第14話:百八十秒の激突――絆が紡ぐ因果超え
「――ハハッ、死ねよ小鳥遊!」
神代の漆黒の刀身が、大気を腐食させながら僕の喉元へと肉薄する。
時速数百キロを超える絶技。だが、シンクロ率を50%まで強制解放した僕の『観測眼』は、その軌道を完全に捉えていた。
「遅いな、神代。前の世界の君は、もう少し骨があったぞ」
僕は半身をひるがえし、ミリ単位で刃をかわす。同時に、右腕に収束させた青白い光刃――魔導収束破
『零式・烈衝』を、神代の無防備な脇腹へと叩き込んだ。
ドガァァァァン!!!
「ぐっ……!? クソが、肉体はただの高校生のはずだろうが!」
埠頭のコンクリートを削りながら後退する神代。
シンクロ率50%。それは未来の僕の戦闘技術を完全に再現する領域だ。
彼の剣筋、足運び、呼吸のタイミング――すべてが数手先まで僕の脳内にデータとして流れ込んでくる。
僕が追撃を仕掛け、光の拳と漆黒の二刀が目にも留まらぬ速さで火花を散らす。
残り時間、120秒。
圧倒している。未来の戦闘技術の「格」で言えば、僕のほうが一枚上手だ。
だが、冷徹な演算脳が最悪の事実を弾き出していた。
(――不味いな。僕の肉体が、この出力に耐えきれていない)
ピキ、ピキと僕の右腕の血管が悲鳴を上げ、皮膚から血が滲み始める。
魂が50%同調していても、器である2026年の肉体はただの高校生。このままでは、神代を削り切る前に僕の肉体が内側から崩壊する。
「ククク……気付いたようだな、小鳥遊! お前の肉体はもう限界だ!」
神代がその隙を見逃さず、二振りの刀を十字に構えた。
彼の全身から、周囲の光すら吸い込むような絶対的な闇の魔力が膨れ上がる。
「これで終わりだ! ――『黒界・絶刃獄』!!」
全方位を覆い尽くす漆黒の斬撃の嵐。僕の肉体では、もうこれをすべて回避する機動力は残されていない。
残り時間、60秒。
僕が迎撃の術式を最大展開しようとした、その時だった。
「――させるかよぉぉぉッ!!」
埠頭の空を、青白い巨大な雷撃が引き裂いた。
刹那だ。
特訓の成果をぶつけるように、限界まで収束された一筋の雷霆が、神代の足元のコンクリートへ直撃する。
「チッ、ただの電撃など――」
「ただの電撃ではありませんわ、裏切り者さん?」
上空の『アーク・ノア』の甲板から、麗華の声が響く。
刹那の雷撃が爆発した瞬間、神代の周囲に立ち込めた煙に、麗華が放った特殊な魔導弾――『氷結の散弾』が混ざり合った。
急激な超高温(雷撃)から超低温(氷結)への変化。
熱膨張の原理により、神代が足場にしていたコンクリートが一瞬でガラスのように脆くなり、大崩落を起こした。
「何っ……!? 足場が――」
「――『束縛せよ(アイアン・バインド)』!!」
さらに間髪入れず、織絵が放った純白の光の鎖が、バランスを崩した神代の両手首を強固に縛り付ける。
わずか1秒。前の世界の全盛期には遠く及ばない、今の3人が現代の知識と機転をフルに活かして繋いだ、奇跡の「1秒の隙」。
「……よくやった、みんな」
残り時間、15秒。
僕は血の滲む右腕を天へと掲げ、ギアの全エネルギーをそこに注ぎ込んだ。
「二周目の世界を、お前のような絶望に塗れた奴に渡すわけにはいかない。……消え失せろ、神代」
未来の最大奥義のレプリカ――『零式・天聖烈衝(てんせいれّしょう)』。
僕が振り下ろした光の巨刃が、神代の闇の斬撃ごと、彼の肉体を真っ向から叩き潰した。
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!
東京湾の海面が大きく割れるほどの衝撃。
光が収まったとき、神代の二振りの刀は粉々に砕け散り、彼は激しく血を吐きながら埠頭の縁へと倒れ込んでいた。
「がはっ……、ば、馬鹿な……。前の世界でお前のお荷物だった有象無象どもが、これほどの……っ」
「前の世界とは違うと言ったはずだ。僕たちはもう、誰も失わない」
神代は忌々しげに僕たちを睨みつけると、懐から煙幕の魔導具を炸裂させ、そのまま海へと飛び込んで姿を消した。深手を負わせた、しばらくは動けないはずだ。
ピピッ――。
『リミッター解除終了。魂の同調率、3%へ帰還』
「うぐっ……」
緊張が切れ、僕はその場に膝をついた。
すかさず織絵が駆け寄り、僕の身体を優しく抱きとめる。
「駆君! 無茶しすぎだよ!」
「いや……みんなのおかげで助かった。最高の援護だったぞ」
タラップを降りてきた刹那と麗華が、不敵に笑う。
「ハッ、当然だろ。俺たちを誰だと思ってやがる、ボス」
「閣下の背中をお守りすることこそ、わたくしたちの誇りですわ」
最強の宿敵を退け、真の意味で一つになった僕たちの絆。
3ヶ月後の『第一次・東京大侵攻』に向けて、僕たちの反撃の準備は、いよいよ最終段階へと突入する。




