第12話:氷の女王の覚醒――超長距離の一撃(スナイプ)
麗華が記憶を取り戻した直後、学校の敷地内に「空を飛ぶ新種のアノマリー」が襲来し、彼女が初の実戦に挑む
「――あ、ああ……っ!」
ステンドグラスから差し込む光の中で、西園寺麗華は古銃を落とし、その場に膝をついた。
美しい黒髪をかきむしり、その瞳が激しく明滅する。
『レプリカント・ギア』が流し込んだ未来のハッキング・コード。
それが彼女の脳内で眠っていた「2120年の絶望」を爆発的に呼び覚ましていた。
降り注ぐ火の雨。壊滅する都市。そして――最高司令官である僕の指揮の下、最後の一発が尽きるまで敵を撃ち抜き続けた、誇り高き『氷の女王』としての自分。
「わたくしは……最高司令官(閣下)と共に……最期まで……」
「思い出したか、麗華」
僕が声をかけたその瞬間、時計塔の床が激しく鳴動した。
キィィィィィィィィン――ッ!!!
鼓膜を突き刺すような、金属質の不快な咆哮が聖白百合女学院の上空に響き渡る。
窓の外を見上げると、抜けるような青空に「黒い染み」が広がっていた。空間の裂け目から這い出てきたのは、全長10メートルを超える飛行型の新種魔導兵器――『スカイ・レイ(天空の毒針)』だ。
「ギ、シャァァァァァッ!」
それは巨大なエイのような姿をしており、その尾の先端には、校舎を一撃で消し飛ばすほどの高エネルギー熱線砲が備わっている。
すでに尾の先端が、赤く禍々しく発光し始めていた。狙いは、生徒たちが避難を始めている下の校庭だ。
「チッ、おいボス! 上空のデカブツだ、俺の雷じゃ間合いが遠すぎる!」
刹那が歯噛みする。まだシンクロ率12%の彼では、あの高度まで有効な打撃を与えるのは難しい。
「麗華」
僕は床に転がっていた古銃を拾い上げ、彼女の前に差し出した。
「前の世界で、お前は僕の最高の『目』であり、最強の『遠距離砲』だった。あの鉄屑が、僕たちの仲間(生徒たち)を殺すのを見過ごすか?」
麗華の肩がピクリと跳ね上がる。
彼女はゆっくりと顔を上げた。その瞳からは、先ほどまでの困惑や恐怖が完全に消え去っていた。宿っているのは、絶対的な冷徹さと、気高いまでの自負。
「――寝言は、寝てからおっしゃいなさい、鉄屑風情が」
麗華は凛とした動作で立ち上がり、僕の手から古銃をひったくるように掴んだ。
その瞬間、彼女の全身から群青色の魔力が立ち上り、ただのアンティークだった古銃へと流れ込む。
古銃の銃身が引き延ばされ、現代の科学を凌駕する幾何学的な結晶のロングバレルへと、瞬時に錬成(変形)されていく。
「閣下。わたくしの初陣の戦術指揮、いただけますわね?」
「当然だ。ターゲットは上空800メートル。尾のエナジー・バルブだ。あそこがお前の磁気電流を受け付ける唯一のバグ(弱点)だ」
僕は『レプリカント・ギア』を操作し、麗華の弾丸に僕の魔導ハッキング・コードを同期させた。
「織絵、時計塔の全窓を開放! 刹那、麗華の弾丸に1割の電撃を収束させろ! 麗華の魔力波形に同調させるんだ!」
「了解!」
「おう、最高の弾丸にしてやるよ!」
織絵が腕を振ると、ステンドグラスの窓が一斉に外側へと跳ね上がった。
刹那が麗華の構える結晶銃の銃口へと、青白い高圧の雷撃を優しく、しかし超高密度で巻き付け、弾丸の「推進力」へと変換する。
麗華は窓辺に立ち、風に黒髪をなびかせながら、限界まで進化したその「異常視覚」で、800メートル上空の標的を完璧に捕捉した。
「西園寺流魔導狙撃術――『氷結の魔弾』」
空中の『スカイ・レイ』が、地上に向けて熱線を放つ、まさにその0.1秒前。
麗華は一切の躊躇なく、引き金を引いた。
――ズギャァァァァァンッッッ!!!
時計塔が揺れるほどの衝撃波とともに、青雷を纏った群青色の魔弾が放たれた。
弾丸は音速の壁を幾重にも突き破り、一瞬で800メートル上空の異形へと到達。尾のエナジー・バルブへ寸分の狂いもなく突き刺さった。
ハッキング・コードが内部システムを瞬時にバグらせ、エネルギーが逆流する。
「ギ、シャ……ッ!?」
ドガァァァァァン!!!
『スカイ・レイ』は熱線を放つ前に、自らのエネルギーで内側から大爆発を起こし、大空で一輪の巨大な炎の花となって霧散した。校庭の生徒たちには、ただの「派手な雷」としか見えなかっただろう。
硝煙が漂う時計塔の中で、麗華はふぅ、と小さく息を吹きかけ、銃身を消滅させた。
そして、完璧なお嬢様の礼を僕に向けてみせる。
「お待たせいたしました、閣下。西園寺麗華、これより再び、あなたの軍門に下りますわ」
これで4人。
破滅のタイムラインを書き換えるための、僕の『最強の特殊部隊』が形を成し始めた。
天才スナイパー・麗華が加わり、空中戦すら圧倒する布陣が整いました!




