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3.エレノアの実力

この世界には、四大属性がある。火・水・風・土だ。

人は生まれつき、そのうちの一属性を扱うことができる。

属性には相性があり、土は火に強く、火は風に強く、風は土に強い。そして、水は火と土に優位だ。

私が、扱えるのは水属性魔法だった。


けれど、属性を持っているだけでは、これらの魔法を使いこなすことはできない。

魔法を使うためには、魔力が必要になるのだ。


そのため、人は生まれた瞬間から、魔力を持って生まれてくる。

しかし、生まれ持った魔力量には個人差がある。

魔力量は、魔力を磨き鍛錬を重ねることで、その量をある程度まで高めることができる。


そんな中でも、厳しい訓練を積み、高い実力を認められた者だけが所属を許される組織——。

それが、宮廷魔導局である。


この宮廷魔導局は、三つの部隊で構成されている。


第一部隊は、一級品の魔導具開発やインフラ整備を担う技術部隊で、隊員の九割が女性。


第二部隊は、王族や貴族など要人の警護を担当し、貴族出身者で構成されている。


そして第三部隊は、ウォーター様が隊長を務める実戦部隊だ。魔獣討伐を主な任務とし、隊員のほとんどが平民出身の男性で構成されている。


その中で私は、第三部隊“初”の女性隊員として、宮廷魔導士の一員となったのだ。



——そして。

私が宮廷魔導士になって、気がつけば三年が過ぎていた。


幼い頃から憧れ続けてきた宮廷魔導士のローブは、三年経った今でも、袖を通すだけで胸が高鳴る。

第三部隊のロープは、深い紺色の生地に金色の刺繍が施され、胸元には第三部隊所属を示す、金縁に青い魔石をあしらったブローチが輝いている。ちなみに、部隊ごとにローブやブローチの色が異なり、第一部隊は琥珀色、第二部隊は深紅だ。



——今日は、第三部隊に配属された新人隊員たちの実地訓練の日だ。


私は、茶色の髪を一つに結び、宮廷魔導士のローブと制服をまとい、訓練場に足を運んでいた。

今年は新たに三名が入隊した。彼らにとっては、配属後初めての実地訓練となる。そして、この訓練では、慣例として配属三年目の隊員が新人の引率を務めることになっている。


三年前に第三部隊へ入隊したのは私だけだ。

そのため、今年は三人の新人を、私一人で引率することになっていた。



「それでは、今年の実地訓練を始めます。

本日の任務は、年に一度この湖で大量発生するスライムの討伐です。

今日まで積み重ねてきた訓練の成果を、一緒に発揮しましょう」



スライムとはいえ、湖畔を埋め尽くすほど大量発生した光景は、異様だった。

無数のスライムが、うねうねと動きながら、こちらを警戒している。


そのあまりの数と迫力に、新人たちは皆、緊張した面持ちでスライムの群れを見つめていた。

けれども、緊張した表情とは裏腹に、三人とも戦闘態勢はしっかりと整えている。


——よし。この様子なら大丈夫。

私は小さく頷くと、訓練開始の号令をかけた。


その合図とともに、三人は一斉に魔法を放ち、次々とスライムを討伐していった。

さすがは、狭き門をくぐり抜けて第三部隊へ入隊した新人たちだ。

魔法の精度も威力も申し分ない。

気づけば、湖畔を埋め尽くしていたスライムの群れは、あっという間に半数以上が殲滅されていた。


この調子なら、あっという間に訓練は終わりそうだ。

私がそう安堵した、その時だった。新人隊員たちの悲鳴にも似た叫び声が響く。


「メタルスライムだっ…!」


はっとして視線を向けると、そこには通常のスライムの十倍程の巨大なメタルスライムが、湖からゆっくりと姿を現していた。


今まで、この湖でメタルスライムが確認された例は一度もない。

メタルスライムは、その名のとおり金属のように硬い皮を持つ魔獣だ。

並の魔法では傷一つ付けることすら難しく、魔力で貫くことも容易ではない。

しかもこのサイズだ。


——新人だけで対処できる相手じゃない。


事実、三人がかりで攻撃を仕掛けたが、メタルスライムにはまったく効いていなかった。

それどころか、攻撃を受けたメタルスライムは、怒りを露わにしている。


——このままでは危険だ。


「みんな、下がって!」


三人が距離を取ったことを確認すると、私はメタルスライムへ向かって一気に魔力を解放する。


「ウォーター・コンプレッション!」


激流が渦を巻きながらメタルスライムを包み込み、凄まじい水圧が襲いかかる。

圧縮され激しく暴れる水流が、その巨体を押し潰していく。


しかし、新人三人の攻撃で怒りのボルテージが上がっていたメタルスライムには、まだ威力が足りないようで、暴れまわっていた。

こうなれば、今以上の魔力で叩き伏せるしかない。


今以上の魔力となると…二つの攻撃を同時に放つことになる。これは魔力を大きく消費するため、できれば使いたくはなかった。

けれど、このままではメタルスライムを倒すことができない…。


私はメタルスライムに向け、左手から魔力を放出し続けながら、右手のひらを天へ向かって掲げた。


「ウォーター・ソード!」


次の瞬間、剣の形を模した水の魔力が、右手のひらの上に勢いよく形作られていく。

そして、その剣を激しい水圧の中で、暴れ狂っているメタルスライムに向け、勢いよく投げ飛ばした。


——次の瞬間。


鈍い破裂音とともに、メタルスライムの巨体は弾け飛ぶように粉砕された。


舞い上がった無数の水飛沫と、メタルスライムの皮が太陽の光を受けてきらきらと輝く。

その幻想的な光景は、一瞬だけここが戦場であることを忘れさせるほど美しかった。


「「「す、すげぇ…」」」


新人たちが思わず息を呑み、呆然と呟いた。


「これが…。水属性の女性魔導士の中で、国内一と言われるエレノア先輩の実力…」


他の新人たちも驚きを隠せない様子で口を開く。


「魔力量がハンパねぇ…」

「あんな巨大なメタルスライムを、一瞬で…」

「可憐な見た目と違って、暴力的な魔力だ…」



しかし、安心するのはまだ早い。

メタルスライムが倒されたことで異変を察したのか、残っていたスライムたちが一斉に暴れ始める。


「皆、油断しないで!」


私の鋭い声に、彼らは即座に反応した。


「はいっ!」


三人は素早く陣形を立て直しスライムの群れへ向かい、次々と魔法を放った。

元々、スライム程度であれば余裕で対処できていた三人だ。

暴れ出したスライムたちも、連携の取れた攻撃の前に、あっという間に殲滅された。


全員が無傷のまま、初めての実施訓練を終えることができた。

私は、ほっと胸を撫で下ろす。


「皆、お疲れ様でした。

今日の実地訓練では、日頃の訓練の成果がしっかり発揮できていました。とても素晴らしかったです。今日はゆっくり体を休めて、また明日から一緒に頑張りましょう」

「「「はい!」」」


彼らは私に尊敬の眼差しを向け、揃って元気よく返事をした。


——こうして、今年の実地訓練は無事に幕を閉じた。


ここまでお読みいただきありがとうございました!


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