〜進撃〜
壇上から下りたディアナはシラギの隣まで近づいて小声で話す。
「すまないなシラギ。我々も離脱の際艦砲射撃で応戦をーー」
「いや、それは俺たちにも被害が出るからやめろ。それよりもお前達は逃げることに全力を注ぐんだ。俺たちも死力を尽くすが持って五分が限界だろう。その間にどれだけここから遠ざかれるかに全てがかかっているんだからな」
「そうだな。何を言っているんだ私は...少し頭を冷やさせてもらう、すまないが後は任せる」
「ああ、お前達はただ前へ走り続けろ」
「わかった」
ディアナは力無く頷いてから暦とネリシャを見た。
「ところで、君たちは一体?」
「この二人ミーラスブリザでたまたま見つけた掘り出し物だ。特にこの...」
シラギは暦の肩を叩いた。
「ミズカミ・コヨミ、という男には個人的な興味を抱いてな」
「そうか...ミズカミ君と君は?」
「ネリシャ、と呼んでください」
「わかった。ミズカミ君にネリシャ君、あのシラギに気に入られるなんて滅多に無い事だ。運が良いな...と言いたかったんだが、今回はそれが裏目に出てしまったな」
ディアナは申し訳なさそうな顔で二人を見つめてからその肩に手を乗せる。
「私が不甲斐ないばっかりに、謝っても仕方が無いが本当にすまない」
彼女はそう言い残すとと部屋から出て行った。
「あいつは、ディアナはガーデンに入って来た頃から知っているが...あんな顔を見たのは初めてだ。クラーケンに乗っていたという小娘、少なくとも人じゃないな...おいエルフ、何かわかるか?」
「私は特に何も感じませんが?」
首を横に振るネリシャにシラギはそれは困ったな、といった顔をして腕を組む。
そうしている間に、またもや船体が大きく揺れた。
今度は単発ではなく十秒置き程の間隔で断続的に攻撃され、振動が収まらない。
「隊長、こりゃ急がんと沈められます」
進撃を決断する際に意見した大柄な男が言うのをシラギは手で制した。
「そうだが、今何の策も無く飛び出してもそれこそ無駄死にだ。だから一刻も早く打開策を見つけないとなんだが、生憎俺たちは竜殺しだからな、海のモンスターは専門外だ。どうしたものか....そうだ、電信管はあるか?」
「はい、講壇の脇にありました」
「そうか、ありがとう」
シラギは小走りに電信管へと向かうとしきりに何処かと交信した。
そのうち、より一層強い衝撃と共に船体の下の方から破裂音が響くと、僅かに艦が右へ傾いた。
「ちっ...クラーケンの奴、派手にやりやがって」
「だが傾斜は悪化してないみたいだな」
シラギ班の何人かが不安の色を浮かべていると、今までとは違った振動と八発の轟音が鳴り響いた。
「やっと砲撃を始めたのかよ。艦が傾いて焦ったか?」
「.....なんにせよ、このまま海の藻屑になるのはごめんだな」
「まったくだな」
まだ余裕そうな者たちが冗談を言っているとシラギが戻って来た。
「艦橋の奴らと連絡をとってきた。どいつもこいつも竦んでて覚束なかったが状況は把握と作戦の立案は出来た」
机の上にあった紙とペンを持ってくると図面にしながら作戦の解説を始めた。
「まず右舷最上甲板からウィングで飛び立ち、単縦陣で奴に急接近する。それで前衛五人が海面上に出ているであろう触手をNo.3で全て切り落とす、出ていなければ真っ直ぐ突っ込んだ後に刃の固定を解除して奴の目に飛ばして最低でも方目は使えなくしろ。アルフォンス、シンシア、ミズカミ、エルフの四人以外は俺に続いて最上甲板に行くぞ。」
「「「「はい」」」」
「アルフォンスとシンシアはこの二人に予備の装備を貸してやれ」
「「はい」」
「ミズカミ、エルフ、お前たちには期待しているからな」
