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幕間:俺たちが戦う理由――日出ずる国の因果律

世界観と設定を少しご説明いたします。


 深夜。超大型クルーザー『アーク・ノア』の最深部、タクティカル・ルーム。

 人工知能が弾き出す冷却ファンの微かな駆動音だけが響く静寂の中、僕は一人、巨大なホログラムスクリーンに映し出された日本列島の3Dマップを見つめていた。


 画面上の日本は、無数の青い光の脈動――『龍脈(エーテル・ライン)』で覆い尽くされている。

 特に東京湾、フォッサマグナ、霊峰・富士の直下、そして不気味な赤い光を放つ鬼界カルデラ。それらの座標からは、現代科学の測定限界を遥かに超えたエネルギー波形が、今まさに地表へと噴出しようとしていた。


「――やはり、ここがすべての『起点』か」


 僕は左腕の『レプリカント・ギア』に、昨晩の神代との戦闘データ、そして救出した御堂綱臣の脳内から抽出した残響データを同期させる。


 導き出された結論は、僕の背筋を凍らせるに十分な、しかし圧倒的な説得力を持つ「真実」だった。


「遅くまで熱心だね、司令官(おにぃちゃん)」

 気配もなく部屋に入ってきたのは、温かいコーヒーの入ったマグカップを持った織絵だった。彼女は僕の隣に立ち、ホログラムが映し出す光の日本列島を悲しげに見つめる。


「近年起こった、能登半島の突如4メートルにも及ぶ異様な地殻隆起。そして、まるで意思を持つかのように急激な大陸化を始めた西ノ島……。これらは全部、偶然の自然現象なんかじゃなかったんだね」


「あぁ。この世界を作った始まりの島――『オノゴロ島』の再来。数万年の眠りから目覚めつつある、地球規模の超エネルギー『原始魔導(プロト・エーテル)』の噴出だ。未来の歴史書に隠されていた、地球の本当の構造(システム)さ」


 僕が画面をスワイプすると、歴史上の古い文献が次々と浮かび上がる。


 元寇の侵略を二度も退けた『神風』。朝鮮出兵の際に不自然に吹いた『追い風』。

「過去の日本で記録された、説明のつかない奇跡の数々。それらはこの土地自体が持つ、防衛型の意思を帯びた『因果の歪み』だったんだ。


日本という国そのものが、不完全な世界の魔導結界だった」

 ガチャリ、と重い自動扉が開き、刹那、麗華、そして昼間に救出したばかりの綱臣が姿を現した。全員、一様に真剣な面持ちをしている。


「……ボス。そこまでその『源流』とやらが明確になってるなら、聞かせてくれよ」

 刹那がガムを噛みながら、スクリーンを睨みつける。

「未来のあの鉄屑の親玉どもは、なんで100年近く前のこの国をピンポイントで狙ってきてやがるんだ?」


 僕は全員を見渡し、一拍置いてから、未来の絶望の核心を口にした。


「未来の分岐において、僕たちは純粋な科学技術の可能性を信じ、人の尊厳を保ったまま世界を守護しようとした。だが、敵対勢力は違った。彼らは『非道な人体改造』を肯定し、魂の領域にまで刃を入れ、人と機械を融合させた狂気の魔導技術を選択したんだ」


 僕の脳裏に、かつて戦場で見た敵の姿がよぎる。


 かつて人間だった面影を完全に失い、ただの戦闘兵器へと成り下がった狂信者たちの軍勢。

「未来の戦場で、彼らは僕たちの科学兵器に追い詰められた。あるいは、宇宙規模のさらなる暴力的進化を遂げるため、最も効率的な方法を選んだ。

――『すべてのエネルギーの源流が目覚め始める、2026年の日本』へと時空を超えて干渉し、根源から歴史を刈り取ることだ。奴らは、僕たちが生まれる前に、この国の原始魔導をすべて吸い上げ、人類の未来の芽を完全に摘むつもりなんだよ」

 

 静まり返る作戦室。

 

敵対勢力の正体は、未来で袂を分かった、人類の成れの果て。


「ふん……上等じゃねえか」

 沈黙を破ったのは、刹那の凶暴な笑い声だった。


「人体改造だか何だか知らねえが、他人の力を無理やりぶち込んだだけの鉄屑なんぞに、俺の天然物の雷が負けるわけねえだろ」


「お黙りなさい、刹那」

 麗華が冷徹に、しかしその瞳に確かな闘志を宿して一歩前に出る。


「西園寺の財力とわたくしの眼(スコープ)は、この国の美しき因果を守るためにありますわ。神風などという不確かな奇跡を待つまでもなく、わたくしたちの手で撃ち落として見せます」


「……俺の盾は、もう二度と突破させない」

 綱臣が、その大きな拳をギュッと握りしめる。


「閣下がこの国を護ると言うなら、俺は文字通り、この命に代えても世界の盾になりましょう」

 織絵が僕の顔を見て、優しく微笑んだ。


「みんな、理由は違っても、見据えている未来は同じだね、駆君」


「あぁ」

 僕は『レプリカント・ギア』を強く握り直す。


 ただの歴史の二周目ではない。これは、科学の誇りと、人の尊厳と、この日出ずる国が紡いできた不屈の因果律をかけた、絶対に負けられない思想の戦争だ。


「これより『アーク・ノア』は、日本各地の魔導噴出点の防衛、およびリソースの回収任務に移行する。――3ヶ月後の決戦(東京湾大侵攻)まで、1秒たりとも無駄にはしないぞ。行くぞ、みんな」

「「「「了解、司令官(ボス)!!」」」」


夜の東京湾。

 最強の5人の意志を乗せた黒き巨船は、静かに、しかし確かな咆哮を上げて、破滅の運命へと向け進路を取った。


――(第17話へ続く)

すみません、設定をある程度開示するために幕間を1話挟ませて頂きました。

重厚な世界観が語られる内容となってしまいましたが、これにより、日本各地の怪現象や歴史、敵の求めるもの、そして敵の「非道な人体改造」という恐るべき正体が完全に繋がりました。

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