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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 初年度生編
25/87

〜グレイ・フォックス〜

ガーデンにおいての入学式は一般的な学校のそれとは異なっており、高等兵団長と兵団管理委員会会長の挨拶があるのみであった。

これは入学といってもその後一年間に渡って行われる様々な訓練に耐え抜いた者のみが正式に所属されるからである。


「ーーーこれからは諸君らもガーデン生としての誇りをもって日々の勤めに励んでほしい」


灰色の目と髪の男、グレイ・フォックスがそう言って式は終了すると、後列中盤にいた暦は壇上から降りるグレイと一瞬だけ目が合ったような気がした。


気のせいかなと思いながら脇に居る紗季とネリシャを横目で見てみると、彼女らもいぶかしむ様な目でグレイを見ている。


(この大勢の中から俺を...いや、俺たちを?それにあの男からは何か嫌な気配が...)


極々わずかな感覚であり、気を抜けば見失ってしまいそうなくらいな妖気がグレイから放たれていた。

それも自然に小さいのではなく、不自然に押し殺した様な勘に触る感覚が妙に気にかかったのだ。


「ネリシャ、気づいた?」

「はい」

「紗季は何か気づかなかった?」

「....変な感じがした」


お互いに最小限の言葉数でやりとりしながら目でグレイが消えた方を見続ける。


「あの男は...?」


ぞろぞろと引き上げて行く他のガーデン生たちの流れに従ってホールを去りながら頭を動かせた。


(小さかったがあれは間違いなく妖気だった。それも磯姫と似た妖怪のの放つそれだ。奴は何者なんだ?)


「あ!いたいたー。おーいコヨミ君!」


推敲に更けていた暦にエルメスが遠くから声をかけた。


はっと我に返る暦であったが、白衣姿の女性が自分の名前を大声で呼び、しかも手まで振りながら笑顔で近寄って来るので他人のフリをしたくなる衝動に駆られた。


(シラギ先輩がやたらと変態やら変人やら言う訳がわかった気がする...)


