第15話:裏切りの残滓と、忘却の守護者
神代剣司との激闘から一夜明けた。
超大型クルーザー『アーク・ノア』の最深部にある作戦司令室では、大型ホログラムスクリーンに神代の残した魔力波形データが立体的に解析されていた。
「――おかしいですわね。神代の闇の魔力、その根底にある術式構成が、局のものとも、前の世界の人類の技術とも一致いたしませんわ」
麗華がキーボードを叩きながら、美しい眉をひそめる。
僕は血を吐いた神代の残滓を『レプリカント・ギア』で読み込み、その「謎」の核心に迫っていた。
「やはりな……。神代が前の世界で人類を裏切ったのは、単なる恐怖や保身じゃない。こいつの魔導回路には、すでに2026年の現時点で、未来の敵『災厄』の自律プログラムが深く寄生している」
「えっ……? じゃあ、神代君は自分の意志じゃなくて……」
織絵が息を呑む。僕は首を横に振った。
「いや、寄生を受け入れたのは彼の意志だ。神代はタイムスリップの際、おそらく僕たちよりも遥かに古い『過去のタイムライン』に漂着した。そこで数年間、孤独にアノマリーと戦い続け、精神が摩耗したところで『世界の滅亡という確定した未来』を覆すために、敵の力を取り込むという禁忌の選択をしたんだ」
「ハッ、絶望に負けて敵の力に頼ったってわけか。どこまでもヘタレな男だぜ」
刹那が腕を組みながら吐き捨てる。
神代の狙いは、因果律を書き換えようとする僕たちを排除し、彼が敵から与えられた「偽りの救済ルート」を完遂すること。戦うべき理由は、より明確になった。
「神代の謎は追うが、僕たちには時間がない。3ヶ月後の『第一次・東京大侵攻』を止めるため、4人目の適格者を今すぐ戦列に加える必要がある」
僕はホログラムの画面を切り替え、都内のとある精神医療施設のマップを表示した。
「御堂 綱臣。前の世界で、リヴァイアサンの直撃をその身に受けてなお立ち塞がった、人類最強の重装甲兵――『不死身の盾』だ。だが……」
「だが、何なんだよボス?」
「今の彼は、防衛局の特殊医療施設に隔離されている。アノマリーの精神汚染を受け、『未来の記憶が狂気として覚醒し、精神崩壊を起こした』と診断されてな」
独房の監視カメラ映像。そこには、体中に拘束具を巻き付けられ、虚空を睨みつけながら「敵が来る、防壁を展開しろ!」と叫び続ける、大柄な少年の姿があった。
「そんなのってないよ……。未来を必死に守ろうとした記憶のせいで、狂人扱いされてるなんて……!」
織絵が胸を押さえて痛ましそうに呟く。
「局の連中には彼の叫びが『妄想』に聞こえるが、僕たちには『本物の戦術予報』だと分かる。神代が動けない今のうちに、局の施設から綱臣を強奪し、その魂を正気に戻す」
『アーク・ノア』の主機関が、超伝導ドライブの重低音を響かせ始める。
裏切り者の哀しき真実を知った僕たちは、新たな仲間をその絶望の底から救い出すため、夜の東京へと静かに舵を切った。




