15.夢の中、呼ぶ声
「お願い…。…を助けて。私の……なの。お願いどうか…」
金色の髪を艶やかに美しく輝かせた女性が、泣きながら必死に訴えてくる。けれど、何を言っているのか、はっきりとは聞き取れない。声は次第に遠ざかり、女性の姿も薄れていく。
「待って! 何て言っているの?」
私は女性を追いかけようとする。けれど、なぜか身体は動かない。それでも必死に手を伸ばすと、女性の身体から眩い光が溢れ出した。
その光は、私を包み込むように広がっていく。そして、光に触れた瞬間。
胸の奥を、強い感情が貫いた。
——悲しい。
——苦しい。
——悔しい。
これは、私の感情じゃない。誰かの強い感情が、直接流れ込んできている。どうして?なぜ私は、この感情を自分のことのように感じているの?
すると、今度は、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。
「…レノア…エレノア!」
聞き覚えのある声。
はっと目を覚ますと、そこには心配そうな表情を浮かべたグレンがいた。
「グレン…?」
「大丈夫か?」
「え…私…」
「泣きながら、うなされていた」
グレンに言われて、頬を伝う涙に気がついた。そこでようやく、仮眠室で眠っていたことを思い出した。
けれど、あの夢は、ただの夢とは思えなかった。
目が覚めた今も、胸の奥にはあの悲しみが残っている。
「何だか、悲しい夢を見ていたみたい」
「そうか…」
すると突然、視界いっぱいにグレンの姿が広がり、温かな腕に包まれた。グレンの香りと温もりを感じ、抱きしめられているのだと理解した途端、私の頬はじわじわと熱を持った。
「グ、グレンっ!?」
「少しだけ」
そう呟くと、グレンはそれ以上何も話さなくなった。
首筋にグレンの髪が触れて、少しくすぐったい。
けれど、その温もりに包まれていると、張り詰めていた心が少しずつほどけていくのを感じた。トントンと優しく背中を叩くリズムが心地よくて、私はそのまま、静かにグレンへ身体を預けた。
しばらくそうしていると…。
「ぐぅ〜」
静かな部屋に、小さくお腹の鳴る音が響いた。はい…私のお腹です。
頭上からグレンが、くすりと笑う気配がした。
「食堂に行くか?」
私は恥ずかしくなって、小さくこくんと頷いた。
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ザワザワ、ザワザワザワ…。
食堂は今日も大勢の人で賑わっていた。
「あ!グレン先輩~!!」
聞き覚えのある声に振り向くと、キャメルくんが大きく手を振っていた。隣にはシルバー先輩も座っていて、二人で昼食を取っていたようだ。
「ここの席、空いてますよ〜!」
キャメルくんは笑顔でそう言いながら、私たちを手招きする。私とグレンは食事を取るとその席へ向かった。
席に着くと、シルバー先輩が私たちを見比べ、意味ありげににやりと笑った。
「お揃いのピアスか」
「あ、本当だ~!」
キャメルくんも私たちの耳元に目を向けると、すぐに気づいたようで、きゅるんっと目を輝かせた。
「豊穣祭、楽しめたみたいだな」
シルバー先輩は口元を緩めたまま、面白そうに私たちを見ている。私は頬に熱が集まるのを感じた。もう、恥ずかしすぎて…耳まで熱い。
そんな私とは対照的に、グレンはいつも通り落ち着いた様子で答えた。
「ええ。とても有意義な時間でした」
そのあまりにも真面目な返答に、シルバー先輩はがっくりと肩を落とした。
「お前…からかいがいがねぇな」
「?」
グレンは何が問題なのか分からないという顔で、シルバー先輩を見つめていた。
私は、これ以上この話題を続けられるのが恥ずかしくて、慌てて別の話題を切り出した。
「ところで…。午後からの出動要請ですが、ウォーター隊長も一緒に行くというのは本当ですか?」
「ああ…。らしいな」
その途端、シルバー先輩の表情がすっと引き締まった。
「あまり、大ごとにならないといいが…」
ウォーター隊長が出動することは滅多にない。
私が知る限り、最後に隊長が前線へ立ったのは、両親が命を落とした災竜ジャン討伐の時だ。
今回も、それほど危険な魔獣が現れたということなのだろうか…と、胸の奥に小さな不安が広がる。
私はその不安を振り払うように、昼食を口へ運んだ。
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