【第22話:因果の調律――ウイルスとワクチンの双璧】
「リバースエンジニアリング(逆構造解析)が成功すると、成果物は二つ出来上がる。……ウイルスと、ワクチンだ」
神代の放つ黒界の巨刃が僕の頭上から振り下ろされる直前、僕の『零式・逆行天叢雲』が、これまでにない「二色の輝き」を放ち始めた。
未来の敵の寄生プログラムを解析して得た知識。それは、囚われた仲間を救うための「ワクチン」だけでは終わらない。
人道被害を抑え、仲間を救うためにワクチンを富士山の地下へ撃ち込んだ。ならば――僕の右腕に今残されているのは、敵のシステムそのものを根底から呪い、腐食させる最凶の「魔導回路破壊ウイルス」だ。
「神代。お前の肉体を弄んだヴァルキアのシステムごと、ここで強制終了させてやる」
ドガァァァァン!!!
空間を抉る暗黒の斬撃を、僕は『天叢雲』の「ワクチンの刃」で真っ向から受け止めた。
凄まじい衝撃波が富士山五合目を揺らす。しかし、僕の肉体はびくともしない。シンクロ率60%に達した僕の左腕――『レプリカント・ギア』の画面には、神代(巨神)の体内で暴走するヴァルキアの制御コードが、すべてリアルタイムで透視されていた。
「ギ、ガ、ガガガガガッ!! 小鳥遊……駆ぅぅぅぐわえごのぉぉっぉ!!」
「泣き叫ぶな、神代。お前の絶望の叫びは、もう前の世界に置いてきたはずだ」
僕は神代の巨刃を力ずくで弾き飛ばすと、空いた胸元の寄生中枢コアへ向けて、右拳を突き出した。
そこに宿るのは、黄金の光とは対極の、禍々しい紫黒のウイルスの光。
「――『ウイルス・リアクター』、強制注入!!」
ドォォォォォォン!!!
僕の拳が神代の硬質な装甲を貫き、その体内へとウイルスの奔流が直接流れ込んだ。
『警告。未知の論理ウイルスを検知。魔導回路の90%が破損。システム、強制シャットダウンを開始します――』
神代の巨躯を形成していた黒い魔導合金の棘が、内側からバキバキと音を立てて崩壊していく。ヴァルキアが仕込んだ非道なオーバーロードの接続コードが、ウイルスの猛毒によって一瞬で焼き切られたのだ。
「が、はっ……、あ……」
巨神の姿が霧散し、地面に転がったのは、元の生身の姿に戻った神代剣司だった。
その胸の寄生核は完全に消滅し、彼の瞳には、未来の裏切り者としての狂気ではなく、かつて僕と共に戦った「神術師」としての静かな光が戻っていた。
「……見事だ、最高司令官。俺の負け、だな……」
神代は血を吐きながらも、どこか晴れやかな顔で笑った。
僕は彼の前に膝をつき、その肩を掴む。
「神代、お前の体に残っていたヴァルキアの通信経路は、僕のウイルスで逆にハッキングさせてもらった。奴らが2026年の日本を刈り取りに来る『座標』も『タイミング』も、今すべて僕のギアの中に書き込まれたぞ」
「クク……そうか。なら、俺のこの無様な二周目も……少しは、役に立てたわけだ……」
神代の手から、完全に浄化された純白の原始魔導の光が溢れ出る。
彼はゆっくりと目を閉じ、深い眠り(仮死状態からの完全な解放)へとついた。死んだのではない。僕たちの作ったワクチンとウイルスが、彼の魂を絶望の呪縛から完全に救い出したのだ。
「――お疲れ様、神代。あとは、僕たちに任せろ」
僕は立ち上がり、富士山の上空で待機する『アーク・ノア』を見上げた。
そこには、救出された小岩井一佐をはじめとする数百名の未来の戦士たちが、僕の次の命令を待っている。
敵の総督ヴァルキア、お前が次に何を送ってこようと無駄だ。
ウイルスとワクチンの双璧を手に入れ、かつての仲間をすべて取り戻した僕たちに、もう敗北の未来は存在しない。
――(第23話へ続く)




