〜艦内告白〜
どのようなものでも感想、コメントをお待ちしております。
「こいつは、ミズカミ・コヨミは人間じゃない」
「知ってます」
「自覚してます」
「はい、感じました」
シラギによる暦の人外宣言を聞いてもその場にいる三人は驚かなかった。
「なんだ知ってたか、平気な顔して連んでるから知らないのかと思っていた。....まあ、エルフを連れている時点で普通じゃないがな」
シラギも三人の反応には驚かず、ネリシャへと目を向けた。
「あら、貴方は反エルフ派の人ですか?」
「別にそういうつもりで言ったんじゃない。ただエルフが他種族と一緒なのが珍しいだけだ」
シラギはそう言ってカップのお茶を一口啜ると天井を見上げた。
「それに、俺もはっきり『人間』と言い張れる存在でも無いしな」
「そう...なんですか?」
ネリシャは不思議そうな表情をしながらシラギの顔をジッと観察する。
「貴方からは...人外の気配はしませんが?」
「そうか、気づけないこと自体はどうでもいいが、もしも直感だけを頼りに相手の本質を判断しているならば、いずれお前は本当に隠密行動を得意とする相手に寝首をかかれることになるな」
「なっ...失礼ですが私は故郷のエルフの中でも索敵能力が高く、それ故里の危機を回避したこともあります。けして侮られるようなものではありません」
シラギの言葉にネリシャは顔を赤くして反論した。
「ふぅ.....」
シラギはゆっくりと息を吐きながら目を閉じ、次に目を見開くと双方共に深紅に染まった瞳がネリシャを射抜いた。
「少しは身の程を知れ、エルフの娘よ」
「....っ!」
ネリシャはまるで絶対的な捕食者に睨まれているような錯覚に陥り体が石のように固まってしまった。
「シラギ先輩、それはやり過ぎです」
威嚇で固まったのはネリシャだけでなく紗季もそうだったが、暦は一人だけ平然としていた。
正確に言えば薄っすらと額に汗が浮かんでいたのだが、二人のように身動きすらできない様な状態には陥っていなかった。
「....そうだな、少し頭に血が上っていたかもしれない。すまなかったな」
シラギは無表情ながらも探る様な目つきで暦を一瞥してから瞳を元に戻した。
「っ...はぁっはぁっはぁ」
緊張の解けたネリシャは上を見上げて荒くなった呼吸を整える。
脇で紗季も胸に手を当てて息を整えていた。
「い、いえ....私も先程貴方が言っていたことがよくわかりました...はぁっはぁ..貴方は一体何者なんですか?」
ネリシャは怯えた様子でシラギに尋ねた。
そんなネリシャを眺め、シラギは口元に小さな笑みを作る。
「なにもの....、そう問われれば、『化物』と答えるようにしている」
ネリシャの反応を楽しんでいる様にも見えるが、何処か自虐的な色も見当たる笑みを保ったままカップに口を着けた。
「さて、だいぶ話が逸れたな。この辺で少し軌道修正をしよう」
シラギはカップをソーサーに置いてから再び暦に視線を向けた。
「おいミズカミ」
「はい...何ですか?」
「お前は俺が思っていた以上に規格外だった」
「え?」
悪戯っぽい笑みを浮かべたシラギは、「わかってないな」と言いたげに左手の指を小さく振った。
「お前は本当に面白い奴だ」
「?」
「?」
「?」
シラギを除く三人は彼の考えが解らず、無言で互いに視線を送り合う。
「えっと...それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味だ」
シラギは相変わらずニヤニヤとしている。
それはまるで新しい玩具を手に入れた子供のようであった。
「お前はどうも俺が考えていた以上に化物だった...ということだ」
「それは...」
「ああ、これは別に悪口じゃない。寧ろ思ったより伸び代がありそうでいいという意味の褒め言葉だ」
不快な顔をした暦にシラギは訂正を入れる。
「本当にお前の狐は面白い...」
「質問です」
暦の奥底を覗くような目をしていたシラギにネリシャが挙手する。
「何だ?」
「どうして彼が狐だと?」
「ああそうか、お前は昨日の決闘の時にはいなかったな。俺の目は相手の本質やHP量、細かなステータスを見ることができる」
自分の目元を人差し指で指しながらシラギはネリシャに説明した。
「口だけでは確証はありません」
「それは失礼したな、ネリシャルド=スラートス=イミル=ハラージド=ミラディナーシル・フラント=サハール=ウンズィーク=ウォルラント=シールフ。レベルは...1255か、それなりに高いな」
「...信じます」
ネリシャは悔しそうな顔で頭を下げたが、直ぐに新たな質問と共に顔を上げた。
「待って下さい、聖獣族ならば耳なり尾なりが必ず存在する筈ですが?」
