第2話:初戦無双――魂のシンクロ率0.01%の神撃
「ギ、ギギギ……ッ!」
空間の裂け目から這い出てきたのは、蜘蛛を模した鋼鉄の戦車。未来で人類を蹂躙した偵察型魔導兵器『スカウト・スパイダー』だ。
まだ完全な実体化前とはいえ、現代の兵器では傷一つつけられない強度の装甲を纏っている。
対する僕は、ただのブレザー制服を着た高校生。
肉体の魔導回路は未覚醒。本来なら、なす術もなく肉片に変えられる。
「……だが、お前たちの弱点なら、死ぬほど研究し尽くしたんだよ」
僕はカバンから、学校の理科室から事前にくすねておいた1本のピンセットと、100円ショップの強力マグネットを取り出した。
「ギチチチチ!」
スパイダーが赤く光る光学センサーを僕にロックし、超振動の鉄爪を振り下ろす。速度は時速100キロ超。常人の目には残像しか映らない。
だが、未来の戦場を生き抜いた僕の脳には、その軌道がスローモーションに見えていた。
「そこだ」
半歩だけ横にスライドし、刃先をミリ単位でかわす。
すれ違いざま、僕はスパイダーの関節の「隙間」――装甲の継ぎ目にある、わずか0.5ミリの冷却用スリットへ、ピンセットを躊躇なく突き刺した。
ガキッ!
「ギ、ジジ……ッ!?」
狙いは、動力源の制御弁。
未来の最先端技術で作られた兵器も、この2026年時点の初期ロットには、特定の磁気衝撃を与えるとシステムが1.5秒間フリーズするという致命的な初期不良(リコール対象)があった。それは数十年後の歴史教科書にすら載っている知識だ。
ピンセットの頭にマグネットをパチンと吸着させる。磁気電流が内部へと逆流した。
『システムエラー。魔導回路、一時停止』
スパイダーの動きがピタリと止まる。
「1.5秒。……僕の鈍った肉体でも、3回は殺せる時間だ」
僕は深く息を吸い込み、魂の最奥に眠る「未来の記憶」を無理やり引きずり出す。
全身の血管が沸騰するような激痛。脳裏に、かつて操った最強の対魔導機兵『零式』のOSが起動するビジョンが浮かぶ。
『魂の同調率上昇……3%。最低限の出力を許可します』
「はあああああッ!」
僕の右腕に、現代科学では説明のつかない青白い光の術式が浮かび上がる。
未来の戦闘術――魔導収束破『零式・烈衝』。
フリーズが解ける直前、僕はスパイダーの脳殻へ向けて、光を纏った拳を叩き込んだ。
ドォォォォン!!!
旧校舎の窓ガラスが一斉に激しく振動する。
3%とはいえ、未来の最高司令官の全力が乗った一撃だ。スパイダーの強固な装甲は内側から木っ端微塵に弾け飛び、鉄の屑となって床へ転がった。
「ふぅ……、ハァ、ハァ……!」
術式が消え、凄まじい疲労感が襲ってくる。
しかし、床に散らばる鉄屑の中心で、青く輝く「純度100%の魔導結晶」がゴロゴロと転がったのを見て、僕はニヤリと笑った。
現代にはまだ存在しない、超高エネルギー物質。
「これだけの純度があれば……数年後に開発されるはずの『個人用魔導端末』を、今すぐ自作できるな」
世界を救うための軍資金は手に入った。
僕が結晶を拾い上げたその時。
「――嘘、でしょ……? 駆君、なの……?」
旧校舎の入り口に、一人の少女が立っていた。
戸惑いと、信じられないものを見る目で僕を見つめている。
それは、未来の僕の『お目付け役』であり、人類滅亡の最後の瞬間まで僕の盾となって戦死した、未来の聖女――白銀 織絵だった。
しかし、今の彼女はまだ、ただの大人しいクラス委員長のはずで――。




