〜出港〜
キリのいい回ですが今回は少し短めになってしまいました。
「船に遅れてしまうといけないので歩きながら話しましょう」
「え、ええ」
笑顔のエルフ少女と突然の事に少し戸惑う暦。
そして
「あの、すみませんが貴女は?容姿から見るにエルフ族とお見受けしますが」
と、不自然な敬語で話す紗季。
この時、暦が密かに(今は見えてるんだ...)と胸中で呟いたことは本人以外に知る者はいない。
「そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私はネリシャルド=スラートス=イミル=ハラージド=ミラディナーシル・フラント=サハール=ウンズィーク=ウォルラント=シールフと申します、ネリシャと呼んでください。こちらの方から我々と似た気配を感じましたので、気がかりに思ったのです」
にこやかな笑みを浮かべて暦を見るネリシャ。
それとは逆に不機嫌そうに彼女を眺める紗季。
「紗季、初対面の人(?)に突っかかるのは止めなさい」
「でも...」
暦は呆れ気味な様子で紗季を止める。
「妹の紗季がどうもすみません。それで、何か御用が?」
ネリシャは美しい笑みを浮かべたまま、疑問符を浮かべて問う暦の耳元に顔を近づけると囁くように言った。
「貴方、そんなに濃く気配を発していては良くないもの引き寄せますよ」
「?」
先程から彼女の言う『気配』についてイマイチしっかり把握できない暦は小首を傾げた。
「む、近い」
紗季はむくれ面になって暦を自分の方へ引き寄せ、ネリシャと距離を開けさせた。
「ふふっとても好かれているようで、可愛い妹さんですね。」
「いろいろと問題もあるんですがね...ところで、ここにいるということは貴女もガーデンへ?」
「はい、そうですが問題ありますか?」
「いえ、そうではないんですが...あまり聞かない話だなと思いまして。エルフ族はその存在が公に出ても人とはあまり交友関係を深めず、森の中で暮らしていると昔家で聞かされていたので」
「え、そうなんですか?」
「え?」
暦の答えに大いに驚いた様子のネリシャに暦も驚いた。
「確かに私達エルフは人間を避ける傾向はありましたが、ここ100年間で随分と打ち解けてきたと長が話されていましたよ。警備ばかりで里から出たことの無かった私もここ最近は里を訪れる人間の姿を目にしましたし、その人たちの話で私はガーデンの存在を知りました」
「へー...そうなんですか。紗季は街で聞いたことあった?」
「んーん、無かったよ。でも...」
スーッと紗季の視線がネリシャ背負う片手用の盾へと移動した。
「その盾なら二年前に見たことがあるよ。一瞬しか見えなかったけど、セントウエスティアに入って直ぐの頃に寄った森の中で、白い馬に乗った男の人が持っていた盾とよく似てる」
「この盾を持ち、白馬に乗っていた男性ですか。その方はもしかして髪が私と同じように緑色ではありませんでしたか?」
「えーっと...本当に一瞬だったからよく覚えてないけど確かそうだった気が...」
「やはりですか、それはおそらく私達の里の長ですね。族長会議に遅れた時に、よくその森の中を抜けていたそうなのでそれを見かけたのではないでしょうか」
「言い方からして遅れていたんですね、族長さん」
「ええ、大変だったんですよ。里に千年樹と呼ばれる大きな木があるのですが、執務もしないでその根元で寝ていることの多い方でして...」
いつの間にか仲良くなっていた二人を横目に見ていた暦は、ふと前を見るともう乗船場近くに来ていたことに気がついた。
「お二方、そろそろ着きますよ」
「あら、かなり話していたようですね」
「本当だー」
波の音が響く船着場は昨日は無かった黒く輝く大型の輸送船が3隻停泊していた。
「さてと、どこで乗るんだろうか?」
「お、意外と直ぐに見つかったな」
暦は目を動かして人の動きを見ていると、昨日聞いたばかりの、しかしあまり思い出したくない声が後ろから聞こえ、肩に手が置かれる。
