はじめての授業と古代言語とお友達
次の日の朝がやってきた。入学前はあんなに楽しみにしていた学園の授業も、今のわたしにとっては死刑宣告のようなものだ。
(治癒魔法を受けたら死ぬかもしれないなんて……!聖女科なんて、周りみんなが敵みたいなものだよ……!終わった……)
処刑台に上るような気持ちで聖女科の教室にたどり着くと、30人ほどの生徒がすでに集まっていた。
席はどこでも好きなところで構わないと言われたので、空いている場所を選ぶ。隣に栗色の髪を肩まで伸ばした女の子が座っているのが見えた。
「えー、では授業を始めます。」
目尻にシワのある男性の先生が教卓で話し始める。
「初級治癒魔法は古代言語でこのように書きます。意味は『神よ、我に治癒の光を与えたまえ』です」
先生が黒板に書いた古代文字を書き写すペンの音があちこちから聞こえる。
「では、発音を練習してみましょう」
わたしはノートの文字を目で追いながら、先生の発音を真似た。
「えーっと、『神よ、我に治癒の光を与えたまえ』……これでいいのかな?」
「リリンさん。発音が少し違いますね」
生徒たちの机の周りを歩き回っていた先生は足を止め、目の前でもう一度詠唱文を読み上げてくれた。
(うーん……難しいよぉ……)
自分では何が違うのかさっぱりわからない。お手本通りにやっているはずなのに。
先生は次に、隣の机の前で立ち止まった。
「おや、ミアさん。初めてにしては素晴らしい発音です」
「ありがとうございます」
さっきの女の子は嬉しそうに答える。
(いいなぁ……わたしも上手にできればいいのに)
そう思いながら、詠唱の練習を続けていると、チャイムの音が聞こえてきた。
「では、今日の授業はここまで。次回までに復習しておいてください」
休み時間、わたしは学校の中庭で何度も教科書とにらめっこしていた。
しかし、自分自身ではどこが間違っているのか見当もつかない。
「困ったなぁ……」
そう呟いて、少し背伸びをしながら顔を上げる。ふと向こうのベンチを目をやると、ミアと呼ばれた女の子が一人で座っているのが見えた。
(確かあの子って隣にいた子だよね? 先生に褒められてた子だ! 間違いない!)
自分の力でどうにもならないのなら、人に頼るしかない! わたしは今いる場所から立ち上がって木の方へと歩み寄った。
いざ近くまで来たものの、どう話しかけていいのかわからない。少し離れたところで立ち止まっていると、ミアがこちらに気付いた。
「えっと……何の用でしょうか?」
深いブラウンの瞳がわたしを見上げる。しまった! 挙動不審すぎたかも……⁉ 何か言わなきゃ……。
「ミアさん……だよね? わたしリリンって言います!」
思わず話しかけたはいいものの、ここからどうしたらいいのかわからない。えっと……姉様に貰った絵本にはどう書いてあったっけ?
「仲良くしましょ!」
(そうだ。『なかよくしましょ!』ってお友達になってたんだ! 覚えておいてよかった!)
しかし、わたしの予想と裏腹に戸惑った様子でこちらを見ている。
(あれ……? 何か変なこと言っちゃったかな……)
そわそわしながらじっと見つめ返すと、「ふふっ。いいよ。私はミア。ミアって呼んで」
彼女は笑いながら、わたしを受け入れてくれたようだった。
「ありがとう! ミア! すっごく嬉しい!」
「あんまり急だからびっくりしちゃった。ごめんね?」
「ううん! わたしこそごめんね」
お友達ってこんなに素敵なものなんだ! 心が弾む。でも何か忘れてるような……?
そうだ。治癒魔法の発音について聞かなきゃ。
「それでね! さっきの授業の治癒魔法の詠唱についてなんだけど……」
「ああ、それはこうやるんだよ――」
こうして、わたしは15年生きて初めてのお友達と呼べる存在ができたのだった。
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