5. 元婚約者からの告白
辺境までは、ワープゲートを通っていく。
「グレンは、宮廷魔導士のワープゲートは初めてだよね?
ワープゲートには、管理人さんがいて、目的地、移動の目的、所属部隊を伝えると通してもらえるよ。私的な使用は認められないから注意してね」
そう説明してからワープゲートに入る。
ゲートの中は青白い光の粒子がキラキラと輝いている。
まるで夜空を埋め尽くす銀河のような神秘的な光景に心が奪われる。
二人でゲートの中心に立つと、管理人さんの明るく元気な声が聞こえた。
「ではでは〜!転送を始めますよ〜。お気をつけて〜。ハイイイ〜」
目の前が真っ白になり、眩しさに思わず目を閉じてしまう。そして、次に目を開けた瞬間、私たちは辺境の地に着いていた。
「今回の魔獣は夜に活動を始めるらしいから、それまで食事でもしようか」
立ち並ぶ屋台からは、いい香りが漂っていた。店主の活気の良い呼び込みの声。美味しそうに食べ物を頬張る人々の笑顔。その様子を見て、食欲が増してきた。
「おじさーん!激辛串五本お願いします!」
「おっ!お嬢ちゃん!うちの激辛串はびっくりするくらい辛いぞー!」
「大丈夫ですっ!」
元気に返事をすると、おじさんはニカッと笑って串を焼き始める。謎の真っ赤な粉をこれでもかとふりかけ、肉が見えなくなっている。
その串を受け取り、公園のベンチに座ると、私は激辛串をパクリと一口頬張る。脳内に響くほどの圧倒的な辛さが、癖になりそうだった。あまりの刺激に舌だけではなく、唇までもがヒリヒリとする。
「んー!!美味しいっ!この辛さが最高っ!」
「…相変わらずだな」
グレンは、先ほどのキャメルくんの前とは違い、柔らかい表情で私を見つめた。なんだか子ども扱いされたような気がして、気恥ずかしくなる。だから、つい拗ねたような言葉を返してしまった。
「そちらも、相変わらずお元気そうで。…宮廷魔導局で働くことになったなら、事前に教えてくれてもよかったのに。薄情者っ」
「それをいうなら、何も言わずに婚約解消の書類にサインしたお前は、氷のように冷たいヤツになるな」
その言葉に、私はギクっとする。
「一方的に婚約解消されて、俺がどんな気持ちだったかわかるか?」
グレンは、逃がさないとばかりに私の頬を両手で包み込み、瞳を覗き込んできた。
普段表情に乏しいはずのグレンが、寂しそうな顔をしているのを見て「こんな顔もできるんだ〜」と、一瞬現実から逃避をしてしまった。
「…エレノア?聞いてるのか?」
いつの間にかいつもの無表情に戻ったグレンが、私の頬をにゅーんと引っ張ってきた。
「ちょっと、それやめてよっ!」
グレンの手を振り解いてから、私は答えた。
「あれは…あの時は、それが最善と思ったの」
グレンは、続きを促すように無言でこちらを見つめてきた。
「だって、叔父に爵位を奪われて…。私と結婚しても、グレンには何の利益もないんじゃないかって…」
だんだんとグレンに申し訳ない気持ちが込み上げてきて、私はしゅんと俯いた。自然と声も小さくなっていく。
すると、グレンが小さく息を吐いた。
「はあ…。エレノア。俺は、ただ爵位が欲しいだけで、ずっとお前の側にいたわけじゃない。
——ずっと昔から、エレノアのことが好きだったんだ」
そう言うと、長身のグレンは少しだけ身を屈め、私と目線を合わせた。
そして、真っすぐに私の瞳を覗き込む。その顔があまりにも真剣で、私はグレンから瞳をそらすことができなかった。
「だから、側にいさせてくれないか?俺はエレノアがいてくれれば、それでいいんだ」
グレンの真っ直ぐな言葉と真摯な眼差しに、絆される気がした。
——だけど、今の私にはやらなければならないことがある。
そのために、余計なことは考えず、今は自分の力を磨く時だと…この三年ずっと、そう信じて励んできた。
だから、グレンの気持ちには応えられない。そう告げようと、口を開きかけた瞬間…。
また、にゅーんと頬を引っ張られた。
「待て。…今、断ろうとしただろ?
俺は、子爵家を出てまでお前の側に戻ってきたんだ。簡単には、諦めない。それだけを今は分かっていて欲しい。いつだって俺は、エレノアの味方だ」
そう言って、グレンはほんの少しだけ目元を緩めた。
「返事は今はいらない。エレノアのやるべきことが終えた時に、また聞かせてくれないか…?」
——普段言葉数が少ないグレンが、こんなにも想いを伝えてくれている。
そして、私の気持ちを優先して「答えを待つ」とまで言ってくれた。そんなグレンの優しくて真っ直ぐな気持ちが、胸にじんわりと染み渡っていくのを感じた。
私は、まだ頬を引っ張るグレンの手を振り解いてから、一言「ありがとう」と伝えた。
そして、私は無言のまま、残りの激辛串を頬張った。
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