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第13話:百億の揺り籠と、局(ビューロー)の『最高傑作』

「これで、お金の心配は一切必要なくなりましたわね、閣下?」

 聖白百合女学院の一件から数日後。


 僕たちは東京湾の私設埠頭に停泊する、全長120メートルを超える超大型ラグジュアリー・クルーザーの甲板にいた。


 西園寺麗華が「わたくしの個人資産の端金(はしたがね)ですわ」と微笑みながら提供してくれた、西園寺財閥秘匿の最高級船舶だ。


 僕と織絵、そして刹那は、その船の広大な格納庫へと足を踏み入れる。

「よし。織絵、船体全体を覆う多層隠蔽結界の構築を。刹那、船の主機関(エンジン)に、お前の雷撃による常時超伝導ドライブ・コードをリンクさせろ」


「了解、駆君!」


「ハッ、このデカブツを丸ごと俺の雷で動かせってか? 最高にイカれてんじゃねえか、ボス!」

 僕は『レプリカント・ギア』をクルーザーの統合制御システムへと接続し、未来の魔導工学データを一流しした。


 財閥の圧倒的な資金力で買い漁った最先端のサーバー、超高精度センサー、そしてレアメタル。それらが僕のハッキングと錬成によって融合していく。


 現代のレーダーには決して映らず、海中・海上をマッハで移動し、内部には最先端の魔導兵器開発プラントを備えた最強の移動式拠点(モバイル・セーフハウス)『アーク・ノア』がここに完成した。


「これで防衛局の連中も、僕たちに手出しはできない。……さて、麗華。4人目の『適格者』の居場所は掴めたか?」


「ええ。ですが閣下、どうやら一足遅かったようですわ」

 麗華が結晶銃の照準器(スコープ)を覗き込みながら、冷たい声で警告を発した。


「埠頭の入り口に、不穏な影が一つ。……防衛局の旧型(おもちゃ)とは、流れる魔力の質が違いすぎますわね」


「――何?」


 僕は格納庫を出て、クルーザーのタラップへと向かった。

 潮風が吹き抜ける無人の埠頭。コンテナの影からゆっくりと歩み出てきたのは、一人の男だった。


 漆黒のロングコートをなびかせ、腰に二振りの刀を帯びている。

 その男の顔を見た瞬間、僕の脳裏に警報が鳴り響いた。


 神代(かみしろ) 剣司(けんじ)。


 特務魔導防衛局が誇る最高ランクのエージェントであり、未来の世界では、人類滅亡のトリガーを引いた『災厄(カタストロフ)』の側に寝返った、人類史上最悪の裏切り者(トレイター)。


「見つけたぞ、時間の迷子たち。いや――最高司令官、小鳥遊駆」

 神代が不敵に歪んだ笑みを浮かべる。その目は、明らかに僕たちと同じ「未来の記憶」を宿していた。


「お前……記憶を取り戻しているのか。局(ビューロー)の最高戦力として、僕たちを潰しに来たか」


「ククク……。局の犬などという安い身分と一緒にするな。俺はあの『絶対的な絶望』を二度と味わいたくないだけさ。だからこそ、この時代で世界の因果律を乱すお前たちを、ここで確実に『間引く』」

 神代がゆっくりと右の刀を抜く。

 その刀身から放たれたのは、空間そのものを腐食させるような、禍々しい漆黒の魔力波(ダーク・エーテル)。


「お前たちの未来(ルート)は、ここで俺が絶つ」


「おいおいボス、面白そうな奴が来たじゃねえか。俺が消し炭にして――」

 刹那が前に出ようとするが、僕はそれを強い手調子で止めた。


「下がれ、刹那。今のお前たちじゃ、一瞬で首を跳ねられる。……こいつの相手は、僕がやる」

 僕は左腕の『レプリカント・ギア』の文字盤を激しく叩き、全リミッターを解除した。


『警告。魂の同調率(シンクロレート)を一時的に引き上げます。45%……50%。身体負荷限界突破。持続時間、180秒』


「神代……。前の世界でお前に突き立てられた背中の傷、まだ痛むんでね。二周目の決着を、今ここでつけよう」

 僕の右腕に、かつて世界を統べた司令官の、本物の魔導術式が脈動を始める。


 最強の移動拠点を手に入れた直後、未来の最凶の宿敵との、命を賭けた極限の決闘(デュエル)が幕を開けた。

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