笑みを浮かべたシラギは二人の肩を軽く叩くと素早く部屋を出て行き、残りのメンバーも後に続いた。
「さあ、ミズカミ君はこっちだ」
「ネリシャさんだっけ?貴女はこっちよ」
「あの、その装備とは海を渡る為の物ですか?」
「ああウィングのこと?今回は海上だけど普段は空を飛ぶね。まあ簡単に言うと飛行ユニットよ」
ネリシャの質問にシンシアと呼ばれた若い女性が答えていると。
「時間が無いんだ、急ごう」
と、アルフォンスと呼ばれた青年が話している二人を急かした。
二人ともシラギと似たロングコートを着て二本の十字鞘を腰に吊るしていたが、どちらも下に薄手の金属で出来た胸当てを着けていた。
「すみません、ですが話の限り私には必要無さそうです。私たちエルフは水面に浮かべますから」
「ふーん...そっか、ならこのまま私と上に行こ。アルはミズカミ君をお願いね」
「ああ、任せろ」
シンシアとネリシャが部屋を出て行く。
「さて、僕らも急ごうか。シラギ隊長は遅い人が嫌いだし」
「は、はい」
続けざまに暦たちも部屋を出ていくと作戦会議室は空になった。
「えっと、着替え終わりました」
「うん、少し丈が長いけどサイズに問題は無いね、一瞬で体格が一番近い人を選べるなんて流石はシラギ隊長だ」
アルフォンスの部屋で着替えていた暦がカーテンを開くと、真っ黒なロングコートと例の鞘を身につけた姿で立っていた。
「それでこれを背中に着けるよ」
「ああさっきシラギ先輩が着けてたそれが...」
「そう、これがウィングさ」
アルフォンスはコートの背面に施された特殊なプレートに装着させる。
「さあ急ごう、使い方とかは走りながら説明するからね」
「わかりました」
飛び出すような勢いで二人は部屋を出ると、猛ダッシュで甲板を目指した。
「この装備はちょっと馴れないですね」
「両腰に鞘があるからバランスが何時もと違うんだよ、皆最初はそうさ。それにこの装備は合計で7kgはあるからね」
「え?結構でも軽いような...」
「凄いね、痩せ型の僕と同じくらいの体格なのにシラギ隊長みたいなこと言うなんて」
重たい装備を着けても平然としている暦にアルフォンスは素直に驚いた。
「さて、それよりも剣とウィングについて説明するよ。時間の関係で一回しか言えないと思うからよく聞いてね」
「はい」
「まず剣について。この剣は本来ドラゴンの
硬い鱗や肉を削ぎ落とす為に作られた付け替え式の数種類の刃を装着できるんだ。刃は用途ごとに番号が振られていて、それがさっきシラギ隊長が言ってたNo.3とかのこと。時計回りにNo.1から4まで入っていて真ん中にNo.5が入ってるから忘れたり間違えたりしないようにね」
「わかりました」
「次にウィング。これは剣に付いてるトリガーを引くと背中のバックユニットから高圧エネルギー製の大小四枚の細い翼が開くんだ。操作は単純で、体を前に倒して加速、起こして減速地面と垂直で停止できるんよ。一気に体を起こせば急停止もできるよ。旋回は飛行中に左右へ体を傾ければその方向に曲がれるからね。最大速度は大体160キロで旋回半径は最大速度で50m、この辺は個人の体格差や体重で変化するけど取り敢えず僕のデータね。簡単に説明したつもりだったけど長くなっちゃったね、覚えれた?」
「おそらくは平気です」
頭の中で説明を反芻させながら頷いた。
「もう甲板だね。この海は暑くはないけど気候のせいで日差しが強いから目をやられないようにね気をつけてね」
アルフォンスが鋼鉄の扉を開くと、確かに目の痛くなるような日光が降り注ぎ、暦は思わず目を細くするが、それを上回ってゾクリとした寒気が全身を駆け抜けた。
(これは妖気...まさか?)
