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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 初年度生編
16/87

〜洋上血みどろ遊戯〜

コメント、感想をお待ちしています。

数本の巨大な水柱が円形に、派手な音を立てて海面に上がった。


暦はその水柱を突っ切りながら、その中央で攻撃を放つ磯姫に接近する。


(次は正面から四十、上から五十以上か。濃い弾幕だ)


暦は瞬時に亜音速で飛来する水弾の数を見切る。

先の海面を見ればわかる様にその水弾は、一発一発が間違い無く致命傷を負わせ()るだけの威力を秘めていることは簡単に察せられた。


雨の様に降り注ぐ弾幕の中をどれも紙一重で躱しながら、彼は背負ってきた刀を抜き放ち、左中段に構えると刃を海面と水平に合わせる。


「はああああぁぁぁああ!!」


怒声と共に刀が振り抜かれて、剣風が海面を横に30m程斬り裂いた。


だが、肝心の磯姫に手傷は負わせられていない。


にっこりと微笑む彼女を暦は一睨みし、海面を強く蹴って彼女との距離を開けると、再び降り注ぐ弾幕を躱した。


「ふふ、速いわね。すばしっこいのはあの女狐とそっくり....でも太刀筋は大納言様と瓜二つだわ。まるで千年前みたいだわ」


懐かしそうに遠くを見つめる彼女の姿は、絵に描けば名作と言われそうな程に可憐であるのだが、その手に握られた、細身で青白く光った一口の刀が不気味な威圧感を放っている。


「うーみは暗いーな、おーきーな〜...あなたはこの海の暗闇と冷たさに耐えられるのかしらね?」


微笑みながら暦に近づく彼女。

弾幕の雨が降り止んだ海上は不気味な静けさに支配され、ただ磯姫が海面を歩く音だけが嫌に響いた。


「....使えるのか」

「勿論よ」


それまでは妖術のみで攻撃されていた暦は、まさか磯姫も刀を使うとは思っていなかったので構え方から攻めの手を読み取ろうとしたが、構えと呼べるようなものは一切取らないで近づいてくる彼女にそれは通用しなかった。


「だって、剣術の達人だった大納言様(あなたのそせん)を斬ったのは私だもの」

「なに...」


予期せずして出会った先祖の仇に暦は表情を固くした。


「・・・そうか...突然で反応に困るな...」

「あら?急に口ぶりが変わったわね」

「そうか?」

「それに...その尻尾」


磯姫が向けた視線の先にある暦の尻尾はいつの間にか七本に増えている。


「なんかさぁ、吹っ切れたみたいでスカッとした気分なんだよ。それに、オレはさっきまであんたの放つ妖気が気持ち悪かったからってだけで我ながら理不尽な理由で突っかかってたんだが、今は明確な目的ができたからどこか気が楽になったのかもな」

「あらあら、あたしもそんな理由で刀を抜くような相手は初めてだわ」


流石の磯姫も暦に苦笑した。


「じゃあちょっとだけ本気で戦おうかしら?」

「!」


相変わらず突拍子もないことを言い出して話の繋がらない彼女であったが、チラリと感じた殺気に暦は大きく後ろへ下がった。


しかし、彼の足が海面に触れる一刹那前には既に磯姫の間合いに詰められていた。


「ガッ!!」


まず、冷たい刃が体を抜ける感触が走り、直後に燃えるような熱と痛みが左の肩から右の腰まで駆け抜けた。


噴水のように血が噴き出して、暦は一瞬だけくらりと目眩に襲われたが次の瞬間には両方共消え去っており、HPもわずかに減少したに過ぎなかった。


すかさず暦も追い討ちを掛けて磯姫の細い腹部に刀を突き刺して真上に斬り上げた。


「っ!」


彼女の鮮血を浴びた暦は、彼女の容姿と辛そうな顔に一瞬だけ罪悪感に囚われた。

そこを突いてまた磯姫の反撃に遭う。といった流れをしばらく続けていたが、やがてどちらからともなく互いの距離を開けた。


どちらも相当の手傷を負った筈だが、受けた傷は一瞬で塞がる為、傷跡は一つも無く。

衣服がボロボロに裂かれたのみのように見えた。


「面白いな、この姿で殺り会うのは初めてだから傷が一瞬で消えるなんて気づかなかった」


再び間合いを詰めて斬りかかりながら暦は楽しそうに言う。


「どういうことかしら?」


それを刀で受け流した磯姫も反撃しながら尋ねた。


「オレはまだ妖怪になって日が浅くってな。人の頃じゃこんな戦い方はできなかった」

「元から妖怪じゃなかったのね。先祖返りの例かしら?でもそこまで血が薄まるのも珍しいわね。いいわ、教えてあげる。妖怪にとって重要なのは肉体や魂じゃなくて本質(ありかた)なの。それさえ失わなければあたし達は半永久的に戦えるわ。まあ、勿論痛みはあるけれどもね。」

