第11話:百合の園の狙撃手――お嬢様学校潜入作戦
都内屈指の超お嬢様学校に潜入し、未来の「天才魔導狙撃手」である令嬢をスカウトする
「……おいボス。何で俺までこんな格好しなきゃならねえんだよ」
都内屈指の超お嬢様学校『聖白百合女学院』の正門から少し離れた路地裏。
金髪を無理やり黒染めスプレーで落ち着かせ、どこかの学校の小綺麗な詰襟制服を着せられた刹那が、死ぬほど不機嫌そうな顔で自分の襟元を引っ張っていた。
「変装だ。僕たちの痕跡は『レプリカント・ギア』で消しているが、お前のその見た目は因果律以前に不審者として通報される」
「駆君、刹那君、静かに! 警備員がこっち見た!」
本物の『聖白百合』のセーラー服に身を包んだ織絵が、鋭く僕たちを制する。
元々お嬢様然とした雰囲気のある彼女は、この場に完全に溶け込んでいた。
彼女が事前に内部の構造を偵察し、僕たちを招き入れる手筈になっている。
「ギア、ターゲットの座標を」
僕が左腕の画面をタップすると、敷地内の詳細な3Dマップが浮かび上がった。
最奥にある時計塔の最上階に、赤い光点が静かに灯っている。
「間違いない。西園寺 麗華。西園寺財閥の令嬢にして、未来の世界では10キロ先の針の穴をも撃ち抜いた人類最強の天才魔導狙撃手だ」
だが、未来の彼女は重厚な魔導ライフルを抱え、冷徹に引き金を引き続ける「氷の女王」だった。今の彼女はまだ、ただの世間知らずな最高級お嬢様のはず。
「作戦開始だ。織絵は正面から生徒として侵入し、時計塔の結界を解除。僕と刹那は裏手の死角から侵入する」
僕たちはギアの隠蔽機能を起動し、音もなく高い塀を飛び越えた。
緑豊かな校庭を抜け、歴史ある時計塔の内部へと潜入する。
織絵が事前にセキュリティの術式を眠らせてくれたおかげで、1つの罠にも触れずに最上階の扉へと辿り着いた。
重厚なオーク材の扉を、静かに押し開ける。
そこに広がる礼拝堂のような空間の中心。
大きなステンドグラスから差し込む光を浴びながら、一人の少女が、繊細な彫刻が施されたアンティークな「フリントロック式の古銃」を構えていた。
長い黒髪を揺らし、凛とした姿勢で銃口を向けている先は――僕たちの額、寸分の狂いもない正確さ。
「……そこまでです、不審者の方々。わたくしの結界を破り、ここまで足音一つ立てずに侵入してくるなど、ただの泥棒ではありませんわね?」
鈴を転がすような、しかし凛烈な声。
麗華の瞳には、現代の女子高生にはあるまじき、鋭い「猟犬」の光が宿っていた。
「おいおい、気づかれてんじゃねえか、ボス」
刹那がにやりと笑い、指先を鳴らそうとする。
「待て、刹那」
僕は一歩前に出た。彼女の構える古銃から、現代の火薬の匂いはしない。代わりに、密度の高い、しかしひどく乱れた魔力の波動を感じ取っていた。
「西園寺麗華。その銃じゃ、僕たちの髪の毛一本すら掠めない。お前はまだ、自分の『本当の視界』に恐怖しているはずだ」
「――っ! なぜ、それを……!?」
麗華の美しい眉が跳ね上がる。
天才スナイパーの才能を持つ彼女は、覚醒前である今この瞬間も、「数キロ先の光景や、他人の魔力の流れが強制的に見えてしまう」という異常視覚に苦しんでいるはずなのだ。現代の医者には「精神の病」と片付けられる、彼女だけの孤独な秘密。
「お前は病気じゃない。その目は、数ヶ月後に現れる人類の敵を打ち抜くための、神から与えられた照準器だ」
僕は真っ直ぐに銃口へ向かって歩き、その銃身の先端に、僕の『レプリカント・ギア』を優しく触れ合わせた。
「未来のハッキング・コード(リミッター)を一時開放。……お前のその『目』の正しい使い方を、今ここで教えてやる」
ギアから放たれた青い光の粒子が、彼女の古銃と、そして彼女の瞳へと吸い込まれていく。
その瞬間、麗華の脳裏に、かつて僕と共に戦場を駆けた「戦慄の未来」の記憶が、濁流となってフラッシュバックを始めた。
「あ……、あ、ああ……っ!」
未来の天才狙撃手の魂が、2026年の今、強制的に覚醒の産声を上げようとしていた。
4人目のメンバー候補、天才スナイパーの麗華と接触しました! 第12話では、記憶を取り戻しつつある彼女をチームに引き入れ、その圧倒的な狙撃能力を現代で初めて解放させるシーンへと移ります。