「遅い!何をグズグズしている!!」
暦の脳裏にある男の姿が過ったがシラギの怒鳴り声で我に返った。
「すみませんでした隊長、ミズカミ君に説明をしながら走っていたもので」
「ミズカミ、覚えられたのか?」
「言われたことは全て覚えました」
「なら今度からは早聞きを訓練しろ」
「...はい」
「どうした?」
何処と無く上の空な暦を変に思ったシラギが声をかけるがそれすらも耳に入っていない様子だった。
更に暦はピンッと金色の獣耳と四本の尻尾を立たせている。
「うわ!なんか生えたぞ!」
「人間じゃ無いのか!?」
「安心しろ、人じゃ無いが敵でも無い。それに人外は俺で慣れているだろう?」
「そりゃそうですけど、ああも変身されるとどうも...おおっと!」
シラギが班員の動揺を抑えていると船体が大きく振動し、暦以外の全員がよろけた。
「・・・・居た」
激しく揺れる甲板の上で、暦はボソリと呟いた。
「確かに女の子だ...あいつじゃ無い。でもこの気配、不愉快だな...」
「ミズカミ君?どうしーー」
アルフォンスがブツブツと何か呟いている暦を心配して声をかけるが、その鋭い目付きと金色に輝く瞳に気圧された。
いつの間にか尾は六本に増え、髪も肩が隠れるまで伸びて眩しい金色に染まっていた。
「すみませんシラギ先輩...あの巨大イカの頭に座ってる女の子、オレに殺らせて下さい」
「待て、独断専行はするな!」
シラギが一歩踏み出した暦の肩を強く掴んで停止させるが、それをいとも簡単に振り払うと振り返りもせずに飛び出して行った。
常人なら肩の骨にヒビが入ってもおかしくない力で掴んだにも関わらず振り払われたことと、暦が跳躍した場所に貼られていた鋼板が砲弾でも撃ち込まれたかのように破裂していたことにシラギは数秒間思考を奪われるが、直ぐに我に返ると剣を抜いた。
「予定が狂ったが仕方ない、ミズカミの穴は俺が埋める。行くぞ!」
「「「「「おー!!」」」」」
全員が甲板から飛び降り、ネリシャは海面を、それ以外は美しいエネルギーの翼を閃かせてその上空を駆け抜け、己の獲物へと向かって進んだ。
-----------------------M.Gメモ-----------------------
高等兵団ドラゴン討伐部隊正式採用装備
高等兵団の中でも精鋭と呼べるドラゴン殺しを専門とした部隊が正式採用した付け替え式の5種類の刃を使用する剣(通称ドラゴンキラー)と空を高速で飛ぶためのウィング。
剣の柄は滑り止め加工のされた黒革に巻かれたトリガーと小さなボタンのついたグリップと同色の楕円形のハンドガードのみの簡素なデザインだが内部にマガジンキャッチのギミックを内蔵しており、刃に付けられた窪みがこれにはまり刀身を固定する。
(非使用時は両脇の専用フックで吊るしている)
鞘は5つが十字に合体しており、1本の太い鞘のように見える。
部隊内で刃は正式名称ではなく、ドラゴンを倒すのに工程に合わせて1〜5の番号で割り振られいる。
・ウイングカッター
鋼鉄の針の様に硬く鋭い羽毛に覆われた翼を断ち切る為の片刃の刃。
重量のある金属を鍛えた刃で、両手で握り、高速滑空ユニットによる勢いと刀身自体の重さを活かして切る
しかし、重たいので単純な腕力のみで切り落とせる者は少ない。
討伐隊の装備の中で最も消耗量が多い刃である。
N.O1と呼ばれている。
・スケールブレイカー
硬い鱗を破壊する為に丈夫に作られている両刃の刃。
鱗と皮膚の間に刃を叩きつけて使用する。
数種類の金属を混ぜ合わせた合金製のこの刃は正面からの衝撃に強いが荒い使いからをされるので刃が鈍になりやすい。
N.O2と呼ばれる。
・スライサー
肉を削ぎ落とす事に特化した片刃の薄く鋭い刃。
技術開発班の刀匠班が苦心して創り上げたこの刃はしなりがあるので硬い肉にも深く切り込める。
薄刃故に折れやすい。
N.O3と呼ばれている。
・アンカーレイピア
ドラゴンに止めを刺す時に使う杭の役目をする刃。
切る為の刃は付けられていないが切っ先に返しが付いており、ドラゴンの手足を貫通して地面に突き刺さると抜けなくなる。
場合によってはドラゴンの目に突き刺して視力を奪うのにも使う。
用途上の理由から使い捨てにされることが多い。
N.O4と呼ばれている。
・サムライハーツ
手足を固定したドラゴンに止めを刺す時に使用する、反りの無い刀を模した形状をした、けして欠けない強靭な片刃の刃。
硬い肉と鋼鉄のような骨を断ち切るこの刃はそれ自体でも鋭いが、空中から落下しながら自重を利用して使用することで一本の刃で確実にドラゴンの首を落とせるようになった。
N.O5と呼ばれている。
ウィング
討伐隊員が各々の背中に装着する中距離を高速で飛行する装置。
剣の柄に取り付けられたトリガーを引くと高圧エネルギーで形成された4枚の翼が展開される。
基本的に高所から飛び、前傾姿勢で加速し、上体を起こすことで急停止できる。
また、翼展開時なら20m程の垂直大ジャンプも可能。
ユニットには小型の大容量バッテリーが内蔵されているが、飛行には莫大なエネルギーを消費するので最大持続時間は30分程度である。




