↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/23

プロローグ:終末の秒針が巻き戻る音

 普通の高校生活を毎日だらだらと、過ごしているだけのはずだった。


毎日が何の変化もなく過ぎていく情景…、


突如自分が経験するはずのない情報の奔流にのみ込まれた。


自分は今までの自分ではない。 


未来の自分の記憶を取り戻してしまったのだった。


---

 その瞬間、世界は完全にバグっていた。


「……あ?」


 灰色の脳細胞がカチリと音を立てて噛み合い、すべてのピースが狂ったように繋がり始める。


 小鳥遊(たかなし) 駆(かける)――それが今の僕の名前だ。


 都内の自称「進学校」に通う、成績中位、運動神経そこそこ、趣味は深夜アニメの視聴という、どこにでもいる平凡な高校二年生。

 はずだった。


「違う……。僕は、駆じゃない」

 激しい頭痛とともに、脳裏を焼き尽くすような「真実」の濁流が押し寄せる。

 網膜の裏側に、見たこともないはずの光景が、血の滲むような鮮明さで再生されていく。

 それは、超高層の摩天楼がすべてガラスの破片のように砕け散る、暗黒の未来。

 空を覆い尽くす巨大な機械仕掛けの異形――僕たちが『災厄(カタストロフ)』と呼んだ、人類を蹂躙する神の如き戦闘兵器群。


 そして、血と硝煙に塗れた戦場で、ぼろ雑巾のようになった仲間たちの死体を抱き締めながら、世界最後の魔導技術「時間遡行陣(クロノス・システム)」の光に身を投じた、一人の少年の姿。


 人類最高峰の対魔導機兵『零式(ゼロ)』の適格者にして、終末戦争の最高司令官。


 それこそが、僕の本当の正体。


 【二一二〇年・人類滅亡の未来】から、この【二〇二六年・すべての始まりの時代】へと、魂を巻き戻して転生してきた『観測者』。


「思い、出した……。そうか、僕は、あの地獄を覆すためにここにいるんだ」


 冷や汗が制服のシャツを濡らす。


 教室の窓の外を見上げると、抜けるような青空が広がっていた。あまりにも平和で、あまりにも残酷な、破滅前の静けさ。


 時計の針は、午後三時十五分。放課後を告げるチャイムが鳴り響く。


 未来の記録(データ)が正しければ、あと数分で、この世界に最初の『歪み』が生じる。


 のんびりとノートを片付けているクラスメイトたちを見渡す。彼らはまだ何も知らない。この日常が、どれほど脆い砂の城であるかを。


「おい駆、帰りにカラオケ寄ってかね?」

 声をかけてきたのは、悪友の佐藤だ。未来の戦争では、最初の三ヶ月で戦死した男。

 胸が締め付けられるような感傷を、僕は一瞬で押し殺す。今の僕には、感傷に浸っている時間すら残されていない。


「悪い佐藤、今日は急用があるんだ」


「あ? なんだよ、珍しいな。まあいいや、また明日な!」

 明日――その明日が、これまで通りにやってくるとは限らないんだ。

 僕はカバンをひったくるように掴むと、教室を飛び出した。

 向かうべきは、学校の裏手にある旧校舎。未来の歴史書に刻まれた、第一の破滅因子(トリガー)が顕現する場所だ。

 

走る。


 高校生の貧弱な肉体が悲鳴を上げるが、頭脳(スペック)はすでに未来の修羅場のそれへと切り替わっている。


「ステータス・チェック。魔導回路、未覚醒。魂の同調率(シンクロ)、わずか3%……クソ、これじゃあ『零式』の力は一ミリも引き出せない。だが――」


 旧校舎の重い扉を蹴り開ける。


 埃の舞う薄暗い廊下の奥で、空間がぐにゃりと歪んでいた。


 紫色の不気味な光を放つ、次元の亀裂。


 そこから、未来で何度も見た、あの『機械の獣』の鋭い爪が、今まさに現世へと踏み出そうとしていた。


 人類を滅ぼすカウントダウンは、今、この瞬間から始まる。

「待たせたな、鉄屑ども。お前たちの未来(ルート)は、ここで僕が叩き潰す!」

 二一二〇年の絶望を背負った一人の高校生が、世界を救うための「二周目の戦い」の幕を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。