【第21話:神殺しのウイルス・リアクター――時空を超える宣戦布告】
「撃て(ファイア)ッ!!!」
僕の号令と同時に、『アーク・ノア』の主砲から黄金の光条が放たれた。
刹那の『雷霆神威』がもたらす超伝導加速(マッハ10)を上乗せされた『ワクチン拡散弾』は、神代が富士山直下に開いた時空間転移点のバグを正確に貫き、地下の人体改造プラントへと着弾した。
キィィィィィン――ッ!!
原始魔導の強制救済パルスがプラント全域に炸裂する。
小岩井一佐の時と同じだ。生体パーツとして仮死状態にされていた数百名の防衛軍生存者たちの肉体から、敵の寄生プログラムが一斉にハッキング、そして完全消滅していく。
「が、は……っ!? 馬鹿な、俺のシステム制御が……すべて、書き換えられていくだと……!?」
富士山五合目。時空の裂け目の中心で儀式を行っていた神代剣司が、血を吐きながら狂乱の声を上げた。
彼が世界を滅ぼすために誘導していたフォッサマグナのエネルギー流は、綱臣の『神岩城塞』によって完全に抑え込まれ、富士山の噴火確率は瞬時に0.00%へと叩き落とされた。
「作戦成功だ。神代、お前が人としての尊厳を捨ててまで頼った未来の力は、僕たちの因果(絆)の前に完全に敗北したんだよ」
織絵の転移結界によって、僕は神代の目の前へと着地する。右腕の『零式・逆行天叢雲』が、処刑の刃のように冷たく明滅していた。
その時。
神代の背後でバグを起こし、激しく明滅していた時空間転移点の光が、突如として禍々しい漆黒へと染まった。
空間の歪みそのものが巨大なホログラムスクリーンとなり、そこに異形の影が浮かび上がる。
全身を無機質な機械のパーツで埋め尽くし、魂すらも演算回路へと置換した、未来の人体改造勢力の最高指導者――『総督ヴァルキア』。
『――おのれ、最高司令官、小鳥遊駆。またしても、我が最適解を阻むか』
時空を超えて響く、不快な電子合成音声。
「ヴァルキア……っ! 画面越しに僕たちを覗き見か。わざわざ100年前の現代日本まで兵器を送り込んで、随分と必死じゃないか」
『フハハ、吼えるがいい。だが勘違いするな。東京湾と富士山のサンプルなど、我が全戦力の万分の一に過ぎん。貴様らがどれほど過去を足掻こうと、2120年の人類滅亡という結果は揺るがない。我らは直に、その原始魔導の源流ごと、貴様らの時代(2026年)を丸ごと刈り取りに行く』
「来るなら来い。その傲慢なシステムごと、次はお前の本隊をハックして消滅させてやる」
『楽しみに待っているぞ、時間の迷子よ。……神代、貴様には失望した。その役立たずの肉体、我が直々に“最終権限”を開放してやる』
ヴァルキアのホログラムが消滅した瞬間、神代の肉体に、未来の本隊からの強制オーバーロード(過負荷)が突き刺さった。
「ああああああああああああああああッッッ!!! ギャ、ガガガガッ!!」
神代の絶叫。
彼の皮膚が裂け、内側から黒い魔導合金の棘が何本も突き出す。肉体は肥大化し、顔面は機械のバイザーへと変形していく。それはヴァルキアの手によって、意思を持たない純粋な戦闘殺戮兵器――『神殺しの巨神』へと強制改造された、かつての友の成れの果てだった。
「ギ、シャァァァァァッ!! 小鳥、遊……殺、スズゥ……!!」
全長10メートルを超える異形となった神代が、空間そのものを一刀両断する黒界の巨刃を振り下ろす。
「ボス! 援護する!」
刹那が飛び出そうとするが、僕はそれを鋭い声で制した。
「誰も手を出すな! ――こいつは、僕の過去(因果)だ!」
僕は右腕の『零式・逆行天叢雲』を限界まで引き抜き、黄金の原始魔導エネルギーを刃へと収束させた。シンクロ率は、肉体の崩壊をも厭わない60%を突破する。
「神代……お前が未来の絶望に負けた気持ちは、僕にだって痛いほど分かる。……だが、だからこそ、最高司令官としてお前をここで止める。本当の救済(終わり)を、今ここでやる!」
ドォォォォォォン!!!
僕は地面を爆破するように踏み込み、神の如き巨躯へと変貌した神代剣司に向けて、一対一の極限決闘(神殺し)の幕を上げた。
――(第22話へ続く)