「はい...何でしょうか....」


エルメスはどんよりとした空気を身に纏う暦の腕を本人の気持ちもいざ知らずに組んだ。


「さっきは時間が無くて質問ができなかったからね、色々と聞かせてほしい事があるんだ。でも流石にこの中から君らを探すのは大変だね、いやー探しちゃったよ。はっはっは」


彼女は高らかに笑ながら暦を自分の部屋へと連行していく。


「ちょっとエルメスさん、お兄ちゃんと腕を組むのやめて貰エマセンカ?」

「え?サキさん?問題はそこですか?」


ネリシャにとっては予想外だったらしく即座にツッコミを入れる。

そんな彼女の言葉など届いていない紗季の体は不自然に震え出し、呼吸も不安定になる。


「お兄ちゃんが私以外の...他の女と触れ合うなんてイケナイコトだよ?離れて...離れろ!!」

「紗季、落ち着いて」


危うく小太刀の柄に手を伸ばしかけたところでエルメスの手から逃れた暦が割り込む。


「だって...お兄ちゃんがその女にけ、穢されちゃうかもしれないんだよ?」

「大丈夫だよ。ほら、深呼吸して」


暦は優しく紗季の頭を抱きかかえると、その小さな背中を摩った。


すると次第に荒く乱れた紗季の呼吸が整い始める。


「落ち着いた?」

「うん......はぅ」


紗季はうっとりとした表情で暦の胸に顔をうずめたまま頷いた。


「エルメスさん...その、紗季は若干病んでるのであんまり刺激しないでやって下さい」

「私はそれを若干と言い切れる君の方が驚きだよ」

「紗季は寂しがり屋なだけですよ」

「過保護だねぇ....まさかとは思うけど...一線は超えていないだろうね?」

「はう!」


エルメスの爆弾発言に紗季が顔を真っ赤にして頭から湯気を上げる。


「そそそ、そんな事しし、してないよ!?で、でも...」


紗季は顔を赤くしたまま暦を見上げた。


「も、もしーー」

「紗季、それ以上の発言は御法度だ」


暦は小さく震わせながら開いた紗季の口を瞬時に手で抑えて警告する。


「いやコヨミ君、直接的な発言や行動さえ慎めば以外と抜け道はあるよ?」

「エルメスは何の話してるんですか...」

「え?ガーデンの風紀規定についてだけど?」

「そうですか...?、ネリシャ?」


ふと暦は脇の方で一人静かに顔を赤くして俯むくネリシャに気づく。

彼が一声呼びかけると恥ずかしそうに目を泳がせながら顔を上げた。


「わ、私はその手の話題は疎いので...」

「ごめんな、確かに歩きながらする会話でもかったか」

「いえ...」


ネリシャは短く返事をするとまた顔を俯けた。


「紗季もエルメスさんも、少し自重して下さい。ネリシャが嫌がってますよ」

「ネリシャちゃんのその初々しい顔も良いねぇ...後で写真撮ってもいいかい?」

「そ、その...」


ますます顔が赤くなるのが彼女の緑髪越しからでもありありとわかる。


「エルメスさん」

「・・・わかったよコヨミ君、だからそんな恐い顔しないでって」


暦の笑顔の中に潜む怒りに気がついたエルメスは空笑いしながら手を横に振る。


「さあ、もう直ぐに私の寝ぐらにも着くしこの話はこの辺で終わりにしよう、ね」


暦たちは若干早足になるエルメスの後を追って幾つかの角を曲がると見覚えのある扉まで辿り着いた。


「あれ?鍵が空いてる。閉め忘れたっけ?」


カードキーを持ったエルメスは不思議そうに首を傾げた。


「コヨミさん、これは...」

「ああ、居るな」


暦とネリシャの会話を何気無く聞いて念の為と慎重になって扉を開く彼女だったが、少し開くと直ぐに肩の力を抜いた。


「やあ、遅かったじゃないかエルメス君。君以外に私の酒に付き合ってくれる人が居ないのは知っているだろう?」


長く垂れた灰色の髪の毛の隙間から細い笑みを覗かせた三十代中盤程の男性。

グレイ・フォックスがウイスキーのボトルを片手に持って待機していた。


「高等兵団長殿...またですか?いい加減にしないと体を壊しますよ。それに今日は私の客人が居るんですが」

「いや、私も彼らに用事があってね」


グレイは細めた目を開いてまず暦を見た。


「さっきぶりになるね、知っているとは思うが高等兵団長のグレイ・フォックスだ。よろしく」

「自分は水上 暦と申します。これからは長くお世話になります」


どちらと無く差し出した手を取って二人は握手をした。


「それで...自分にどのようなご用件でしょうか?」

「その前に」


グレイは堅い口調で話す暦を手で制する。


「ここは個人的な付き合いの場だ。もっと自然な口調にしてくれたまえ」

「・・・わかりました。ではグレイさん、何の用でしょうか?」

「シラギを助けてくれたそうじゃないか。だから君には一先ず礼を言たくてね、シラギは私にとって特に大切な部下だ。その命を救ってくれてありがとう。名前や太刀筋からして君は大和の民だね?」

