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森と精霊探しと迷子

 人間の学園に入学してから、あっという間に2週間が経った。最初はわからないことだらけだった授業にも少しずつ慣れた。ミアと一緒にご飯を食べたり、寮で勉強したりする日々を過ごしている。いろんなことを学んだし、治癒魔法の発音もよくなったはずだ。多分。

 そして今日は――いつもの教室にはいない。


「わあ……! すっごく広い森!」

 わたしたち聖女科の1年生は、授業のために学園近くの森に来ている。

「はい。今日は『精霊探し』の授業を行います」

 魔物学の先生は、生徒全員を森の開けた場所に集めて話をする。こんな風に教室の外で授業をやるのは初めてだ。

「皆さん。精霊というものをご存じですか?」

 先生がわたしたちに問いかける。ちらり、と隣を見るとミアは首を横に振ってくれた。どうやらわたしと一緒で、あまり知らないみたい。

「古来から人間は精霊と契約することで、力を貸してもらっていました。魔物と協力関係にある精霊は未だ観測されていないため、ほとんどいないと考えられています。」

 なるほど。どうりで魔王領にいた頃も精霊を見かけたことがないわけだ。おそらく、人間の国にしかいない生き物なんだろう。


「――精霊は様々な姿をしています。小動物の姿をしているもの。虫に近い姿をしているもの。高位の精霊には人型の姿のものもいるとされています」

 先生は周りの生徒の様子を見ながら続ける。

「どなたか、知っている精霊の名前がわかる人はいませんか?」

「はい!」

 先生の正面にいた子が手を挙げる。よく通る声と、きらびやかなツヤのある金髪。確か名前は……。

「ユニコーンですわ! 先生」

「正解です。エレオノーラさん、お見事です。」

 そうだ。エレオノーラ・グランフェルト。よく知らないけれど、貴族の生まれでいつも自信満々な子だ。

 

「高位の精霊で有名なのはやはり、ユニコーンですね。しかし、彼らは気高く、人や魔物の前では姿を隠すという逸話もあります」

 先生に指定された教科書のページを開くと、額に1本の角が生えた白い馬の挿絵が載っていた。なんだかとっても強そう。

「初代聖女様はこのユニコーンに跨って、人々を救ったという伝説が残っています。」

(初代聖女様か……どんな人だったんだろう)

 聖魔法の教科書の表紙にも描かれている美しい初代聖女様。すごい人だということは何となくわかるけれど、詳しいことはまだ知らない。


「今日皆さんにやっていただくのは精霊を探して、私が待つスタート地点に帰ってきてもらうことです」

 先生が説明した内容によれば、この森にはたくさんの精霊がいるらしい。

「連れてくる方法は問いません。交渉しても、契約を行うのも可とします。捕まえるのは……オススメしません。精霊はすぐ逃げてしまいますからね」

 先生が冗談交じりにそう言うと、生徒たちの間からくすくすと笑い声が聞こえてきた。

「ルールは簡単です。今から一定時間おきに鐘を鳴らします。4度目の鐘が鳴るまでに、ここに精霊を連れてくること。わかりましたか?」

「……それから、赤い紐を結んだ木より奥には絶対に入らないでください。危険な魔物が生息している可能性がありますからね」


 ――こうして『精霊探し』の時間が始まった。

「エレオノーラさん。私たちと一緒に精霊を探しに行きません?」

「いいえ。結構です。わたくしは一人で探しに行きますわ!」

 エレオノーラはそう宣言すると、他の子たちを振り返ることなくそのまま立ち去ってしまった。

「なんだったんだろう……あれ」

「なんだか気の強そうな子だよね」

「私たちは一緒に探さない?」

「うん。そうだね。そうしよう」

 わたしはミアに誘われて、二人で探すことにした。


「精霊……精霊……どこにいるのかな?」

 木の裏側、色鮮やかな花の中、あちこち覗いてみるが、それらしいものは見えない。

(さすがに石の下にはいないと思うけど……念のため!)

 ひっくり返してみたが、やっぱり見つからなかった。

「ミアはどう? 精霊見つかった?」

 わたしは後ろを振り返る。すると、キラキラと光る蝶のような精霊がミアの周りを飛び回っているのが見えた。

「すごい! もう見つけちゃったの? まだ鐘がひとつも鳴ってないのに!」

「きっと運がよかったのかも。この子の方から飛んできてくれたの」

 ミアは嬉しそうに笑っている。


「ごめんね……リリン。私、この子がついてきてくれないか頼んでみる。一人でも探せそう?」

 ミアは心底申し訳なさそうな顔でわたしを見た。これ以上わたしに付き合わせたら、二人とも『精霊探し』に失敗しちゃうかもしれない。だから胸を張って答える。

「大丈夫だよ! 絶対上手くやるから!」

 そう言ったはいいものの、一向に精霊が見つからない。すでに多くの生徒が精霊に出会っているようで、あちこちから賑やかな声が聞こえてくる。

(うーん……みんながまだ探してないところを探す方がいいのかな?)

 わたしは悩みながら歩き続けた。


 何度か、近くの草むらが揺れるのが見えた。その度にわたしは慌てて覗き込むのだが、何も見えない。そうこうしているうちに、1回目の鐘の音が聞こえてくる。

(どうして見つからないんだろう……わたしが魔族だからかな)

 考えれば考えるほど、焦りと不安が追いかけてくる。だから、わたしは頬を軽くパンと叩いて気合を入れた。

「ミアに上手くやるって言ったんだもん! 自分の力で何とかしなきゃ!」


 そうして……気が付けばかなり奥の方まで来てしまったようだ。

(先生は『赤い紐を結んだ木より奥には絶対に入らないでください』って、言ってたけど……少しくらいならいいよね?)

 視界の端に見えた赤い紐を見て、わたしは考える。だって精霊を見つけずに帰るわけにはいかない。手ぶらで帰ったら退学って言われちゃうかもしれないし。

 自分に「これは仕方のないことだから」と言い聞かせて先に進む。ちょっとだけならバレないはず!

 そのつもりだったのだが――。


 ゴォーン――。

 遠くから、また鐘の音が聞こえてきた。

「……あれ? 今ので2回目?」

 どうしよう。まだ一匹も見つけてないのに! これじゃすぐに時間切れになっちゃう!

「……それにしても、この木ってさっきも見かけたような」

 なんだか同じところをぐるぐる回っている気がする……。

「もしかして……迷っちゃった⁉」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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