第16話:狂気の檻と、錆び付いた盾(イージス)
深夜二時、特務魔導防衛局・第三特殊医療施設。
地下四階の最深部に位置する隔離区画の空気は、肌を刺すような高密度の重力波で歪んでいた。
「――っ、なんて重圧……! これ、全部綱臣君の魔力なの……!?」
織絵が『アーク・ノア』から持ち込んだ携帯型結界機を構え、押し寄せる不可視の圧力を必死に防ぎ止める。
僕たちは麗華のハッキングで警備システムを完全掌握し、一歩も戦闘を行わずにこの絶対隔離独房の前まで辿り着いていた。
パァンッ!
厚さ50センチの防魔チタン扉を、僕は『レプリカント・ギア』の強制認証コードで蹴り開ける。
室内にいたのは、全身を幾重もの拘束衣で縛られ、虚空を血走った目で睨みつける大柄な少年――御堂綱臣だった。
「来る……、また『敵』が来る……! 防壁を展開しろ、防壁をォォォッ!!」
ドゴォォォォン!!!
彼の絶叫とともに、拘束衣を焼き切るほどの圧倒的な土色の魔力が爆発した。
前の世界で『不死身の盾』と呼ばれた彼の能力が、狂気によって暴走し、独房の壁を内側から押し潰そうとしている。現代の局員では近づくことすら叶わなかった理由がこれだ。
「おいボス! こいつマジで正気じゃねえぞ! ぶっ叩いて気絶させるか!?」
刹那が腕に雷撃を宿すが、僕はそれを手で制した。
「無駄だ。今の彼は、脳内で『終わらない滅亡戦争』を無限にループ再生している。肉体を止めても、魂が恐怖で焼き切れる。……僕がこいつの精神に直接潜る」
僕は一歩前に踏み出し、暴風のような重力波を真正面から浴びながら、綱臣の額へと右手を伸ばした。
「『レプリカント・ギア』、精神同調コード起動! 魂のシンクロ率を一時的に30%へ固定。――御堂綱臣の精神世界へ、強制介入する!」
視界が、真っ白な閃光に包まれた。
◇
気がつくと、僕は血と硝煙に塗れた「あの終末の戦場」に立っていた。
空は赤く染まり、無数の魔導兵器の残骸が転がっている。
その中心で、ボロボロになった巨大な盾――『グラン・シールド』を構え、一人で世界の終わりを防ごうと泣き叫んでいる綱臣の精神体がいた。
「無駄だ……、俺じゃ護りきれない……! 閣下も、織絵も、刹那も、麗華も……みんな俺の盾の裏で死んじまったァァッ!」
前の世界で、仲間を護りきれずに全滅した記憶。それが彼の狂気の正体だ。
彼の背後から、精神世界が作り出した幻影の巨大兵器『リヴァイアサン』が、漆黒の熱線を放とうと顎を開く。
「――御堂、目を覚ませ」
僕は神速で綱臣の前に割り込み、その漆黒の熱線を右腕の魔導術式『零式・烈衝』で真っ向から叩き伏せた。
爆音の中、驚愕の目で僕を見上げる綱臣。
「か……閣下……? なんで……あなたはあの時、俺の目の前で……」
「それは『前の周回(過去)』の話だ、御堂」
僕は彼の分厚い肩を、両手で強く掴んだ。
「お前は誰も見捨てていない。お前の盾は、最後まで僕たちの誇りだった。そして今、僕は生きている。お前をもう一度、あの地獄から引きずり出すために、未来から戻ってきたんだ」
「あ……、あ……」
「一人で背負うな。二周目の世界には、もうすぐ刹那も織絵も麗華も揃う。お前の盾の裏で、今度は誰も死なせない。……だから戻ってこい、僕たちの『盾』!」
僕の『レプリカント・ギア』が黄金の光を放ち、綱臣の狂った精神データを力ずくで上書き(リカバリー)していく。
リヴァイアサンの幻影が、ガラスのように粉々に砕け散った。
◇
「ハッ――!?」
現実の隔離独房。
綱臣の瞳から血走った狂気が消え、濁っていた茶色の瞳に、本物の「知性と記憶」が戻ってきた。
全身の暴走していた重力魔力が嘘のように凪いでいく。
大柄な体がグラリと揺れ、彼は自分の大きな手を見つめ、それから僕の顔を真っ直ぐに見た。
「……遅いですよ、閣下。……待ちくたびれました」
その声には、もう狂気の破片など微塵もなかった。
かつて僕が最も信頼した、人類最強の不動の防壁。その魂が、今完全に覚醒した。
「待たせたな、御堂。……さあ、僕たちの家へ帰ろう」
これで5人。
3ヶ月後の『第一次・東京大侵攻』を完璧に叩き潰すための、真のドリームチームがここに集結した。
――(第17話へ続く)
4人目の適格者・御堂綱臣の救出に成功し、ついに初期の主要メンバーが全員揃いました!
いよいよ物語は、3ヶ月後の大決戦に向けた「最終準備編」へと突入します。
皆様のご意見やここ変だったなど、お話を聞かせてくださればありがたいです。
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17話もお楽しみに!