「それこそ口で言うよりも試した方が早いな。おいミズカミ、ちょっと来い」
「はい....?」
暦は不思議そうな顔をしたまま席を立ち、シラギの右脇に立った。
それと同時に鋭い金属音が室内に響き渡りった。
「いきなり...何すんですか!!」
シラギより放たれた斬撃を、暦は鞘から半分ほど抜いた刀で防いぎながら怒鳴った。
だがしかし、頭からちょこんと獣耳を、腰からはフサフサとした尻尾を生やしていた。
「生えただろ」
「ええ、生えましたが...」
「そういうことは一言言ってからにして下さいよ...死にかけましたよ?」
「不意打ちじゃないと意味が無い、それに死にかけたというならそれはお互い様だ」
剣を鞘に納めながらシラギは後ろの壁を指差した。
そこにはなんと小太刀が刀身の半分以上を壁に埋めて突き刺さっていた。
「おいミズカミ妹、いきなりやった俺も大概だが、兄に危害を加える奴を反射的に殺そうとするのはやめた方がいいぞ。俺じゃなかったら間違いなく死んでいた」
「嫌ですねぇシラギさん」
紗季はトコトコと小走りに壁に近づくと、突き刺さった小太刀を一息に引き抜いた。
「お兄ちゃんにぃー...意味なく刃を向けるような奴は死んだ方がいいに決まってるじゃないですかー」
笑顔のままそう答える紗季に流石のシラギも不気味なものを覚える。
「......おいミズカミ、お前の妹は悪魔か何かか?」
「いや、まあ...何かに取り憑かれたかのように俺には甘えてきますが....あの娘自体は普通の人間です」
「コヨミさん、普通って意味知ってますか?」
「人に説明できるレベルでは理解してると自負しています」
「じゃあお前にとっての普通の妹はソレなのか?」
「カ、カチカンハヒトソレゾレデスカラ」
紗季の頭を撫でて彼女をクールダウンさせている暦にネリシャとシラギが奇妙なものを見るような目で見つめながら問い、暦も目を逸らしながら答えた。
「ふう、お前たちと話すとどうも会話が逸れるな」
シラギは脳内である知人を思い浮かべながらボヤくと、これから暦をその本人に紹介しなくてはならない事を思い出して鬱な気持ちになった。
「もういい、兎に角本人を含めてミズカミが人間じゃないということを理解した上で平気で接しているなら構わん。特にミズカミ自身が自分に気づいているならな」
シラギはそれだけ言うと机に突っ伏した。
「あの...」
そしてまたもやネリシャが問いかけた。
「何だ?」
「その言い方は...コヨミさんを危険視しているからでしょうか?」
「・・・・」
シラギは黙ったまま顔をネリシャに向けた。
「そうだな...実際ミズカミの本質はもっと暗く、色もどす黒いからそれも一律ある」
シラギの答えを聞いてネリシャはムッとした顔をした。
「だが...さっきも言ったように特にこの事を理解していた方がいいのはミズカミ自身だ」
「彼からは優しい気配がします。それにサキさんのあの懐きようからしても到底...」
「違う、もしミズカミが暴れようとも俺一人で処分できる。だが俺が言いたいのはそこじゃない」
シラギは今度は暦に視線を向けた。
その目にははっきりと優しさと同時に悲しみが篭っていたのをネリシャは感じ取った。
「自分が化物だとも知らずに他人と接し、その結果その人を傷つける事のないように最初から自分が化物だと理解しておけ、ということだ」
四人はしばらく黙ったままだったが、シラギが体を起こし、お茶をティーポットからカップに注ぐ。
「すまんな、少し空気をシケさせただけじゃなく長話で茶まで冷やした」
シラギはそれを一口で飲み干すと懐から懐中時計を取り出して時間を確認した。
「そろそろガーデンに着く時間だ、各自荷物は纏めておけ....それとミズカミ」
「はい」
シラギは暦の肩を何度か叩くとニッと笑った。
「いい娘達だ、大切にしろ。...一応言っておくがガーデンでは挙式は上げられんからな」
-------------------------M.Gメモ------------------------
ネリシャルド=スラートス=イミル=ハラージド=ミラディナーシル・フラント=サハール=ウンズィーク=ウォルラント=シールフ
LV.1255
HP 16315
装備品
・白夜の聖剣
・白夜の聖盾
備考
深い森の中で暮らしているエルフ一族の娘。
剣や弓など武術に長けており、更に相手の気配を察知する能力が生まれ育った里の中では最も高かった。
また、かなりの読書家であり、日々の鍛錬が終わると昔から家よりも図書館で本を読んでいることが多かったらしい。
それ故か探究心も強く、知りたいこと、不思議に思ったことは自分が納得するまで問い詰める。




