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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 初年度生編
26/87

〜ガーデン寮〜

「ところで、コヨミ君には採血を頼んでも良いかい?」

「俺のですか?」

「勿論」


グレイが部屋から去ると、エルメスがニコニコと笑いながら採血用の注射器を棚から取り出してくる。


「良いですけど...どうして血を?」

「君さえ良ければ肉片や手足でも代用は効くよ?」

「わかりました、血ですね」

「エルメスさん、お兄ちゃんに手を出したら刺しますよ?」


暦が不審がって身を引くと、エルメスはならばと言って無骨な肉切り(はさみ)と骨切り(のこ)を取り出したので彼も慌てて採血を希望した。


「じゃあ失礼して」


エルメスはジト目で睨む紗季をスルーして注射器の針を暦の腕に射し込む。

スルーした、というよりも獲物(こよみ)に夢中で気がつかなかったと言った方が正しいのかもしれないが。


ネリシャは暦以上に引いていて声も出ない様子だった。


「・・・ん、これで良し...お疲れ様。これでも食べて回復しておいてね」


注射器に半分ほど血を採ると静かに針が抜かれる。


エルメスは軽く内出血している暦の腕を揉みながらチョコレートを渡した。


「ありがとうございます」

「いやいや、協力してもらったのは私の方だからね。この位じゃお礼にもならないよ。さて、今日はこの位ので良いかな...コヨミ君はまた明日にでもここに来てね」

「あの、今の採血にはどの様な意味があったのですか?」

「そうだね、強いて言えば個人的な興味ってとこかな?」

「興味って...」

「シラギさんの様な事を言いますね」


エルメスの回答にネリシャと紗季が呆れかえる。


「へー、シラギも彼を...ね。ふーん」


目を細めたエルメスはジッと暦を見つめて独り言をブツブツと呟く。


「まあ、シラギも結構脳筋だしそっちかな...あ」


シンと静まり返った空気に気がついたエルメスは慌ててやたらめったらに腕を振る。

それは一見すると照れにも見えるが別のそうでない見方もできた。


「ごめんごめん、そうだ!ここからなら遠くないしガーデン寮まで送るよ」

「ありがとうございます」

「部屋割りはわかるかい?」


エルメスが問いかけるとネリシャが手を挙げた。


「それならば先ほどサキさんの装備を受け取るついでに聞いてきました」

「流石ネリシャちゃん、仕事が早い。何処だか教えてくれるかい?」

「はい、コヨミさんとサキさんがM-10と11の隣合わせで私のN-33です」

「わかった、それじゃあ案内するね」




〜side of Koyomi〜


「ここがコヨミ君、隣がサキちゃんの部屋だね」


エルメスさんは近いと言っていたが、結構あれから三十分は歩かされた。


「わぁぁぁ!!男女混合なんですね!」

「うちは名前で振り分けられるからね。上層部もそういうのに五月蝿いのが居ないし」


目をキラキラとさせた紗季が興奮気味な歓声を上げる。

紗季が何を考えているかは大凡見当が付く。


「さて、次はネリシャちゃんの番だ。また少し歩くよ」

「はい、わかりました。ではコヨミさん、サキさん、また明日お会いしましょうね」

「ああ、また明日」

「ん、じゃあね」


離れていくネリシャに手を振って見送った後俺たちはそれぞれの部屋へと入った。


「予想よりもかなり広いな」


ホテルのスイートルーム並みの広さの空間に居間や寝室、風呂場(シャワールームというのが正しい)など寝泊まりするだけには十分な生活空間に加えて、簡易的な装備の手入れ用具などといったアタッチメントも置かれている。