嫌な予感がしつつも暦が後ろを向くと、彼の予想は的中していた。
「ど、どうもシラギ先輩」
「昨日ぶりだな、ミズカミ」
長い銀髪に朱色と琥珀色のヘテロクロミヤ、銀装飾の施された黒のロングコート姿のシラギ・スラティスタだ。
「少し話があるからついて来い」
「お兄ちゃんに何の用デスカ?」
そのまま暦を攫って行こうとするシラギの肩に手を乗せ、敵意の篭った声で話す紗季。
「何だミズカミ妹、ついて来たいならそこのエルフも含めて構わんぞ?」
「平然とお兄ちゃんを攫って行こうとしないでくださいよ」
「攫ってない、精々任意同行だ。さっきも言ったが話があるだけだ、そう警戒することはない」
そう言うとシラギは(身長の関係で)半ば引きずるような形で暦を連れて行ってしまった。
あまりにも平然と連れ去ったので二人はしばらく固まっていたが、先にネリシャが我に返った。
「着いて行ってもいいみたいですから私達も後を追いましょうか」
「は、はい」
ネリシャに促されて紗季達は急いでシラギの後を追った。
シラギを追った先には、輸送船よりも遥かに巨大で大砲をこれでもかと積んだ一隻の戦艦が停泊していおり、シラギは丁度桟橋を渡りきり、艦内へと消えてしまったので紗季達も走って追いかけた。
途中で桟橋に立つガーデン兵が気になったが、シラギが何か言っておいたのか何事もなく通された。
そして、紗季達が乗艦すると続いて先のガーデン兵も乗艦し、
「シラギ討伐隊長の御部屋まで案内させて頂きますので後に続いて下さい」
と一言言って歩き出した。
ガーデン兵に釣れられて複雑な艦内を歩き回った末にようやくある部屋の前で立ち止まった。
「こちらです」
簡素にそう言って彼は直ぐに何処かへいなくなってしまった。
紗季が扉を開けると、一面に敷かれた赤い絨毯に繊細な装飾の施された壁、あの無骨な戦艦の中とは思えないような豪華な部屋に入ってしまった。
「いつまでもそこにいないでこっちに来い」
二人で唖然としていると奥からシラギに声をかけられた。
行ってみると、豪華な机にグッタリとして突っ伏す暦とその反対側の席でお茶を啜るシラギが座っている。
「そろそろ出港だ、適当な席に座れ」
シラギに言われて紗季は暦の右隣りに、ネリシャは左隣りに座る。
「エルフ族がこの船に乗るのは...いや、そもそもガーデンに入ること自体が初めてだろうな」
ティーカップを置くとシラギは小さく笑いながら言った。
「・・・・」
「どうした、何か変か?」
ジトッとした目で見つめてくる紗季にシラギは小首を傾げた。
「昨日と何か違う...」
「そんな事はない、これが普通の俺だ。普段から人を殴るような奴じゃないさ....まあ、喧嘩を吹っかけられれば話は別だがな」
シラギが鼻で笑ったと同時に船体が軽く揺れた。
「出港したみたいだな」
「シラギ先輩...もっと別の連れて来方あったんじゃないですか....本気で息が詰まったんですけど」
やっと顔を上げた暦が青い顔で意見する。
「すまなかったな、あの場で目立たないように連れて来るのはあれ以外に無かった」
「ではあれが目立ちもせず、尚且つ人目にも触れないと?」
「で、話についてだが、エルフは兎も角ミズカミ妹は知っておいた方がいいだろう」
アッサリと暦を無視したシラギは紗季達に向かって語った。
「こいつは、ミズカミ・コヨミは人間じゃない」
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エルフ族について
森のエルフ、緑の守人、大樹の番人など地域によって様々な呼び名の存在する聖霊族。
名の通り深い森の中に住み、自然と緑を愛している。
あまり人間とは関わりを持たない種族ではあるが、一部では積極的に交流しているとの噂もある。
北国以外なら大きな森さえあればどこにでもいるらしい。
弓矢を好むが、剣を手に戦うこともあるらしく、稀に剣を持ったエルフの見かけられる。
基本的に男性は金髪緑眼、女性は緑髪緑眼である。




