迷子と遭遇と野望
間違いない。同じところをさっきも通っている。わたしは木の根のそばにある、十字に重ねた枝を見てため息をついた。これはついさっき、自分で置いた目印だ。
「どうしよう……入っちゃいけない場所で迷子になったなんて……先生には言えないよ……」
『精霊探し』で成果が挙げられなかったら怒られるだけで済むかもしれないけれど、こんなことがバレたら退学になってしまう。うん、絶対そう。
どれも同じような見た目の木々をぼんやりと眺めて途方にくれていると、急に森の奥からガサガサと大きな音が聞こえてきた。
……なんだろう。
振り返るが姿は見えない。しかし、音は少しずつ大きくなっていく!
「誰⁉」
先生の『危険な魔物が生息している可能性がありますからね』という言葉が頭をよぎった。
(もしかして魔物⁉ 助けて姉様!)
「なんだァ? 変わった匂いがすると思ったら魔族じゃねえか。なんでこんなところに?」
現れたのは、額から角が生えた馬で――。
「嘘⁉ ユニコーン⁉」
「誰がユニコーンだ! よく見ろ! 角は2本。どっからどう見てもバイコーンだろ!」
喋る馬はそう名乗った。ひとまず凶暴な魔物でなさそうでよかった……。
わたしは教科書をめくって目的のページを探す。
「なになに……? バイコーン。瘴気や悪しき心を好むとされる精霊……って! 悪しき心ってわたしのこと⁉」
「ちげェよ。俺は森の中をウロチョロする小娘がいたと思ったら、人間とは違う匂いがしたから見に来ただけだ」
バイコーンは鼻をフン、と鳴らす。
「そもそも、俺たちバイコーンは悪しき心なんて好きでもなんでもねえよ。瘴気の多い場所については居心地がいいからだな」
「でも、この森って瘴気の湧く場所なんてないよね?」
「それはだなァ……俺には野望があるんだ。聞きたいか?」
バイコーンはなぜか自慢げな表情を浮かべる。馬の見た目のくせに、なんでこんなに感情がわかりやすいんだろう。とりあえずわたしは耳を傾けた。
「胸と尻のでかい美人の姉ちゃんに会いたいから人間の国にいるってわけよ!」
バイコーンは鼻をふふんと鳴らした。
「……それだけ?」
「それだけとはなんだ!」
今度はぷんぷんと怒っている。わかりやすい。
「目的の人は見つかったの?」
「それがよォ……どうやらここには人間の子供はいても、大人の色気たっぷりの姉ちゃんは一人もいねえんだ」
心なしか、耳が下がって悲しそうなバイコーン。
「だからこの場所は離れるつもりだ。じゃあな。俺はそろそろ行くぜ」
ゴォーン――。
また鐘の音が聞こえた。
「今日はやたら鐘が鳴ってるな。これで3度目だ」
(まずい……早く戻らなきゃ……! でも精霊も見つかってないし……)
目の前にいる2本角の精霊、バイコーン。わたしはとっさに、彼にとんでもない交渉をすることに決めた。
「――あなたの角、1本だけ折らせてくれない?」
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