「ウグッ!」


「痛み」のところを強調するように、暦は腹を突き刺しされて、思わず呻き声を上げる。


「・・・・好き勝手...やってくれるなよ....」


暦は磯姫の背中に手を回して抱きしめると、その背中から自分ごと貫いた。


「痛っ!」

「くぁ...!」


刃が二人の心臓を通り抜けると、自分のHPが大きく減少した事と耐え難いような息苦しさに驚愕するが、それは磯姫も同じだった。


「はっ...はっ...あ、あなたは...どうしてこう奇想天外な行動を...するのかしら?普通は...あそこで突き刺したり...しないでしょう?」


しばらくの間抱き合った態勢のまま息を整えていたが、磯姫が震えた声でそう言った。


「殺し合いには規則も常識も存在し無いカハッ」


苦しさに耐えて答える暦だったが、大きな血の塊を吐き出して咳き込んだ。


「・・・傷は消えても、血は残るのか...妖怪の体は面白い」


そう言いつつも、彼は治りの遅い傷を不思議に思った。


「なあ濡れ女。この傷の回復の遅さは...?」

「仕方ないわよ。妖怪の回復力は血が担っているのに、その循環器の心臓をあなたが貫いちゃうんですもの。助かるかしらね、あたしたち」


ふーっとため息を吐く彼女はそのまま頭を暦の胸に預けた。


「やめよ、やめにしましょう。遊びで死んだりしたら詰まらないわ」

「・・・あんたは本当に何もかもが唐突だな」

「言いがかりで斬りかかってきたあなたには言われたく無いわ」

「・・・・」


痛いところを突かれた暦は黙ってそっぽを向いた。


(妖怪も...全部が全部悪者って訳じゃなさそうだな。次からは自重を覚えよう)


頭の冷えてきた暦はボンヤリとそんなことを考えていたが、不意にシラギたちの事を思い出した。


「しまった、シラギ先輩たちが!」


暦は夢中になっていて忘れていたが、そこではまさに地獄の様な戦闘が行われていた。





〜Side of Shiragi〜


幾本ものうなる触手相手に俺たちは戦った。


既に切り落とした触手の数は二十を超え、手持ちの武器と荒い使用による飛行ユニットのバッテリーに限界が近づいていた。


「うああああぁぁぁ・・・・.....」


触手に打ち付けられ、ユニットにダメージを負ったアルフォンスがウィングから炎と煙を吹きながら海面へと落ちていった。


粒ぞろいの猛者たちが集うシラギ班と呼ばれた討伐一番隊が、俺の仲間が、始め居た九人の内既に六人が死んでいる。


今までドラゴン相手では一度も部下を失ったことのなかった俺は、自尊心を傷つけられたような気持ちになると同時にあの明るい奴らがもう居ないという哀しみが心を締め付けた。


「シンシア!クラース!ジーン!お前たちはガーデンの方へ全速で飛べ。それで向かって来ているであろう救援の艦隊と合流してなるべく早く辿り着けるように先導して来てくれ」

「いくら隊長でもクラーケン相手に一人は無理です!俺も残りますよ!」


右に10m程離れた空中でクラースがそう叫んだ。


「ダメだ!お前たちでは邪魔になる!だから早く応援を連れて来てくれ」


シラギが言い終わると同時に海中から二本の触手が飛び出し、シンシアとジーンへ襲いかかる。


体を大きく傾けて、一気に速力を増したシラギはすかさず二人の間に割り込んで切り倒した。


「早く行け、命令だ!」

「くっ...了解!」

「「了解!」」


三人は涙目で身を翻すと、全速でガーデンの方へと飛んでいった。


「・・・すまない、許せ」


俺の呟きは誰に届くわけでもなく虚しく響いた。


またもや触手が飛び出すが、逃げる者に興味は無いようで俺ばかりを狙ってくる。


すぐさま頭を切り替えた俺は触手を切り、海面を走り回って飛び出そうとする多くの触手を牽制しているエルフに向けて叫んだ。


「おいエルフ!急いで向こうのミズカミを回収してシンシアたちを追え。時間は稼ぐ!」

「何を言っているんですか!」


エルフが信じられないといった表情で見上げるが、俺は気にせず指示を飛ばした。


「あいつとお前は、近い未来ガーデンでも屈指の猛者になれる。だからここは引くんだ、いや、引いてくれ!」

「できません!」

「やれ!!」


エルフが会話に気を取られた一瞬にまた触手がせり上がってくる。


急降下してそれを躱し、そのままエルフの小脇を抱えると、勢いを利用してミズカミの方へと放り投げた。


「・・・死ぬなよ」

「!」


俺とエルフが離れきった瞬間背中に強い衝撃が走った。


途端にウィングの操作が効かなくなる。

俺は瞬時に自分が撃墜されたことを悟ったが、だからどうということもなく真っ逆さまに海へ落ちた。


(ああ、沈む....俺も、このシラギ・スラティスタもか。....クラーケン、大海の悪魔よ。タダでは死なんぞ!)


俺は海中で身を翻し、暗い海に潜むクラーケンを見据えた。


そして素早く剣の刃をNo.4のアンカーレイピアに替えると落下の勢いをプラスして奴の片目に突き刺してやった。


ウォォォォオオオオンと重々しい音が海水を揺らし、痛みで身をうねらせていた。


(駄賃だ...取って......おけ..............)


それを見届けて、意識を遠のかせながら深く暗い海底へ沈んでいくなかで俺は、何かキラキラと金色に輝いたものが降って来て手を掴んだ様な気がしたが、全てが全て暗転した。


-----------------------M.Gメモ---------------------




妖怪・濡れ女について。


名前:磯姫


レベル:3800


趣味特技:水玉遊び


備考

海の怪異で人間の血を吸う女性の姿をした妖怪と伝えられているが、その実態は人間で遊ぶ少女の妖怪。

海の生物とは仲が良く、魚類から海洋モンスターまで彼女に懐いている。

詳しくはわからないが、その昔に暦たちの先祖である水上時定を九尾狐と取り合った過去があるらしい。


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