「はいそうです。...と言っても祖国は産まれる何十年も前に沈んでしまったので血筋だけですが」

「純血かね?」

「はい、そこに居る妹の紗季と共に純血です」

「ほう...まだ残っていたのか、さっき名は水上だと言ったね」

「はい」


グレイはコートの内ポケットからメモ帳とペンを取り出すとサラサラと筆を滑らせる。

そして短く何かを書くとそれを暦に見せた。


「君のミズカミという字はこの水上であっているかね?」

「はい、間違いありません」


暦が頷くとグレイは急に親父くさい笑みを浮かべて肩を叩いた。


「懐かしい気配だと思えばやはり姫の御子息か」

「ひ、姫?」

「こうすればわかるかな?」


疑問符を浮かべて戸惑う暦を前に、グレイが静かに息を吐くと灰色の尾と耳がにゅっと生えた。


「この姿なら納得できるんじゃないかな?」


ゆらゆらと揺れる狐の尻尾とピンと張った狐耳はまぎれも無く暦のそれと同じだった。

ただ唯一の違いは尾の本数が九ではなく三本なことだった。


「私は妖狐としての位はそこまで高くないが一応は元姫様の家臣だった」


エルメス以外の全員が驚きを隠せない状況で固まっており、彼女が自分で淹れたお茶を飲む小さな音がやたらと大きく感じられた。


「高等兵団長、身の元を新入生にバラしちゃっていいんですか?」

「構わんさ、どうせ彼には気づかれていただろうからね」

「えっと...エルメスさんは知ってたんですか?その...高等兵団長の正体を」

「勿論、ていうか私しか知ってる人はいないんじゃないかな?あのシラギだって知らないだろうし」

「だから君が狐の状態で登場した際は情報隠蔽の為に早急に向かってくれたんだろう。違うかい?」

「まあ...一割程は」

「残りの九割はシラギかね?」

「はい...」


グレイは苦笑いするエルメスにため息を吐きながら呆れた様に首を横に振る。


「まったく、最近の君はどうも気が抜けているな。昔の堅物さはどうした?」

「恋の逃走劇の末に置いてきました」

「取りに行きなさい」

「シラギをくれたら良いですよ」

「はあ...頭痛がしてきてしまったぞ」

「それは大変ですね!ネギルあたりでも呼びましょうか?」

「いくら彼でも君の頭は治せんだろうな」


やれやれと首を振りながら尻尾と耳をしまうと、視線を暦たちに戻した。


「すまないね、彼女と話しているとどうも脱線しがちになるんだよ」


シラギと同じ様な事を言いながら笑うと次に紗季を見た。


「君の名は?」

「水上 紗季です...」

「ふむ、姫に似て可愛らしいお嬢さんだ。君は...狐の力は継いでいないみたいだね、妖気は感じれるのかな?」

「できます」


紗季は警戒心の篭った声で短く答えた。

それを見てグレイは優し気な顔で話しかける。


「私があからさまに怪しいのはわかるが、もう少し肩の力を抜いたらどうかね?」

「あなたは...本当に大婆様を知っているの?」

「勿論、あの優しかった姫のお姿は今も心に残っている」

「ふーん」

「紗季、疑う気持ちはわからなくないけどそれは少し失礼な態度だよ」

「お兄ちゃんはどうして信じられるの?大婆様の生きていた時代はもう千年も昔の事なんだよ」

「この身体になってみるとあの尻尾と耳の存在は無視できないんだ。昔から妖怪は万年を生きるものだと教えられただろう」


暦は優しく紗季の頭を撫でながら諭すようにそう言った。


「うん...そうだけど...大婆様の家臣だなんて言われても実感ないよ」


撫でられながらも紗季は不審に思居続けているらしく、暦にしがみつきながらジッとグレイを睨んだ。


「まあ、信じる信じないは君らの自由だ。さてと、君は見たところエルフ族のようだね」


グレイは視線をネリシャへと移すと珍しそうに言った。


「はい私は森林のエルフ、ネリシャルド=スラートス=イミル=ハラージド=ミラディナーシル・フラント=サハール=ウンズィーク=ウォルラント=シールフと申します」


「ふむ、その長い名前を聞くのは久方ぶりだ。しかし君たちの種族も遂に人間と関わりを持ち始めたか...あの石頭たちがなぁ...」


グレイは懐かしそうに頷く。


「君らなら初年度の訓練は難なく熟せるだろう。一年でも早く我が高等兵団来てもらいたいものだな....さてと」


いつの間にか空になっていたウイスキーのボトルを持つと扉の方へと向かった。


「すまなかったねエルメス君。私の用事は終わりだから帰らせてもらうよ。君たちも話ができて良かった、また会おう」


グレイは静かに扉を閉めるとそのまま自室へと足を進めて行った。



「・・・今期は、面白い子達が来たものだな」


一人廊下を歩くグレイがその様なことを呟いた事を知るものは誰も居ない。

---------------------M.Gメモ---------------------



(第74代)高等兵団長 グレイ・フォックス

Lv.49130

HP 638690

装備品 エクスカリバー

備考

長い灰色の髪と目が特徴的な男性。

見た目は三十路そこそこであるが実年齢は千二百歳。

暦と同じ様に狐の尻尾と耳を持つが尾の本数は三本で、妖狐としての位は低いらしい。

妖怪としての正式名称は灰狐。



大和の民


東国の民や邪馬台国の民、東方の島国の民などと同意義で、地方や人によって呼び方が異なっている。

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