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お友達とふわふわのパンと家族

「初めての授業ってなんだか疲れちゃうね」

 わたしとミアはお昼休みということで、学園にある食堂へやってきた。同じく昼食をとろうと考えている生徒たちがたくさんいるようで、なかなかの込み具合だ。それでも、なんとか空いている席を見つけることができた。


「リリンはお昼ご飯何にする? 私はパンとスープ」

「うーん……せっかくだからミアと同じものにしようかな」

「わかった。一緒に取りにいこ?」

 教科書の入ったカバンを置いて、トレーを取りに行く。

 食堂のおばさんたちがトレーにこんがり焼けたパンを2つと、湯気の立つ野菜が煮込まれたスープを置いてくれた。


「じゃあ食べよっか」

「うん!」

 わたしはすごくワクワクしていた。人間の食事なんて初めてだ。昨日は疲れて食事もとらずに寝ちゃったし。

 パンを小さくちぎって口に運ぶ。

「すごい! パンがふわふわだよ!」

 思わず感動してミアに報告すると「もうっ、リリンったら喜びすぎだよ」と、くすくす笑ってくれた。

「学園では食堂で毎朝パンを焼いているみたいだよ」

「すごいすごい! じゃあ毎日こんなに美味しいパンが食べられるってこと⁉」

 なんて幸せなんだろう。学園に入れてよかった。最高の瞬間と言っても過言じゃない気がする。


 わたしの顔をじっと見ていたミアは質問する。

「そんなに珍しい? 実家ではあまりパンは出なかった?」

「え?」

 思わずパンを口に詰め込む手が止まる。

(こういう時、なんて言えばいいんだっけ?)

『――あなたは幼い頃から、国境付近の孤児院で育てられたことになっています。家族について聞かれても、決して本当のことは話さないように』

 ヴィオレッタ姉様に何度も繰り返し言われたことを思い出す。

「えっと……孤児院でもパンは出るんだけど、こんなに美味しいパンじゃなかったの」

「そうなんだ……じゃあたくさん食べないとね!」

「うん!」

 どうやら疑われずに済んだみたいだ。


 今度はわたしから聞いてみることにした。

「そういうミアはどうなの?」

「私? 私の家はお母さんがパン屋さんで働いていてね。毎日売れ残ったパンを持って帰ってきてくれるの」

「そうなんだ! 毎日美味しいパンが食べられていいなぁ」

 わたしがたくさんのパンに包まれる妄想をしながらそう言うと、ミアはちょっぴり苦笑いをしながら教えてくれた。

「まあね。でも、毎日だとさすがに飽きちゃうよ」

「こんなに美味しいのに⁉」

 なんて楽しい時間なんだろう。学園生活って最高! 美味しい食事と素敵なお友達。わたしの知らないものだらけだ。


「でも……お母さん身体が弱いし、弟たちもまだ小さいから……。わたしが治療魔術師になって稼げるようにならなきゃ」

 ミアは少しうつむきながら言った。

「そっか……」

(人間には家族がいるんだもんね)

 私の頭に、姉様たちの顔が浮かんだ。わたしたちサキュバスは魔力の脈と瘴気溜まりから生まれてくる。だから、血の繋がった家族というものは存在しない。代わりに、先に生まれたサキュバスが姉として子供を育てるのだ。

 人間の家族というものも本で読んだことがある。でも、実際にこうして家族の話を聞くのは初めてだった。

(ミアにとってのお母さんや弟って、わたしにとっての姉様たちみたいなものなのかな)


 しんみりとした空気を変えるために、わたしは明るく話しかける。

「ミアの弟たちってどんな子?」

「そうだなぁ……普段は仲がいいんだけど、二人が喧嘩してるとすっごくうるさいの」

「そうなの?」

「うん。どっちのお菓子が大きいかで揉めてさぁ……もう大変だよ」

「そうなんだ! わたしはね、両親がいない代わりに血の繋がらないたくさんのねえさ……お姉ちゃんたちに育てられたんだよ」

 これは嘘ではないけれど、これくらいなら怪しまれることもないだろう。きっと、ミアの家族を想う気持ちと、わたしの姉様たちへの気持ちは似ていると思う。

「お姉さんがたくさんいるの? なんだか賑やかそうだね」

「そうなの!」

 どんどん話が盛り上がっていく。ずっとこんな時間が続けばいいのに。


「ミアも学生寮で暮らすんだよね? お母さんや弟たちと離れて寂しくない?」

「うん。少し寂しい。だけど私ががんばらなきゃいけないもの。大丈夫だよ」

「そっか……」

 一人でいると、ヴィオレッタ姉様や実家にいるたくさんの姉様たちのことを考えてしまう。わたしだって寂しくないと言えば嘘になる。だけど、やらなきゃいけないことだってたくさんあるんだから。

「……わかった。わたしも寂しいけど……がんばる!」

「ふふっ。じゃあ一緒にがんばろうね」

「うん!」

 こんな会話をしていると、さっきまで感じていた寂しさが少しずつ溶けていくような気がした。


「……ところでリリン。パンのおかわりは貰いに行く?」

「行く!」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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