「建て付けもしっかりしている...これならちょっとした戦闘が起こっても耐えられそうだな」


俺は壁や窓を軽く叩いてその強度や材質を調べる。

流石に家具類まで丈夫な訳ではなかったが、壁紙の下に佇む厚手の鋼板の壁、3cmはある防弾ガラス製の窓、どれも一般の施設ではあり得ない素材だ。


「おまけに耐火性の壁紙に扉...まるでシェルターのような部屋だ」


荷物置きに装備の入ったカバンを置くと自分の武装も腰に帯びた刀以外解除する。

刀は今日のアリーナで使ったために薄っすらと血が付着していたのだ。

俺は携帯していた愛用の手入れ道具を使って血サビの付かないように血を拭き取り、油皮で仕上げる。


簡単だが特に刃こぼれもしていないのでこれで十分だ。(もっとも刃が欠けたら俺個人ではどうしようもないが)


手入れの終わった刀を他の武器一緒にして何気無く愛用の武器たちをゾロリとならべてみる。

長年の使用に細かな痛みが所々で見受けられた。


(もう四年近く使い続けているものな、やはり手入れをしていてもガタがくるのは避けられないか...)


四年以上に渡って共に戦場を駆け抜け、生死を共にして来た武器たち。

その歳月の中で破損又は消費して、今手元に無い武器も少なくなかった。


「さて、まずは布団から取り掛かるか」


俺は顔を叩いて気合を入れ直すとまずは布団を引く事から取り掛かった。

何故最初に布団からかと問われれば理由は至極簡単で、ただ単に疲れたら直ぐに横になりたかったからだ。

他に理由を上げれば、その他は明日しても問題無いが寝床だけは今日から必要だからだ。


「って...意気込んだけどもう出来てるのか」


既に寝具は完成しており、シーツは皺一つなくピシッと整えられていた。


俺は今までに寮というものに入ったことは無かったが、話に聞く分にはベッドの上に三つ折りにされた寝具たち...というのがが定番な形だろう。


(まあ流石にこの部屋でそれはないか)


といえど、これで急いでやる必要のある事も無くなってしまったのである。


俺はボロボロになった服を脱ぐとゆったりとした浴衣に着替えてベッドに仰向けになって倒れた。


(・・・ミーラスブリザからここまで来る間に、色々とありすぎたな...)


そのまま呆然とここまでの回想をしてみる。


轟先輩と出会い、人で無くなり、美しい港町を見て、シラギ先輩と喧嘩して気に入られ、ネリシャに出会って、初めて煙突から黒煙を上げる鋼鉄製の戦艦を見て、クラーケンに襲われて、シラギ班の人たちに出会って、ディアナ艦長と出会って、磯姫と戦って、エルメスさんのお世話になって、今ここに居る。


事に例の列車内での襲撃以降は本当に色々な出来事が起こったものだと今更ながら思った。


「この数日間で...ものの見方も随分と変わったものな」


感性が人間から妖怪へ、徐々にではあるが移りつつある自分の頭が少し恐ろしく感じられてしまう。


(恐怖がある内は...まだ人間だな。これが、どうして怯えていたんだと思い始めたら俺は終わりだ)


そう自分の中で決めておく。


俺の頭は妖怪へ変化(へんげ)する度に大きく傾いた。

無意味に変化していれば早々に俺は人間性を失ってしまうことになるのだろう。


とは言っても、感情の起伏なんてそう簡単に抑えられるものでも無いし。精神安定剤を使えば別の意味で人間性が失われる。

ネリシャがそう言っていたので服用にも気を配らないとだ。


「・・・流石に疲れたか」


こうして寝転がっていると自然に瞼が重くなっていくのが感じられた。


(妖怪だなんだと考えるのはまた今度にしよう)


疲れた身体に柔らかいベッドは効果的面であっという間に俺を深い眠りへと(いざな)った。


「オレを押し殺すなど、お前には不可能だな」


俺はオレがそんな事を呟いたなど知らずに、海に沈むかの様に眠りについた。

-------------------M.Gメモ--------------------



暦の武器


水上 暦は刀だけでなく様々な武器を隠し持っている。

今回はその中の幾つかを記載する。


・ダガー

暦が愛用する短剣で、丈夫で切れ味が良いのが取り柄な一般的なダガー。


・爆雷針

遅延式や振動爆発型など様々な種類がある使い捨ての武器、レッドオーガ討伐の際に使ったのもこの一種。


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