣を覗いてみるか)
「上から失礼するよ」
「どうぞ...」
ジッと剣を眺めているエレンの頭の上から棚を覗き込む。
するとちょうど良く片刃で少し反りが大きいが手頃な剣が見つかった。
棚の名札にはシミターと書いてある。
(ま、こんなところかな)
シミターで妥協して引き上げようとすると下からジャケットの袖をエレンに掴まれた。
「どうしーー」
「ん」
どうしたと言い終わるより先にエレンが一本の曲剣を俺に差し出した。
それ両刃ではあったがシミターよりも反りが浅く、より刀に近い形状のものだった。
「すごいな...よくこんな剣が。いいのか?」
「どうぞ...」
「わざわざありがとう、見つけてくれた恩に見合う闘いができるといいよ」
「期待...する」
自分用の剣も担いで立ち上がると俺の顔をジッと見た。
「曲剣を使う人...とっても少ない。だから...同じ武器使う人居て....嬉しい」
「そうか、なら余計頑張んないとな」
「ん」
目をキラキラとさせたままクルリと後ろを向いて走っていく。
気のせいだが嬉しそうに尻尾を振る犬と姿が被ってしまってしかたがない。
会ったばかりでよくわからないが、結構単純なところがあるのか可愛気がある。
・・・受け取る人次第では唯の戦闘狂と見なされかねないが。
「しかし」
本当にちょうどいい剣を探し当てたものだと感心しながら得物を眺める。
俺の刀よりは少し重いが、それでも気にならない程度であり長さに至ってはほぼ変わらない。
「まさかさっき渡したほんの少しの時間での記憶を頼りに探したのか?」
思わず口からそうこぼれてしまう。
(エレン...只者じゃ無いことは間違いないな...)
僅かな記憶を頼りに同等の性能の武器を選ぶ事は容易ではない。
それを簡単にやってのけてしまう事からも彼女の力量の強さを感じれる。
「コヨミ、一人でニヤついてどうしたの?」
「え?」
アイシャに肩を叩かれて俺はハッと我に返った。
「ニヤついてたか?」
「うん、楽しそうにニヤニヤしてたよ」
「うわ...それは、すまなかった」
「え?何で謝るの?」
冷静に考えると一人でニヤついているというのは非常に気持ちの悪い構図だ。
知ってか知らずかはわからないが、声をかけてくれたアイシャには感謝と謝罪をしたのだけれど、本人はどうして謝られたのか理解できずに首を傾げている。
「そうだ、そんな事より今の4班の試合見てた?」
「いや、見てなかったけど」
何やら興奮気味で語りだしたアイシャだが、まあ何と無く何にはしゃいでいるのかは想像がついた。
「今エルフ族のネリシャっていう娘が戦ったんだけどね、凄いんだよ!始まってほんの数秒で相手の剣を落としちゃったの!!しかもその動きがとっても滑らかで綺麗だったんだ〜、ときめいちゃったよ」
「それは凄いな」
「でしょでしょ!」
俺は感心したフリをしながら心の中ではため息を吐いた。
ただでさえ種族と美貌のせいで目立つというのにネリシャのことだから手加減は一切しなかったのだろう。
(今度話す時に程々にしろと言っとくか)
チラリと中央を見ると丁度脇に下がるネリシャと目が合った。
【どうでしたか?】
自慢気に念話を飛ばしてくる彼女に、俺がため息をこぼしてしまったのは仕方が無いと言えるだろう。
時は過ぎてようやく俺たち班の一つ手前まで順番がやってきた。
ここまで来るのにおよそ一時間半がかかっている。
後半組のメンバーはかなり暇そうにしているが教官だけは真剣に観戦していた。
(この模擬戦って絶対に教官の趣味だろ)
言っても仕方の無い愚痴を胸中で呟きながら俺は班員と共に模擬戦の準備に取り組む。
「そういえばどういう順番でやるんだい?」
スピエンが唐突にそう言い出すと俺たちは確かに決めていなかったなと手を止めた。
「僕は君らの戦いを先に見てみたい」
どういう訳か彼は俺とエレンの試合を勧めてくる。
「いいけど...どうしてそうも勧めるんだ?」
「簡単な事さ、さっきも言ったが僕は知識欲が高くてね。こっちの二人とは実際に戦うからいいとして、君らとは戦えない。だからせめて先にやらせて集中力のあるうちに観察しようと思っただけさ」
「観察するのはいいが、連戦だと堪えるんじゃないか?」
「僕を甘く見るな、寧ろその方が体が温まって効率が良い」
「そうか」
普通は一度休憩を挟むと思うんだが...まあ面倒な事に発展する前に好意として受け取るのが懸命か...
「そうか、ならありがたく先にやらせてもらうよ。エレンはそれでもいいか?」
「平気」
「じゃあ決まりだ」
「次、104班の番だ。先鋒は中央に出ろ」
話し合いが終わると丁度よく教官からのお声もかかった。
「じゃあ、よろしく頼むぞ。エレン」
「受けて立つ」
俺が突き出した拳に応えてエレンもコツンと拳を打ち付ける。
(さて、彼女の力量はどれ程か)
俺も静かに心を燃え上がらせていった。
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エレン・ケラー
Lv.864
装備品 ルナエッジ(曲剣)
備考
目元まで伸ばしたバニラ色の髪の毛とその隙間から覗くアイスブルーの瞳が特徴的な小柄な女の子。
背の低さを利用した対人戦闘が得意で、素早く屈まれると相手は消えたかの様に錯覚する。
曲剣が好きらしく、他に予備として持っている武器も全て曲剣である。
その一環か、暦の刀にも関心を持っている様子で暇さえあれば見ている。




