13.エリーの妬み②
そんなある日、私たちに転機が訪れた。
ブルール伯爵夫妻が亡くなったとの知らせが届いたの。
お父様もお母様も、それを聞くと大喜びでブルール伯爵家へ向かったわ。そして、私はブルール伯爵令嬢になった。
お父様が当主になって、最初に行ったことは、エレノアの婚約解消だった。
だって、何の力もない子爵家と婚姻を続けたところで、何の意味もないもの。
お父様は、エレノアを支度金を一番多く出してくれる家へ嫁がせると言っていた。
そうして見つけてきたのが、ヨーナル男爵。
すでに息子が二人いて、孫も五人いる、でっぷりと太ったおじいさんらしい。
ふふふ。正直、いい気味だと思ったわ。今まで甘い蜜を吸ってきたんですもの。だったら、これからは落ちるところまで落ちてもらわないと。
なのに、エレノアったら、淡々と婚約解消届にサインしただけじゃなく、勝手に除籍届まで提出したらしい。
お父様は激怒なさっていたけれど…まあ、これであの子は平民になるもの。もう、今までのような贅沢な暮らしはできないし、男爵以下の生活になる。
そう思うと、愉快な気持ちが込み上げてきた。
愉快なことは、他にもあったわ。
私が伯爵令嬢になった途端、今まで友人として付き合ってきた子たちが、私をチヤホヤし始めたの。まるで、本当にお姫様にでもなったような気分だったわ。
伯爵令嬢になっただけで、こんなにも世界が変わるのかと思ったの。
だから、豊穣祭でエレノアを見かけたときは、嬉しくてたまらなかった。
平民になったエレノアと、伯爵令嬢になった私。
今度は、立場が逆転したのだ。そう思うと、胸が高鳴った。
——平民になったエレノアに、伯爵令嬢である私なら、何をしても許される。
友人たちに、今まで以上に私の力を見せつけるチャンスだと思った。
——なのに…。どうして、こうなったの…?
気がつけば、友人たちは私を置き去りにして、どこかへ行ってしまった。
きっと、エレノアとあの男…確かグレンとか言ったかしら…が、私に恥をかかせたせいね。
許せないっ…。
私は帰宅すると、怒りに身を任せたまま、真っ先にお父様の書斎に向かった。
そうして、今日あった出来事をすべてお父様に話した。
きっとお父様なら、平民となったエレノアに罰を下してくださる。そう期待して、私はお父様の次の言葉を待った。
——けれども。
「…今は、まだその時ではない」
「…っ!なぜですっ…?」
「いいからっ!お前は、あの娘には関わるなっ!時が来れば…俺が制裁を加える」
「そんな…っ!今すぐでないと、納得できません!」
それでも私が追いすがると、お父様は舌打ちをし、忌々しげに言葉を吐き出した。
「エレノアは…あの娘は、平民ではない」
「なっ…どういうことですかっ?」
「男爵家の養子になった。だから、まだ貴族だ。今はまだ…事を大きくするな」
エレノアが、まだ貴族だったという事実には驚いた。
けれど、たかが男爵家だ。一方、こちらは伯爵家だ。
「たかが男爵家ではないですか。下位貴族が高位貴族に無礼を働いたのですから、しかるべき処罰は下すべきです。お父様、どうか…」
そう言って、甘えるようにお父様の腕に縋った。
しかし、お父様は煩わしそうに私の腕を振りほどくと、忌々しげに舌打ちした。
「何度も言わせるな。今は、まだその時ではないのだっ!いいかっ!お前は、あの娘に絶対に手を出すなっ!」
そう言って、書斎から追い出されてしまった。
…いったい、何なのよ!
たかが男爵家の娘じゃないっ!
それなのに、なぜお父様はあんなにも躊躇するの?何に怯えることがあるの?
私には、まったく理解できなかった。
けれど、当主であるお父様の言うことは絶対だ。
逆らえば、今度は私が叱られるに決まっている。
私は悔しさに唇を噛みしめた。
「ああ、もうっ!許さないっ!許さないっ!絶対許さないんだからっ!」
やり場のない怒りをこらえきれず、私は寝室に戻るなり、叫びながらクッションを掴み、力いっぱい振り回した。
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